【短編小説】妻と愛人
俺は35歳で山国雄一という。奥さんは9つ年下の山国達子、26歳。結婚6年目。今日は3月3日、ひな祭りの日で、結婚記念日。子どもは1人いて3歳の女の子で年少さん。幼稚園に通っている。達子はとても娘の凛を可愛がっている。でも、俺は子どもが嫌いだ。だから、自分の子どもでも可愛いとは思えない。このことは達子には言っていないけれど。できちゃった婚だから責任をとるために結婚しただけだ。達子1人じゃ、凛を育てられないし。経済的にも難しいし。生活保護という手もあるけれど、それは達子は嫌みたいだ。なぜ嫌かと言うと多分、車を持てなくなるからだろう。確かに、この地域は車がないと非常に不便だし、困る。車は俺の普通車と、達子の軽自動車の2台ある。チャイルドシートは達子の車の助手席に設置されている。一応、念のため俺の車にもチャイルドシートは助手席に設置してある。
達子とはセックスレスの状態になっている。子どもができたから、「女」というより「母親」という目線でみている。もう半年ほど性行為はしていない。なので俺は同じ会社の女を口説き落としてセックスフレンドになっている。その女は26歳で服部郁子という。個人病院で俺は雑用係みたいな仕事をしている。順子は事務をしている。病院は整形外科だ。
達子には愛情はあるが、性行為をしたいとは思えない。妻はそのことを気にしているようで、この前、
「何で抱いてくれないの?」
と責められた。本当のことはさすがに言えないから、
「その気にならないだけだ」
そう言っておいた。
明日は土曜日で仕事は休み。子どもの面倒は達子に任せっきり。
「貴方も凛の面倒みてよ、可愛くないの?」
「可愛いよ、疲れてるから頼むわ」
俺は嘘をついた。疲れているのは本当だけれど、可愛いわけがない。ちゃんと避妊すればよかったと後悔している。
予定では明日は郁子と会う予定。妻には職場の集まりがあると言っておこう。きっと、バレないだろう。凛は連れて行くと言う。それに達子は明日夜勤だし。妻はヘルパーをしていてグループホームで勤務している。16時
30分までに出勤するはずだ。だから明日は郁子を家に呼ぼうと思っている。凛の面倒をみなければならないので、本当はラブホテルで1夜を共にしたいがそうもいかない。正直子どもは邪魔だ。酷いと思われないために、誰にも言っていないが。まだ、郁子には言っていないので、これからメールをして誘おうと考えている。早速メールを送った。
<こんばんは! 何してた? 明日は妻が夜勤でいないから夜来ないか? 迎えにいくから>
暫くしてメールがきた。郁子からだ。開いてみた。
<行きたいけど、奥さんにバレない? 何か怖いんだけど。もし、バレた時のことを考えると>
俺は少し考えてから、
<大丈夫だよ。バレない>
次のメールはすぐにきた。
<凄い自信ね>
俺はそのメールを見て、
<そりゃあ妻とは知り合って長いから彼女の行動パターンは把握してるよ>
<いいわね! そういうの。それであたしと関係もってていいの?>
そう言われて、
<いいのさ! 妻にはもう性的な興奮は感じないから>
それ以降はメールがストップした。何か急用ができたのか、それとも食事の支度や入浴をしているのかわからないけれど。なんせ、郁子とは職場では仕事の話ししかできないから行動パターンが読めない。
今は19時過ぎで俺も夕食の時間だ。今日は焼肉。旨いぞ、きっと。達子は料理は上手い。そこは認める。郁子の手料理は美味しいのかな、まだ食べたことがない。明日、妻が出勤したら郁子に頼んで作ってもらおうかな。作ってくれるかどうかはわからないけれど。テレビを観ている俺に、「ご飯できたよ」と声をかけてくれた。分厚い肉が3枚皿の上に盛り付けてある。「何の肉?」と訊くと、「牛肉よ」と答えた。凛は噛めないので小さく切って皿に載せ、テーブルの上に置いた。達子は
「凛、美味しいよ! ゆっくり食べなさい」と私は言った。息子は、
「はーい」
と返事をした。なかなか可愛いところもあるじゃないか。 親馬鹿だ、と俺は思い、心の中で笑っていた。腹黒いな、俺は、と自虐した。俺は自分のことを悪く言わない。自己肯定感が強いと思う。
牛肉を頬張った。うん! 旨い! 焼き加減も最高だ。達子は俺の好みを知っている。お互いのことをよく知っているのは、達子だ。でも、郁子と縁を切るつもりはない。達子と性行為をしたい気持ちが湧いてくれば、郁子とのセックスフレンドは解消するのに。同じ会社だから、いつまでもこういう関係を続けるのもまずいかもしれないし。まだ、会社の人間にはバレていないはず。まあ、バレてもそういう関係になるのは禁止という決まりはないからいいけれど。でも、職場の仲間達と気まずくなるのは郁子とはまだお互いのことをよく知らない。でも、性行為するなら達子じゃなく、郁子だ。相性もいいと思う。達子にもいいところはあるし、郁子にもいいところはある。だから、どちらも捨て難い。今のところ達子と別れる気はないから困る。でも、郁子を手放したくはない。だから困っている。
翌日、妻は16時頃仕事に行った。俺は早々に仕事を片付け、郁子も今日の勤務は終わりそうだ。彼女の方を見つめていると、俺の視線に気付いたのか、こちらを見た。頷いて見せると、郁子は笑みを浮かべて同じように頷いた。そこに同僚の西川瑠偉が嫌らしい笑みを浮かべながらやって来た。「メール送ったから」とだけ言うと去って行った。どんなメールだろうと思い、確認してみた。すると、とうとうこういう日がやってきたかというメールだった。
<山国、服部郁子とできてるだろ? 奥さんにバラすぞ。バラされたくなかったら100万用意しろ>
な、なんだと……? これは脅迫文だ。でも、何故バレた? とりあえず会社を後にした。郁子のアパートには彼女が帰宅してから迎えに行く。でも、同僚なのに脅迫してくるなんて……。たまにカラオケに行ったり遊んだりもしている仲なのに。俺はショックを受けた。また、メールがきた。西川からだ。
<さっきのメールは冗談だ(笑)。まあ、せいぜいバレないようにするんだな。俺は山国の奥さんとは面識はあるけどバラしたりしないから>
そのメールを見て安心した。俺も彼にメールを送った。
<何でわかった?>
メールはすぐに返ってきた。
<たまにアイコンタクトしてるのを見ると、そう思うだろ。おれ以外にも気付いてるやつはいるかもしれないぞ>
マジか! 俺の考えが浅はかだった。郁子とは今後どうしよう……。縁を切るなら、円満に切りたい。まずは、さっきの西川とのやり取りを郁子に話さないと。
また、メールがきた。今度は郁子からだ。
<今、準備できた。初めて山国さんの家に行くから緊張する>
そうなのか、そんな肝っ玉の小さい女だったのか。
<大丈夫だ。今から迎えに行くから。一応、子どもも連れて行くから>
<わかった>
俺は息子の凛に言った。
「凛、ちょっと俺の友達の家に行くから、凛も行くぞ」
「パパのお友達? わかった~」
凛のいいところは初対面の相手でもたじろがないところだと思う。
息子をチャイルドシートに乗せ発車した。10分くらい走って到着した。そしてメールを送った。
<着いたよ>
と短文。部屋の電気が消え、郁子が出て来た。前にも彼女は俺の車に乗っているから、チャイルドシートがあるのは知っている。なので、俺の真後ろの後部座席に乗った。
「こんばんはー」
と挨拶をしてくれた。凛とは初対面ではない。1回会ったことがある。それ以外では凛は達子がみていて、俺は内緒で郁子とご飯を食べに行っていた。勿論、この町での食事はしない。知り合いに見られたり、妻に見られたりしてらやばいから。だから、隣町とかに行く。
郁子と体の関係を持つようになったのは2ヶ月くらい前。だから、達子が夜勤の日に郁子が来るのは初めて。夜勤は1ヶ月に1回くらいしかないから。達子が言うには、夜勤が1ヶ月に1回くらいしかないのは既婚者で子どもがいるからという施設長の配慮らしい。同僚から聞いたと言っていた。良い施設に務めたもんだ。因みに俺は新車の営業の仕事をしている。なかなかノルマを達成するのは難しい。凛も、
「こんばんは」
と言った。
「可愛いね!」
郁子は子どもが好きなのだろうか。笑みを浮かべている。
「そうだな」
一応、合せておいた。ここで本音を言ったらまずいかもと思ったからだ。
「本当にそう思ってる? 何か、ぶっきら棒ね」
「そうか? そんなことないぞ」
俺は嘘をついた。でも、バレているようだ。可愛いと思ってないということを。さすが、郁子。勘が鋭い。女だからなのか。俺は凛に訊いてみた。
「このお姉さん、覚えてる?」
息子はこちらを向いた。
「うん、パパのお友だちでしょ?」
「そうだ、よく覚えてたな、偉いぞ。凛はこのお姉さんを、おねえちゃん、と呼んでいいぞ」
「わかったー」
郁子は笑いながら、
「名前があるんだから、名前にしてよー」
と言うけれど、
「まあ、いいじゃないか」
俺は郁子の発言を一蹴した。
「コンビニに寄るわ」
そう言ってそこの駐車場に入った。4~5台くらいしか停められない狭い駐車場の右端に停めた。
「パパ、何買うの?」
凛が訊いてきたので、
「ビールだ。凛や郁子も欲しいものがあったら買ってやるからカゴに入れていいぞ」
「え! ほんと!? やったー!」
息子は喜んでいる。
「いいの? あたしは自分の分は自分で買うよ」
「いいから、遠慮するな」
「そう? じゃあ、遠慮なく」
俺は6缶パックの350mlのビールと酒の肴をカゴに入れた。凛はお菓子とオレンジジュースを。郁子は缶チューハイ3本とお菓子を入れた。
「弁当も買うか」
「そうね」
俺たちは弁当・惣菜コーナーに向かった。
「郁子は何する? 俺はカツ弁当にする。凛は?」
「ぼくは、おにぎりにする」
鮭のおにぎりを1個カゴに入れた。
「凛、1個でいいのか?」
訊いてみると、
「じゃあ、もう1個」
いくらのおにぎりも追加した。
「遠慮すんなよ」
「あたしはエビチリと白飯にする」
「後は良いか?」
「うん、いいよ」
と郁子。凛は、
「あ、アイスも食べたい!」
元気いっぱいだ。
会計を済ませ、車に戻った。
家に着き、凛は買ってきたものを袋から出した。
「凛、逆さまにするなよ」
「大丈夫だよ、ちゃんと置く」
以前、達子と3人で弁当を買ってきて凛が買ってきたものを袋をひっくり返してぐちゃぐちゃになったことがある、だから言った。俺はビールを1缶出し、テーブルの上に置いた。ついでに郁子の缶チューハイも1缶出してやった。
「凛はもう食べるのか?」
「うん、食べる! お腹すいた」
「うまく海苔巻けるか?」
「できない、パパやって」
「仕方ないやつだなぁ」
そう言うと郁子は、
「小さい子どもだから仕方ないじゃない」
と凛をかばった。
「まあ、そうだな」
俺は凛を可愛いと思っていないので理解に欠ける。寧ろ、郁子の方が理解がある。
「郁子は子どもが好きなのか?」
「うん、好きよ。可愛いじゃない」
プシュッと音をたて缶ビールを俺は開けた。郁子は缶チューハイを開けた。凛はオレンジジュースを目の前に置いている。
「凛、蓋開けれるか?」
彼なりに力いっぱい入れて回したが開かない。代わりに郁子が開けてくれた。俺は
「乾杯だ!」
と言い郁子は、
「カンパーイ!」
と言った。
凛は何も言わず飲み始めた。俺はそれを指摘した。
「凛、皆で飲む時は、かんぱーい、と言うんだぞ」
すると元気に、
「かんぱーい!」
と叫んだ。
「おお! 言えるじゃないか。それでいいんだ」
その時、俺のスマホが鳴った。見てみるとメールだ。相手は仕事で同僚の西川瑠偉から。メールを開いてみると、
<お疲れ! 何してた? 遊びに行っていいか?>
何てタイミングの悪い。俺はメールを返した。
<今、友達が来てるんだ。明日なら良いぞ>
<なんだ、そうなのか。女か?>
<まあ、そんなところだ>
少し間が空いてからメールがきた。
<不倫かー、何か憧れるな、悪いことだから尚更>
<確かに。ワクワクするぞ>
そこに郁子が話しかけてきた。
「誰から?」
「ああ、会社の同僚だ」
「え、来るの?」
「いや、来ないよ。断った。もしかしたら明日来るかも。そう伝えたから」
続けてメールがきた。
<おれなんか、不倫どころか彼女すらいない。山国が羨ましいよ>
俺はそれ以上メールは返さなかった。また郁子が話した。
「どんなメール?」
「不倫はワクワクするって送った」
そう言ってから俺たちは爆笑した。
「まあ、確かにね」
俺は小声で、
「凛が寝たら抱いてやるから」
と言うと郁子は笑顔になった。なかなかの好きものだ。奥さんのいる俺と付き合っていなくても、セックスフレンドになるくらいだからかなり図々しい。俺はそう思っている。言うことはないけれど。俺も人のことは言えないし。似たり寄ったりの人間かもしれない。でも、それはそれで嬉しい。気が合うということは良いことだ。俺は、
「とりあえず、凛と風呂に入ってくるわ。ちょっと待っていてくれ。さすがに3人は狭いから」
すると郁子は言った。
「一人でいるのは嫌だから、あたしが凛くんと入るよ」
「え! 大丈夫か? 小さい子どもと風呂入ったことあるか?」
「ないから、大変なことになったら呼ぶから」
「わかった、まあ、大丈夫だろ」
「多分ね、凛くんが溺れたり、滑って転んで怪我でもしない限りは」
郁子は凛に話しかけた。
「凛くん、今日はおねえちゃんとお風呂に入ろ?」
息子ははっきりと答えた。
「えー、やだー。パパと入る」
「あら、そうなんだ。フラれちゃった」
俺は言った。
「凛! 何で嫌なんだ? お姉さんと風呂に入れるなんてこんないいことないだろ」
凛は喋り出した。
「お姉さん、いくつ?」
「26よ」
すると息子は、
「あ! ママと同じだ! じゃあ、入る」
郁子は凛の発言を聞いて、
「なんだそりゃ、年齢かよ。ママより年上だったら入らないの?」
と訊くと、素直に頷いた。
「どゆこと!」
そう言って俺と郁子は笑った。3歳で若い女を選ぶなんて何てやつ。ていうかその年で性欲はあるのか? 人間の3大欲求の内の1つだけれどそれにしても早いな。今の子どもは早いのか。異常な速さだ。
2人は入浴しに行った。俺は1人でビールを呑みながらテレビを観ていた。面白い番組が放送されていない。どうしよう、暇だ。何だか怠いので横になった。
俺はいつの間にか寝ていた。その時、夢を見た。内容は息子の凛と郁子が性行為しているそれ。何てことだ、そんな夢を見るなんて郁子の方が23歳も上だからおばさんだろ。そう考えると笑えてくる。俺は早く郁子を抱きたい。早く上がってこないかな。俺も風呂に入って凛を寝かしつけて郁子を抱く。俺は避妊具を用意した。それだけでも興奮してくる。少しして2人は風呂から上がってきた。
「大丈夫だっただろ?」
「うん、凛くんちゃんとあたしの言うこときいてくれて素直な子ね」
「ありがとな。俺、風呂入ってくるわ。凛と遊んでいてくれ」
「うん、わかった」
俺は湯舟には浸からず、体を洗い洗髪した。20分くらいで上がった。
「雄一、早いね!」
俺はフフンっと鼻で笑った。(お前を早く抱きたいからだよ)と思ったが凛がいるので言葉には出さなかった。
凛をベッドで何とか寝かしつけた後、俺達は居間で愛し合った。2時間近く抱き合って果てた時、俺は言った。
「妻は明日の朝9時半頃帰って来るから9時前には送るわ」
郁子は何も言わない。どうしたのだろうと思い、彼女を顔を見てみた。
「おいおい、どうしたんだよ。何でそんな悲しそうな顔するんだよ」
「悲しいよ……。あたしはいつまで経ってもあなたのものにならないね……」
「そうだな、すまない……」
「謝らないで! 余計惨めになる」
俺は返す言葉がなく、黙っていた。
「何か喋ってよ! こういう時に黙るのやめて!」
「無茶苦茶言うなよ! 急に喋ってと言われても思いつかないよ!」
俺はつい怒鳴ってしまった。喧嘩は極力避けてきたけれど、我慢できなかった。
「もう、あなたのこと、好きになっちゃったんだよ!?」
「それは俺も同じだよ! でも、子どもを育てなくちゃいけないから一緒にはなれない。子どもが成人して、それから郁子と結婚することは可能だけど。今の奥さんと別れて」
凛が成人するまでにはあと17年ある。それまで一緒にいられるか。そもそも、セックスフレンドだから交際はしていない。そうだ、交際してもらおう。
「郁子」
「何?」
「俺ら、体だけの関係だから、交際してくれないか?」
「え? あたし達、付き合ってなかったの?」
「うん、改めて付き合って欲しいとは言ってない」
「そうかぁ、うん。付き合おうって軽いか」
言いながら笑っている。
俺の妻と、俺の愛人。果たして続くだろうか。続けたい。まあ、続くのは妻の方だろう。愛人とは一時の付き合いだから。
俺と郁子は寝室のダブルベッドに移動した。隣には凛がいるからもう性行為はしない。俺達は寝ることにした。
翌朝、俺はアラームをかけ忘れて目覚めたのは9時20分頃だ。隣を見ると凛は寝ているし、郁子もまだ寝ている。
「おい! 起きろ! 帰らないと妻が帰って来てしまう。やばい!!」
「ん……今、何時?」
「9時20分だ!」
「え! マジで!? バレちゃう。早く帰ろう!」
その時、玄関の鍵が開く音が聴こえた。達子が帰ってきたか!
「ただいまー」
疲れた様子の声で達子は居間に入ってきた。クッションや座布団が乱雑に置かれている。
「? なんでこんなにぐちゃぐちゃなの?」
「いや、あの……」
俺はおどおどしてしまった。このクッションはいつもベッドの上に上がっている。
「何でこっちにきてるの?」
妻はクッションを持って寝室に行った。
終わった。
「貴方、誰?」
「あの、あたし、すみません……。帰ります」
「ちょっと待った! あんた達、もしかして……」
達子の顔色が赤くなっていく。爆発寸前だ。
「すまん! 俺のせいだ、俺がこの子を誘ったんだ。だから怒らないでくれ」
達子は俺と郁子を睨みながら、
「ふざけんじゃないわよ! あんたたち! 私がいない隙に!!」
達子は郁子のバッグなどをアパートの2階から放り投げた。
そして、涙を浮かべている。
「雄一……! 裏切ったわね……」
妻は涙を手で拭っても止まらないようだ。
「すまない、許してくれ……」
「こんな状況で許せるわけないじゃない!」
「それと、あんた!」
達子は郁子に平手打ちをした。そしてその場に倒れ込んだ。
妻は郁子の上に馬乗りになり、叩きまくった。
「この、クソ女! 何様のつもり!?」
達子は立ち上がり、寝室に向かって入り、ドアを閉めた。部屋の中から号泣している声が聞える。俺は郁子に言った。
「すまないが歩いて帰ってくれ」
よく見ると、郁子の顔にはさっき叩かれたせいで切れていて、血が流れている。俺はティッシュを1枚取って渡した。
「血が出てる」
「あ、ほんとだ」
「じゃあ、帰るね。何か逃げるような感じになっちゃうけど……」
「いや、大丈夫だ。何とかする」
そう言った後、郁子は帰った。
僕はその後、妻に泣きつかれ、散々文句を言われて郁子には今後2度と会わない約束をした。もし、会ったら次は離婚すると達子に言われた。仕方ないだろう。全ては俺が悪いのだから。それでも、即離婚にならなくて良かった。今後は心を入れ替えて、不倫などという馬鹿な真似はしない。達子を傷つけるだけだから。
了
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