【ショートショート】私達の関係
私にはフィアンセがいる。でも、最近、彼の様子がおかしい。もしかして他の誰かと会ってるんじゃ……。無いことを祈るけれど、もしいたら婚約破棄する。それはやむを得ない。
LINEを送っても前だったらすぐに既読がついたけれど、最近ではかなり時間がかかる。最悪、翌日に既読がつく場合もある。
会う頻度も前より減っている気がするし。私はフィアンセの亮を愛している。けど、亮はどうなのだろう。悪い方に想像してしまう。
以前、啓発本を読んでいた時、
[ネガティブなのはそのことについて本気で向き合っている証拠]
と書いてあった。
確かにそうかもしれない。私は亮と真剣に向き合っている。けれど彼は……。そう考えていくと苛立ちを覚え、挙句、悲しくなってくる。避けられているようにも感じる。
いったいどうしたらいいのかな……。直接、本人に訊いて否定されなかったらそれこそ関係が終わってしまう。だから仕方ないで済ませたくない。彼以上の男性にこの先出会う気がしないから。イケメンで身長も高く、スラっと痩せていて、高収入で清潔感がある。なおかつ頭がいい。
私の何がいけないのだろう、自分では一生懸命やってきたんだけどなぁ……。お金もかけたし。エステに行って肌を綺麗にしたり、髪色を変えるのを頻繁にやっていた。こんなに頑張ったのに、この有様。悲しくなってくる。でも、私は決めている、もう泣かないって。でも、そう決めてはいるものの我慢出来ずに溢れる涙は止まらない時もある。
泣き止んだ後、考えた。まだ、浮気をしていると決まった訳じゃないと。亮のことを信じたい。信じ抜きたい。だから、今後の彼の行動次第だと思う。私は手を抜かずにやっていきたい。自分の為に、そして彼の為に……。
こんなに亮のことを思っているのに、彼の態度は益々悪くなっていっている。私に対しての言葉遣いも乱暴になってきたし、彼からの連絡も来なくなった。そして私の気持ちはどんどん沈んでいった。
こうなったら直接彼に訊いてみるしかない。私は亮にLINEを送った。
<こんばんは。最近、あなたの態度がおかしいわね。連絡も来なくなったし。他に好きな人でも出来た?>
返信は翌日の朝来た。本文は、
<悪いな、最近仕事が忙しくてなかなか連絡出来なかった。好きな人なんか麻美以外にいないよ! 勘違いしないで欲しい>
<貴方の言葉遣いが乱暴になったのは何故?>
<ごめん、あの時は苛々してたんだ。ストレスが溜まっていて。でも、これは言い訳か>
<ストレス?>
<ああ。会社で失敗してこっぴどく叱られたんだ>
そういうことかと思ったけれど、
<そのストレスを私にぶつけないでよ>
と言った。亮は、
<悪い……>
<話なら聞くから、感情的にならないで>
<そうだな>
少し間が空いたあと私は、
<最近連絡くれなくなったよね>
既読はついたけれど返事はこなかった。彼は何を考えているのだろう。これでLINEのやり取りは一旦止まった。まただ。既読スルー。ムカつく!
この先私たちはどうなってしまうのだろう。友達の美嘉に相談してみようかな。彼女なら何かいい案をくれるかもしれない。そう思いLINEを送った。今は夜10時頃。起きていると思う。
<こんばんは! 何してたの? 相談があるんだけど>
だが返信はなかった。彼女は何をしているのかな。
翌日。私は眠りから覚めて、直ぐにスマホを見た。LINEは来ていた。時刻は朝8時15分頃。本文を見ると、文章が書いてあった。
<おはよう! 昨日は返信しようと思ったけど寝ちゃった。ごめんね>
そうだったんだと思い、
<いや、大丈夫だよ>
と強がってみた。本心はあまり大丈夫じゃなかった。不安で押し潰されそうだった。
<それで、相談って何?>
<あっ、うん。彼氏の話しなんだけどさ……。何か怪しいのよねぇ……>
<怪しいって何が?>
<浮気しているかもしれないの……>
<ええっ! そうなの?>
<うん、帰りも前より遅いし、私に対する口調も乱暴になってきたしさ。LINEも翌日にならないと既読が付かないの。どう思う?>
<うーん、そうなんだ。それは本人に言った?>
<言ったよ、でも仕事が忙しいとかで、はぐらかされた>
<仕事が忙しいはよくある言い訳だよね>
<そうなのよ、だから尚更疑ってしまうの>
返信までに少し時間がかかった。
<もう少し様子を見てみたらは? 焦るのは良くないよ>
<まあそうなんだけど。でも、もう充分様子を見たと思うんだ。だからはっきりさせたい。付き合い続けるのか、それとも別れるのか>
<もし別れるって言われたら麻美、納得いく?>
<……私だってほんとは別れたくないよ……。でも……仕方ないかなって……>
美嘉は黙っている。どうして何も言ってくれないのだろう。いつもならもっと励ましてくれるのに。そのことを伝えると、
<だって麻美、自分で答え出してるじゃない。だから何も言わなかったの>
なるほど、と思った。
<それにまだ別れるって決まってないでしょ>
<まあね、話し合わないとね。勝手に思い込んで落ち込んでても駄目だね>
<そうよ。ようやく気付いたわね。良かった>
美嘉のお陰で気付けた。やっぱり友達っていいなぁ。そう思いながら亮にLINEを送った。本文は、
<話したいことがあるから、早めに帰ってきて>
と短めにした。
私が送ったLINEを見たからか、いつもより帰りが早い。ちゃんと既読にもなっているし。私は自分のアパートはあるけれど、ほとんど彼の部屋にいりびたっている。依存してると言ってもいいかもしれない。だから、もし別れを告げられたらどん底の人生を味わうことになると思う。それも仕方ないで済まさなければならないの? それは、あまりにも酷な話だと思う。私は亮に話しかけた。
「話したいことがあるんだけど」
「なんだ?」
「私のこと……どう思ってる?」
「どうしたんだよ、急に」
「はっきりさせたくて」
「何をだよ」
「私たちの関係を」
「俺は麻美のことは大切にしたいと思ってるぞ」
そう言われて私は、
「本当にそう思ってる?」
彼に疑問を投げ掛けた。
「当たり前だろ! 何を言うかと思いきや、そんなことかよ!」
逆に怒られてしまった。
「それなら良かった!」
納得したように私は返事をしたけれど、彼が本当にそう思っているとは思えなかった。まるで、人間不信になったかのよう。気が付けば私は亮を信用していないのではないかと思い始めている。こういう場合どうしたらいいのかな。美嘉の言うようにもう少し様子を見た方がいいのかな。そう思い私は彼の行動を見守ることにした。何事も無ければいいけれど。
もし浮気を発覚したら問い詰めて別れるつもり。私ばかり寂しい思いはさせない。そうならないことを祈る。
了