死と出会い 23話 微妙な表情
今日は中学校に行って絵里ちゃんからの交際の申し出を断らないといけない。なんたって僕の憧れていた麗香と付き合えることになったのだから。
三馬鹿トリオと呼ばれるくらい仲のよかった僕と愛理と雄二はバラバラになってしまった。雄二に関してはもうこの世にいないけれど。せめて愛理とは親友でいたかった。
まずは絵里ちゃんに交際を断りに行かないと。今日、帰宅途中にでも中学校に寄っていこう。放っておくという手もあるが、それは卑怯なやり方かな、と思ったのでやめた。
今はお昼休み。いつもなら愛理やクラスメイトとおしゃべりをしているが、そういう気分でもない。なので、自宅で読んでいるミステリー小説を持って来ているので読書をしている。
二十分くらい小説を読んで教室の窓の外が気になり覗いてみた。外は晴ればれとしていた。クラスメイトがサッカーをしている。それを応援しているのは愛理とその友達だった。彼女はもう僕のそばには近づいてこないかもしれない。でも、それも仕方のないことだ。僕は愛理の気持ちに答えることはできないから。自分の席に戻り、再び読書を開始した。
今日の放課後は男子も女子もバスケの部活動はない。なので麗香さんと一緒に帰れるだろうか。予鈴が鳴り、グランドの生徒は全員校内に戻ってきたようで2組にも同級生が次々に戻ってきた。
帰りに校庭を見渡した。麗香さんの姿はない。帰ってしまったかな、と思い歩き出すと後ろから、
「お疲れ!」
と声を掛けられた。
「あ。お疲れ様です」
僕は自然と笑みがこぼれた。
「一緒に帰れるの?」
積極的な麗香さん。僕は、
「帰れますよ」
思ったことをなかなか口にできない性格の僕は、麗香さんを探していたんです、とは言えなかった。そこで彼女は、
「うちら付き合っているんだから、秀一、敬語で話さないでため口で話そう? 名前だってうちも秀一って呼び捨てにしてるから、麗香でいいよ」
と言った。でも、
「ため口はいいかもしれないけど、本当に呼び捨てでいいの? みんなの前でも?」
と訊いた。
「あ、ごめん。みんなの前では『さん』付けでもいい?」
「もちろんだよ」
「歩きながら話そう?」
「うん。そうしよう。実は帰り中学校に用事があって」
言うと麗香は不思議そうな顔つきになった。
「中学校? 何をしに?」
言いにくかったけど、思い切って言った。
「実は、中学生のなかに僕のことを好きだという子がいるんだよね。それで、彼女ができたから断ろうと思って」
麗香は苦笑いを浮かべている。そして、
「うちは中学校には入らなくてもいい? その子に会うのは気まずいわ」
と、俯きながら言った。
「それはもちろんだよ。気まずいのは当然だからね」
歩いているうちに、中学校が見えてきた。
「じゃあ、うちは先に帰ってるから終わったら連絡ちょうだい」
「わかった」
連絡はするけれど、そう言った時の麗香の表情は微妙だった。
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