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出逢い 7話 習字教室を開きたい
田端四郎からLINEが来たのは夜6時頃。本文は、
〈オッス! 謝れだと? 何だか穏やかじゃないな〉
酔った席だからと少し思ったが、杉山さんやいちこさんはどう思っているだろう?
確認してみて、2人が気にしてないようなら僕も田端を許す。でも、気にしているようなら謝ってもらう。
僕は杉山さんといちこさんに同じ文面のLINEを送った。
〈こんばんは! この前飲んだ席で田端が杉山さんといちこさんに迷惑かけたこと、気にしてますか?〉
いちこさんは、6時30分頃LINEがきて、7時頃に杉山さんからLINEがきた。内容は2人とも気にしてないよ、というものだった。よし、これで田端を許せるからそのLINEを送ろう。早速、田端にLINEを送った。
〈今、2人に訊いたらこの前のこと気にしてないよってよ。だから、あやまらなくていいよ。それで、話があるんだけど、〉
気づいていないのか、今度は田端が気分悪くしたかは分からないが、今日は彼からLINEは返ってこなかった。
翌日の朝7時過ぎに田端からLINEがきた。
〈おう! おはようさん。昨日のLINEはさすがに返す気にならなかった。でも、今は大丈夫だよ〉
やはり、そうか。僕は返信した。
〈おはよう。杉山さんやいちこさんは気にしていないと言っていたからお前を許すよ。それで話なんだが、僕、習字教室を開こうと思ってるんだ。そこで、田端の力を貸してほしいと思ってるんだ〉
一瞬、間が空いた。
〈ボクの力? 何だよ、資金の話か? 金ならないぞ〉
僕はそれを見て思わず、金じゃねーし! と心の中で叫んだ。
場所は僕の2階の2部屋を使おうと思っている。アコーディオンカーテンで仕切られた部分を全開にして、母から長テーブルを6台買うお金を借りよう。いくらするだろう?3、4万あれば足りるかな?
借りたお金は生徒の月謝で払おう。田端にLINEを送った。
〈田端には、設置する長テーブルとかを運んだり組み立てたりするのを手伝って欲しい〉
返事はすぐにきた。
〈そうなのか、それなら手伝ってやる〉
〈とりあえず、親がお金貸してくれるか訊いてみるわ〉
〈何だ、まだ訊いてなかったのか〉
と、鼻で笑われた。
〈だからちょっと待っててくれ〉
田端は、わかったよ、と言い電話を切った。
そのあと僕は早速、母に話をした。母は居間にいるはすだ。
行ってみるとやっぱりいた。
「母さん、話がある」
急に改まって話しかけたからか驚いている様子。
「どうしたの?」
「お金貸してほしい」
「え? いくら?」
「4万くらい」
金額を言ったからか更に驚いている。
「何に使うの?」
「僕、習字教室を開くんだ。そのための資金」
「定男! あんた何勝手に決めてるの! 駄目だよ、習字教室なんて」
僕は頭にきたので、
「何でだよ! 特技を生かした仕事だからいいじゃないか!」
「あんた、月謝ったって生活できるだけ貰えると思ってるの? 甘いよ!」
僕はチッと舌打ちをした。
「母さんは、僕がやりたいことをいつも反対するよな!」
「そんなことはないよ! ただ、知らない子達が来るでしょ? 私はそれが嫌だというのもあるの! あんただけの家じゃないのよ!」
母の言っていることは分かる。やっぱり、いつも母が言うようにハローワークに行って職を探すべきなのか。悔しいけれど。
田端に再度LINEを送った。
〈習字教室だめだ、母が反対してて開けない。普通にハローワークで仕事探すしかないわ〉
少しして返信がきた。
〈そうなのか、残念だな。まあ、確かに習字教室じゃあそんなに収入にならんかもな〉
田端は母と同じことを言っている。畜生!