死と出会い 4話 彼女の純情
私は下校途中に彼の気持ちを伝えるため、後輩の学校に寄った。自分の気持ちは隠して。
私は、学校が終わり下校途中に絵里に秀一の気持ちを伝えるため、すぐそばにある中学校に寄った。正門の前で様子を伺いながら待っていると、十五分くらいしてから絵里が玄関から出て来た。私は友達と歩いて来る彼女に声を掛けた。
「絵里!」
彼女は私に気付いた。
「あ、愛理さん。どうしたんですか?」
「秀一の気持ちを伝えに来たのよ」
絵里はパッと表情に花が咲いたように明るくなった。絵里の横にいた友達は、
「絵里、お話し長引きそう?」
「あ、ごめん。先に帰っててもらえる?」
絵里の友達は若干不服そうに、
「わかった。また明日ね」
と言いながら私に一瞥をくれて帰っていった。誰だろう、この人、みたいな顔だった。まあ、いいや。
「で、何ていってました?」
絵里はこちらに向き直り、ご機嫌な様子。
「ていうか、秀一のことどこで見掛けたの?」
「愛理さんと一緒に帰ってるところです。まさか、付き合ってるとかじゃありませんよね?」
彼女の表情が若干曇った。本当は……。
「いや、そんなわけないじゃない」
私は、あえて否定した。本当の私の気持ちは……。
「よかった!」
絵里は無邪気に喜んでいる。まるで、幼い少女のよう。
「でもね。彼、親友を亡くしたの。私の親友でもあったんだけど」
表情を豹変させ、絵里はこちらを見ている。
「それで、今はそういう気持ちになれないらしいの。だから、気持ちが落ち着いたらいいよって」
「そうなんですね……。残念……。でも、どうして彼のお友達は亡くなったんですか……?」
今度は彼女の表情に笑みはなかった。絵里が真顔に戻ると少し卑屈そうな子に見えた。
「それは……それは言えないというより、言いたくないかな……」
そう伝えると、絵里は不思議そうな顔つきになり、俯いた。
「秀一さんと愛理さんだけの秘密ですか……?」
「いや、高校のみんなは知ってるよ。ただ、私が言葉にしたくないだけ……」
彼女の様子を窺がっていると、理由を聞くのは諦めたのか、
「そうですか、わかりました」
私はそう言ってくれて安心した。絵里は残念そう。
「でも……でも、あたしにまだ、チャンスはありますよね?」
絵里は、すがるような目で私を見ながら言った。
「秀一と……秀一と会えるチャンスってこと?」
「はい!」
絵里の眼差しが眩しい。そんな真っ直ぐな瞳で見ないで欲しい……。
「……あるんじゃない? いつになるかわからないけど」
最後に付け加えた言葉は私なりの嫌味。
「あたし、待ちます! 秀一さんの気持ちが落ち着くまで」
今度は声に覇気があった。一気に気持ちが変わった様子。
「マジメに言ってるの?」
私は彼女のあまりの一途さに吹き出しそうになった。
「大真面目です! なので、そう伝えてもらえますか?」
絵里は私の顔を凝視しながら言った。
「……わかった」
「やった! よろしくお願いします!」
彼女の純情さには敵わないな、と感じた。
絵里と話し終わり、複雑な気分だった。帰り道、歩いてる途中で、
「待ちます、か……」
私は、さっきの絵里の一言を思い返して呟いた。