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おれの闘病生活と裏切り 2話 ひもじい思い

 最近、妻のスマホが頻繁に鳴るようになった。LINEだと思う。誰からだろう。男か、まさかな。きっと、女友達からだろう。うん、そうに違いない。おれは自分にそう言い聞かせた。

 いま、おれは自宅にひとりでいる。息子は施設に行っているし、妻の篤子は仕事に行っていて不在だ。彼女はスマホを忘れていった。その間にLINEのピンポーンていう着信音が二回鳴った。おれはあえてだれからきているのか見なかった。理由はもし、男だったらショックだから。

 篤子は10:00~15:00の勤務でいまの時刻は11:46とスマホに刻まれている。食欲があまりないということを篤子に、言ったら
「食べなきゃだめよ!」
 と、叱責された。心配して言うのだろうけれど、食べたくないのに「食べろ」というのは酷ではないか。万が一、無理矢理食べて吐いてもいやだし。

 そろそろお昼ご飯の時間だ。今日もインスタントラーメンとライスだ。徐々に飽きてきた。でも、はたらいていないおれにぜいたくなことは言えない。それでなくても万年貧乏生活なのに。

 早くはたらけるくらいに体調をもどさないと。医者はあせってはだめと言うけれど多少無理してでもはたらかないと生活が成り立たなくなってしまいそうで不安。いくら生活保護をもらっているとはいえ。はやく脱したい。病院にいくときもわざわざ医療券取りにいかないといけないし、歯医者いくだけでも医療券出すから生活保護だってバレる。いやだ。もちろん、車にも乗れないし。それが一番不便。おれが病気になったせいで妻にも迷惑をかけてしまっている。それでも離れないでいてくれる篤子に感謝しないと。

 おれは立ち上がり台所に行きやかんに水を入れてガスに火をつけた。いったん居間にもどり煙草とライターを持ち、再度台所にもどり換気扇のしたで煙草を吸い始めた。煙草もやめなきゃな……。

 数分でやかんに入れた水が沸騰した。あまり食べたくないな、と思いながらもカップ麺のふたを開け、調味料を入れてからお湯を注いだ。もわんと湯気が立ち昇る。すでに煙草は吸い終わっていた。3分待てば食べられるが、5分待つことにしている。そのほうが麺がやわらかくなって食べやすい。インスタントラーメンとライスかぁ……。寂しい……。いい加減そう思うようになってきた。

 そういう気持ちを抱きつつ、おれはラーメンをすすった。正直、我慢なんかしたくないけれど、仕方ない。働かざる者食うべからず、とはこのことだ。病気になり、お金がなくなるとこんなひもじい思いをしなくてはならないとは。
「カネ……か……」
 と、独り寂しく呟いた。

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