情緒不安定

病と恋愛事情 二十話 情緒不安定

気持ちは早くさくらちゃんのところに行きたいと焦っていた。

なかなか降りてこないエレベーターに苛立ちがつのる。

数分後、ようやく一階に降りてきて「開くボタン」を何度もおした。

早くさくらちゃんの様子をみたかった。

血のつながりのある子ではないが、惚れた女の子どもだから特別だ。

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 気持ちは早くさくらちゃんのところに行きたいと焦っていた。

なかなか降りてこないエレベーターに苛立ちがつのる。

数分後、ようやく一階に降りてきて「開くボタン」を何度もおした。

早くさくらちゃんの様子をみたかった。

血のつながりのある子ではないが、惚れた女の子どもだから特別だ。

チーン、という音とともにエレベーターの扉が開いた。

俺は急いで乗り込み扉を閉め「3」のボタンを押した。

2、3、と上のほうにある数字が順番に光りながら上昇していく。

一分もかからずに三階に到着し、俺は走って麻沙美が教えてくれた部屋にむかった。

「303はどこだ!」

と、病棟を見て回ると、

「あった。ここだ!」

名前のところを見ると四部屋なのだろう、右上に平さくら、と表記されていた。

部屋に入ってみると、カーテンで仕切られているところがある。きっと、ここにいるのだろう。

「麻沙美。さくらちゃん。ここにいるのか?」

俺はあえてカーテンを開けずに言った。もし、違ったらまずいから。

「あ、晃?」
と、麻沙美の声がした。

「さくらちゃんもいるんだろ? 開けていいか?」

そう言うと俺より先に麻沙美がカーテンを開けた。シャッという音とともに。

目の前には、お腹のあたりにギブスをつけて痛々しい姿のさくらちゃんがベッドによこになっていた。

「さくらちゃん、だいじょうぶかー?」

つい、情けない声になってしまった。わが娘のような気分とはこういうものか。

彼女は真顔で、

「なんとか大丈夫」

と、力なく言った。

「心配だよ、俺は」

母の麻沙美は、

「まあ、肋骨は折れたけど内臓に刺さったわけじゃないから、まだよかったよ」

と、言った。

「それはそうだけど、でも、大変だったな。さくらちゃん」

「まあね」

俺は疑問に思っていることを麻沙美に訊いた。

「それで、さくらちゃんをひいた犯人はどこに行ったんだ?」

「自首したらしいよ」
そうなのか、と思いながら俺はうなずいている。

「事故った時はその人、めっちゃ謝ってたらしくて、いい人そうだったんでしょ?」

と、麻沙美はさくらちゃんを見ながら言った。

「うん、でもひかれた時はホント怖かった……」

俺は同情の念に駆られていた。

「かわいそうに……。できることならそいつを殴ってやりたい!」

俺は威勢よく言った。だが、

「そういうことはやめて!」

と、さくらちゃんは必至になって言った。

「晃も言ってるだけでしょ?」

と、麻沙美は言うと、

「そんなことない!」

俺は怒鳴った。

「晃さん大きな声あげないで。らしくないよ」

さくらちゃんは半べそをかいている。

「晃。事故のせいでさくらは情緒不安定になってるの。だから、いつものように優しい態度でいてね」

「そっか。そういうことか。わかった。ごめんな、さくらちゃん」

背を向いてしまったさくらちゃんは、「うん」とだけ言った。

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