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出逢い 10話 娘へのプレゼント

#プレゼント #ワンピース #みずくさい  

 日向からのLINEは夕方五時頃きた。ずいぶん時間がかかったものだ。

 仕事は残業だったのか? 詳しいことはわからないが、LINEの内容を見た。
〈六時半頃来てよ〉
 と、いうものだった。
〈わかったよ。それと、親父が千草に会いたいらしいんだわ。連れて行っていいか?〉
 そう返事を書いて送った。すぐに返信がきた。
〈え! お父さんも? うーん、それはごめん。無理だわ〉
 そうかぁ、残念だ。

 父にそのことを伝えると、残念がっていた。可哀想だけど仕方ない。

 夕飯はまだできていない。なので出掛ける支度を始めることにした。

 そうだ、夕食は日向と千草と僕で食べたいな。そう思ったので支度する前にもう一度LINEを送った。すると、
〈いやいや、一緒に夕食は摂らないよ。千草に会ってプレゼントもらったらすぐに帰ってよ〉
 なんだ、みずくさいなと思ったので、
〈そんなに早く帰るのか、冷たいなぁ〉
〈だって、会って何話す? 話すことなんかないよ〉

 そこまで言われたらそれ以上反論する言葉が見付からない。なので、返事はしないでそのままにしておいた。

 会ったらこっちからさり気なく喋っていれば時間も経つだろう。せっかく久しぶりに会うんだし。近況を話したり、最近の千草の様子を訊いたり、話しだしたら日向なら喋るだろう。

 時刻は六時過ぎ。そろそろ行くかと思って自室を出た。母から車のキーを借り、小さいトートバッグに煙草と財布とスマホを入れて家をあとにした。

 十分ほど車を走らせて日向と千草の住むアパートに着いた。古びたそこは時代に取り残されたようなアパートだ。雑草も伸び放題で、アパートはメンテナンスされていないようだ。これならきっと家賃も安いだろう。訊いたことないけれど。

 車から降り、サビたドアの前に紙袋に入ったワンピースを持ち、ブザーを鳴らした。ブーッとけたたましい音が鳴った。

 中から、
「はーい!」
 という高い声が聞こえた。千草の声かな、僕の愛娘。
 ガチャリと音がして鍵が開いた。僕は思わず笑みを漏らした。
「千草か? お父さんだよ」
 ドアが開き、
「お父さん! 久しぶりだね」
「おお、千草! しばらく見ないうちに大きくなったな」
 中から日向が顔を覗かせた。
「サダ。いらっしゃい。千草のプレゼントは?」
「あるよ、そう急かすなよ」
 僕は紙袋からワンピースを出して千草に渡した。
「千草、それ持って中に入りなさい」
「お父さんとお話ししたいよ」
 日向の表情が険悪になった。
「いいから中に入りなさい!」
 はーい、と千草はしょんぼりとしてしまった。
「何で。話しくらいさせろよ!」
 気まずそうに日向は俯いた。
「用は終わったでしょ。さあ、帰って」
 こいつ……。徹底して僕と千草を接しさせないつもりだな。ここで引き下がったらこれからもこのままだ。
「僕だって千草の親だぞ! 裁判で会わせないようにしたわけじゃないのになんでだ?」
「あなたとはもう関わりたくないの。千草もね」
 僕は納得がいかなかったので、
「日向、もしかして男でもできたな?」
 ニヤニヤしながら頷いた。
「やっぱりか!」
「サダだって彼女いるんじゃないの?」
「ほしいけどいねえよ!」
 欲しいんだ、と日向は呟いて笑っていた。
「自分の子どもに会うのと、日向に彼氏がいるのは関係ないから一ヶ月に一回は千草に合わせろよな」
 なかなか引き下がらない僕に諦めたのか、
「……わかったわ、仕方ない」
 僕は、よし、と言って、
「じゃあ、来月また来るわ」
「わかった、来る前に必ず連絡ちょうだいね!」
「当たり前だ、日向の彼氏になんか出くわしたくないからな!」
「それじゃあね」
 そう言って彼女は家の中に戻った。

 今回は千草にあえてなけなしの金で買ったワンピースも渡せたし。良しとしよう。本当はもっと話したかったけど。

 僕は自分の車に乗り込んでシートベルトを締め、エンジンをかけた。もう一度、日向と千草の家を見てから発車した。

 次会えるのは来月だ。楽しみ!

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