死と出会い 31話 いじめと彼女との関係
同じ学校の同級生が僕に助けを求めている。
上級生にカツアゲされたらしい。
かわいそうに。
自殺した僕の親友の中沼雄二の二の舞には絶対させたくない!
被害にあったのは下河原勝司という。
校庭で待っているらしいので、僕は急いで向かった。
自転車で10分くらいかかって校庭についた。
その頃には先生と下川原は喋っていた。きっと、カツアゲの話だろう。
近づいてみると、先生と下川原は僕に気付いてこちらを見た。
「おー、外川! 話は下河原から聞いてるぞ」
と、先生は言った。
その先生はバスケ部の顧問の宮崎先生だ。
僕は自転車から降りて2人の元へ行った。
「宮崎先生、どうしたらいいですか?」
「下河原をカツアゲした奴はだいたいわかった。いわば、問題児ってやつだ。他にもカツアゲや暴力を受けた生徒がいるんだ。こっちで何とかするからお前らは下手に動かないでくれ」
「わかりました」
と僕は言い、下河原は、
「財布どうなるんですか?」
彼は不安気な表情だ。
「それも含めて調査する」
「わかりました。よろしくお願いします」
「明日にでもその生徒と話してみるから」
「はい!」
僕は、
「もう帰っても良いのかな?」
と、言うと、
「外川、悪いな。せっかく来てくれたのに」
宮崎先生はバツの悪そうな顔をしていた。
「いえ、きっと僕と話すより、先生と話した方が良かったと思うので」
「そう言ってくれると俺も話を聞いた甲斐があるよ」
と、宮崎先生は言った。
「暗くならない内に帰るんだぞ」
と、言いながら先生は校内に戻って行った。
僕は、下河原に話し掛けた。
「解決するといいな」
「全くだよ。財布の中にはあと半月分の小遣いが入っているんだ」
「マジで? それは一刻も早く取り戻したいな」
「そうなんだよ」
下河原は落ち込んでいる様子。
「宮崎先生に任せておけば大丈夫だと思うぞ。だから、元気だせよ」
「この件が解決しないと元気は出ないよ」
僕は内心(確かに)と思った。口には出していないが。
「そういえば、外川はバスケ部の先輩と付き合ってるって本当か?」
よく知ってるな、と思った。
「ああ、付き合ってるよ。それがどうかしたのか?」
今だけだと思うけど、と下河原は口に出しそこで止まった。
「うん? その先の話は何だよ?」
「気にしないで聞いてくれ。バスケ部とバレー部の中で噂になってるぞ。あいつらできてるのかって」
「まあ、確かに堂々と一緒に帰ったりしているからそういう話が出てきてもおかしくはないよな」
下河原は驚いた様子で僕を見ている。
「気にならないのか?」
「なるっちゃ、なる」
「だよな、彼女は気にしてないのか?」
「さあ、訊いたことないわ」
「2人揃って強いよなぁ」
僕は手を振って否定した。
「そんなことないよ。普通、普通」
「本当に普通かよ」
「ホントだよ」
「ボクには到底真似できないや」
僕は笑ってしまった。
「好きな人といたら、周りの目なんて気にならないよ」
「そういうもんかな」
「そういうものだよ」
僕は自信あり気に言った。
「経験者は語るか」
「そういうことだ」
そろそろ帰るか、と口ずさみ僕らは解散した。
帰って夕ご飯が出来ていた。
遅かったじゃない。と、母。
まだ、夕飯前だろと、僕。
お父さんだって帰ってきてるのに。
「秀一。どこに行ってたんだ?」
「ちょっとね」
今は19時前だ。
「人様に迷惑をかけることだけはするなよ」
わかってるって、と僕は言った。
迷惑をかけられているのは僕のほうだ。言わないけれど。まあ、同級生のためだから仕方がない。
まるで、親友のために行っているようだ。
親友ではないけれど。
この言い方も酷いかもれない。
でも、下河原と親友でないのは事実だし。
まあ、それはさておき。
宮崎先生は解決してくれるだろうか。
上級生に殴られなければいいが。
そんなことをしたら停学か退学になるだろうけど。
宮崎先生は体格が良いからきっと生徒一人くらいなら取り押さえるだろう。
夕食を摂るかな。
今夜は焼肉とサラダだ。
美味しそう
「いただきまーす」
僕がそう言って食べ始めると父は、
「秀一、今日は随分元気じゃないか。何でだ?」
そう言った。僕は、
「いや、普通だよ」
と、答えた。
「何か良いことでもあったのか?」
内心では麗香と話せたし、同級生の下河原の一件も何とかなりそうだし。ただ、これらを説明するのが面倒だ。付き合っている彼女がいることは父にも言ってないし。と、いうか、言う気もないし。
いろいろ訊かれるのが嫌だ。面倒としか言いようがない。
翌日の学校も麗香に会えるだろうし、宮崎先生の話も聞けそう。
「旨い!」
「でしょ? 今日、お父さんの給料日だから奮発したのよ。あんたもお礼言いなさい。いつもご飯食べさせてくれてありがとうって」
「思ってるよ。恥ずかしいじゃないか。改めて言うの」
「何が恥ずかしいの」
「あんた、そんなにシャイだった?」
母は言う。
「ていうか、普通は恥ずかしいと思う」
「あんたが言う普通の基準が分からないよ」
更に母は続ける。
「あー、もう! 父さん、ありがとう! これでいいだろ」
「アッハハ! 言えるじゃない」
「言えるよ! 最初から素直に言うことはできないけど」
父は苦笑いを浮かべている。
「まあ、いいだろ」
観念というか諦めというのか僕は父から目をそらした。
僕は、夕飯を食べた後、自室に戻った。
そして、麗香にLINEを送った。
[こんばんは! 今日、同級生の下河原勝司って奴が上級生にカツアゲされてたみたいだから話を聞いてあげたよ。結構、ショック受けてたわ。結局、宮崎先生に見られて、事情を話した。先生が何とかしてくれるみたい]
麗香は食事中なのか、風呂にでも入っているのか、すぐには返信はこなかった。
約1時間経過した頃、ピロンと着信音が鳴った。
開いてみると、麗香からだった。
[そうだったんだ。お疲れ様。偉いじゃない。友達助けてあげたんだね]
僕はすぐに返事を打った。
[と言っても、上級生と話すのは宮崎先生だから、直接的なものじゃないよ]
[まあ、そうかもしれないけど、お話聞いてあげただけでも素晴らしいと思う]
[そう? ありがとう! 麗香に言われると嬉しい]
[そうなんだ。よかった(笑)]
と返ってきた。
[麗香の声が聴きたいなぁ]
[通話する?]
僕は返信せず、LINEの通話ボタンを押した。
相手はすぐに出た。
「もしもし」
僕は嬉しい気持ちになった。
『はーい。秀一、明日は部活だよ。覚えてる?』
「あっ! そうだった。忘れてた、ありがとう、教えてくれて」
『やっぱりかー』
僕は思わず吹きだしてしまった。
「訊いていい?」
『何?』
「麗香は僕と話して嬉しい?」
少し間が空いた。この間は一体何だろう?
『そりゃ、もちろん楽しいし嬉しいよ』
「そうなんだ。よかった」
少しの疑問は残ったがまあいい。
『秀一は? うちと喋ってて楽しい?』
「もちろんだよ!」
僕は勢いよく言った。すると、
『速攻だぁ! ありがとう! 嬉しい』
僕は、麗香にさっきの間は何だろう? と訊きたかったけど、グッと堪えた。
彼女は僕を裏切ることはないと思う。多分。
でも、何だか嫌な予感がする。
もし、麗香が僕を振ったら、僕はどうしたらいいのだろう?
きっと孤独になるに違いない。
それが高校を卒業して、お互い地方の大学に進むから別れる、もしくは遠距離で交際を続けるというなら話はわかる。
でも、今、別れを切り出されたら立ち直るのにかなりの時間を要するだろう。
そうならないことを祈る。
決して麗香は僕を悪いようにはしないだろう。きっと。