【連載小説】一途な気持ち 8話 残念無念
俺は、大好きな田中律子のメールを今かいまかと待っている。時刻は20時30分過ぎ。ピロリンとメールの着信音が鳴った。スマートフォンの画面を確認してみると、田中律子、と表示されている。本文を見た。
<用意できたよ、待ってるね>
俺もメールを送った。
<わかった、今迎えに行くわ>
俺は既に用意はできていたので、すぐにアパートを出て車に乗った。俺の服装は白いTシャツに柄が入っている。下は、黒いハーフパンツを履いている。
20分くらいで律子のいる宿舎に着いた。俺は電話をかけた。2回目の呼び出し音で繋がった。
「もしもし、着いたぞ」
『うん、あのね、せっかく来てくれたんだけど、お父さんが車で事故ったらしいの。それで、お母さんはもう救急車で運ばれた病院に行ってるみたいなんだけど、わたしも行かなくちゃならなくなって……』
「あ、そうなのか。俺がそっちに向かってる間、事故ったのか?」
『そうだと思う。着く前に大輔に電話しなくちゃと思ったんだけど、お母さんとお父さんのことで電話で話ししてて連絡できなかった。ごめんね、来てくれたのに』
「そうなのか、わかった。じゃあ、俺帰るわ。落ち着いたら連絡くれ?」
『わかった。ほんとごめんね』
「いや、いいよ。そういう事情なら仕方ない」
『ありがとう、それじゃ』
そう言って電話を切った。
そうは言っても今日話したかった。だから、残念でならない。俺は律子に会うこともなく車を発進させた。町に出て、コンビニに寄って500mlの6缶パックのビールと肴を買って帰宅した。それはタラの干したもの。駐車場に車を停め、リモコン式の鍵でロックした。家の鍵も開けた。部屋に着いて俺は体の力が抜けた。訊きたいことが訊けなかったからだろう。今は21時30分頃。壁掛け時計はそう時間を刻んでいる。やけになって俺はビールの栓を開け、グビグビっと呑んだ。
「畜生!!」
と声を荒げた。頭では仕方ないとわかっていても、気持ちが伴わない。部屋のスイッチを入りにし、電気をつけた。俺はムカつくと物に当たる癖がある。これもよくないとわかっていても、やってしまう。今日はゴミ箱を思い切り蹴とばした。たくさん入っていたゴミが空を舞う。ゴミ箱は硝子の窓にぶつかりヒビが入ってしまった。
「なんで、よくないことばかり起きるんだ!」
俺は独りで怒鳴った。窓硝子も親に言って新しいのと変えてもらわないといけない。きっと自腹だろう。