病と恋愛事情 十九話 見舞い
麻沙美から突然仕事中に電話がかかってきた。どうやらさくらちゃんが事故に巻き込まれて救急車で市立病院に搬送されたようだった。
今、俺は仕事中。だけど、麻沙美から電話がきた。
「もしもし」
事務所にいたのでタイミングがよかった。これがレジうちをしていたらでれなかった。
『晃! さくらが事故に巻き込まれた……』
「え! マジか。今どこにいるんだよ!」
『さくらとあたしは救急車で運ばれて市立病院にいる』
「さくらちゃんの容態は?」
『胸を強くうったらしくて、肋骨が折れたみたい……』
「そうか……」
『どうしよう、晃! さくらの身になんかあったら……』
俺はそんなことを言う麻沙美に腹がたった。
「縁起でもないこと言うなよ! とにかく今は助かることを信じないと」
麻沙美は堪えきれず、すすり泣きしているようだ。
『麻沙美! 気持ちを強く持つんだ!』
とうとう彼女は嗚咽を漏らし始めた。
「……うん、ありがとう」
それから約三時間後――
再び電話がきた。
「麻沙美、どうなった?」
『手術成功したよ!』
「おお! よかったじゃないか」
『うん、よかった! 勇気付けてくれてありがとう!』
「仕事終わったらまた電話するから。さすがにプライベートの長電話はやばい」
『わかった』
と、言って電話を切った。
午後六時を少し回ったところで俺は退勤した。車の中で麻沙美に連絡した。
「もしもし、麻沙美。大丈夫か?」
『晃! 連絡ありがとね。今は、さくらのいる病室にいるよ』
「見舞いに行くわ。何号室だ?」
『303号室よ。待ってるから気を付けてきてね』
そのあと電話を切って市立病院に向かった。
四十分ほど、車を走らせ市立病院に到着した。その時に俺はかなり疲れていて、幻聴が聞こえてきた。
しねばいいのに
ころすぞ
など、なんでそんなことが聞こえてくるのかわからなかった。不気味と感じていたそれも今では慣れて、またか嫌だな、と思う程度になった。一時は、現実と幻聴の区別がつかなく混乱した時期もあった。でも、服薬のおかげなのだろう、区別がつくようになった。やはり、疲れている時が注意しないといけないみたいだ。まあ、仕事で疲れるのは当たり前だが。
せっかく見舞いに来たのだから病室に行かないと意味がない。なので、疲れた体に鞭を打って向かった。
303号室だから、三階だろう。一階の自動販売機で俺と麻沙美の缶コーヒーと、さくらちゃんのアップルジュースをペットボットルで買った。
初めて来る病院なので建物の造りがよくわからない。
玄関から入って、左を曲がったところに売店がある。既に閉店していたので自販機で飲み物を買ったということだ。売店の向かいに院内の経路図があったので見た。俺の現在のいる位置をまず見付けた。ふむふむ。まっすぐ行って右に曲がればエレベーターがあるのか。だいたいわかったのでその通り行ってみた。
確かにエレベーターがあった。ここから三階に行って303号室に行けばいいんだな。そう思いボタンを押し、ドアが開いたので乗った。
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