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出逢い 3話 紹介
今日、僕は田端四郎から友達を紹介してもらう予定。男と女らしい。どんな人? と、訊いても直接会ったほうがいい、その方が分かりやすいだろと言われた。まあ、確かにそうだけれど。僕としては心の準備の為に聞いておきたかった。でも、それが叶わない今、直接会って話すしかない。元はと言えば僕が言い出したこと。田端の意見も聞かなくては。
今の時刻は、18時頃。田端は先程僕にLINEをして今、こちらに向かっているらしい。彼の家は隣町にある。なので、車で15分くらいかかる。田端の車の方が友達も安心するだろう、と彼の気遣い。なかなか優しいところもあるじゃないかと感心した。
彼等との待ち合わせの時間は19時頃。僕の家の近くにある公園の駐車場で会う予定。
僕は、黒いカットソーにグレーのダウンジャケット。ダメージジーンズをはいた。
予定通り18時15分過ぎに田端から連絡があった。
『もしもし、田端。着いたんだろ?』
「ああ。サダの家の前にいるよ。来てくれ」
『了解』
僕は財布に3000円だけ入れて、残りの2000円はベッドの下に隠した。これで足りるだろうか。夕食を摂って、ジュースを飲んで。残した2000円は煙草代に充てよう。これは働かないと駄目かな。嫌だな。そう思いつつ、家を出た。母には、出掛けてくると行ってある。
外は雪がチラついていた。今は、12月上旬。もう少しでクリスマスがやってくる。今年も寂しい思いをするのか、と考えると憂鬱になる。彼女が欲しい、と思ってもこんな無職の男を好きになる女はいないだろう。顔だってブサイクだし。僕が好きになるような女はいるのかな。新しく出逢う女が可愛いければ好きになって攻めるかもしれないけれど。会ってみないと分からない。
19時までにはまだ時間がある。田端に、
「時間があるから家で待たないか?」
と、言うと、
「うん、そうするか」
そう答えた。
自宅のドアを開けて、ガラガラと音がしたら、居間から母が出て来た。
「あら、田端君じゃない」
「こんばんは!」
と、彼は挨拶をした。
「はい、こんばんは。しばらく顔見なかったけど、元気だったかい?」
「ええ、元気ですよ。おばさんも元気そうですね」
母は笑顔を浮かべながら、
「そうね、ありがとう」
僕が会話を遮って、
「僕の部屋に行こう」
そこで母は、
「あんた、今、田端君と喋ってるじゃない!」
「田端も困るだろ」
彼は苦笑いを浮かべて、
「サダ、いいんだ」
すると、
「じゃあ、話し終わったら来てくれ。僕は部屋にいるから」
「あら、定男怒っちゃたかしら。ごめんね、引き留めて」
「いえ、じゃあ行きますね」
という話が聞こえた。
僕は自室で田端を待っていると、
「お待たせ」
言いながら入ってきた。
「悪いな。家の母親、ちょっとでも知ってたら誰にでも話しかけるんだ」
申し訳ない気持ちで僕は言った。
「いや、いいのさ。おばさんのことは悪く思ってないよ」
僕は優しい奴だなと、思いながら、
「サンキュ」
と、答えた。
「適当に座ってくれ」
「ああ」
彼は部屋の中央にあぐらをかいた。その向かいに僕は木製の椅子に座った。
「あと、三十分くらいしたら逢えるな」
僕はそういった。すると田端は、
「あのふたり、時間どおりに来ればいいけど」
「え? どういうこと?」
「時間にルーズなんだ。とくにいちこちゃんのほうが」
「いちこちゃん?」
「ああ、女の名前。角沢いちこっていうんだ」
へー、と内心思っていた。
「男のほうはなんていう名前だ?」
「うーん……。本当は本人から訊いてほしいんだけど、話の流れだから仕方ない。杉山だ。杉山幸太郎」
いくつだろう? と思い訊いてみた。すると、
「それこそ本人たちにきいてくれ」
「ケッ」
と、僕は唾を吐く真似をした。
煙草に火をつけ大きく吸いこんで吐いた。
「あいかわらず吸ってるのか」
田端はいう。
「ああ。たまにな。一日四、五本だぞ。少ない方だろ」
僕がそういうと、
「一本でもすったら喫煙者にはかわらんだろ」
彼は笑いながら言った。僕はムッときた。なので、
「そんなに笑うことないだろ!」
と、つよい口調でいった。すると、尚更笑った。やれやれ……。しかたない。僕は言い返すのを諦めた。
そんなこんなで19時になった。
「おっ、そろそろ来るかな」
田端は言った。僕はどんな人達なんだろうと思うと緊張してきた。そのとき。田端のスマートフォンが鳴った。着信音は、少し前にヒットした曲。さすが田端。流行に敏感だ。
「もしもし、いちこちゃん?」
『今、待ち合わせの公園の駐車場にいるけど』
「ボクは紹介する友だちの家にいるんだ。杉山さんももう少しでくるはずだから今から向かうわ」
『わかった。待ってるね』
田端は笑顔でこちらを向き、
「公園に行くぞ」
と言った。
「うん、わかった。時間通りに来たな」
「そうだな、珍しい」
僕は田端の車の助手席に乗った。車は乗用車だ。レッドの。名前しかわからないけど、杉山さんといちこちゃん。向こうの車はホワイト。運転席から出てきた男性が杉山さんで、助手席がいちこちゃんというようだ。
「寒いからボクの車に乗ろう」
そう言って田端の車に四人で乗り込んだ。そして、自己紹介をした。まずは僕から。
「えーと、田端と仲がいい、鈴木定男といいます。サダと呼んでね! よろしくおねがいします。ちなみに36歳です」
いちこちゃんは僕の年を聞いたからか目を丸くして、
「私達より年下なんだ」
と、言った。
「次は、いちこちゃんいい?」
と、田端は彼女を促した。
「私は角沢いちこっていうの。38歳。家が牧場でお手伝いしてるよ。好きなことは乗馬をすることと、動物がすき。嫌いなことは、動物をいじめる人。子どもはいないよ。馬が子どものようなものだから。でもね、最初に言うけど産まれつき右手の指がないの。自己紹介はこれくらいかなぁ」
いちこちゃんは、自己紹介のあと右手を見せてくれた。確かに指が全てない。何故だろう。でも、さすがに訊けないので黙っていた。すると、
「この右手ね、生まれつきなの」
と、訊いていないけど打ち明けてきた。
「そうなんだ。教えてくれてありがとう」
僕はそう言った。
「じゃあ、つぎ杉山さんいいですか?」
「ああ。いいよ。ボクは杉山幸太郎。いちこと同い年の38歳。この年で大学に通ってる。臨床心理士になりたくてね。バツイチで子どもは2人いるよ」
僕は心の中で、この年で大学いくのは凄い! と思った。なので、
「杉山さん、すごいですね。その仕事に就くのはなかなか難しいと思いますけど頑張って下さい!」
と、力をいれて言った。
「ありがとう!」
彼も力強く言った。その後いちこちゃんが、
「そういえば、サダくんは友達を紹介して欲しいと言っていたらしいですね。杉山くんは大学で勉強して頑張っているけど、私は普通に働いてるだけだし。こんなんで鈴木くん良いの?」
そう言われて僕は戸惑った。
「え? 十分じゃないですか。働いて生活するのは」
「そう? ならいいけど」
いちこちゃんは気落ちした表情に見えた。どうしたというのだろう。
「どうかしましたか」
僕は、いちこちゃんに話しかけた。
「いや、会ってそうそうこんなこと言いたくないけど、たまに馬糞臭いって言われることがあってね。それで訊いたの」
田端はすぐに反応して、
「そんなひどいこという人いるんだね。そんなことないけどね」
と、言った。
「ありがとう。そう言われたときは辛かった」
「ですよね」
僕が言った。
「ごめんなさい、暗い雰囲気させちゃって」
いちこちゃんは呟いた。
「そんなことないよ」
今度は杉山さんがバッサリ切り捨てるように言った。まるで、いちこちゃんを守るかのように。
「杉山くん、ありがとね!」
「なんもだよ」
杉山さんは照れたように頭を掻きながら言った。