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少年の現実 三話 優しい父

 翌日。今日は面接の日。13時か。今は早朝5時過ぎ。緊張し過ぎて早くに目覚めた。不思議と眠気はない。いつもなら、お昼まで寝ているのに。

 父と一緒に朝ご飯を珍しく食べた。ベーコンエッグだ。美味しい。父にシャワーは浴びて行った方がいいか訊くと、
「まあ、綺麗に越したことはないがな」
 そう言うので、まだ8時だというのに浴室に向かった。秋めいてきて気温も低くなってきたので、寒い。なので、浴槽にお湯を張ることにした。
 
 20分程でお湯は溜まった。蛇口を締め、迷彩柄のトランクスと青いTシャツを自室から持って来て入浴した。
緊張が一気に取れた。お湯に浸かったからだろう。でも、務まるかどうかを考えるとまた緊張してきた。
お風呂から上がって父がまだ家にいたので今の気持ちを話した。
「父さん、僕、緊張して辛い。どうしたらいいの?」
 父は、
「面接が終わるまでの辛抱だ」
 でも、僕の表情があまりに辛そうだったからか、
「そんなんで本当に務まるのか」
 僕は居間に横になっていた。
「わからない……」
「何だか怪しいな」
「多分、務まらないと思う」
 父は溜息をついた。
「だろうな……。断るなら早い方がいいぞ」
 僕は黙っていた。そして、
「断るなら、ハローワークに電話すればいいの?」
 父は頷きながら、
「ああ、そうだな。お前の態度を見ていると無理っぽいな」
 と、言った。僕は頷いた。
「俺、仕事に行ってくるからな」
 父は立ち上がり、弁当を保温袋に入れて家を後にした。

 ハローワークに電話するのも億劫。でも、断らないと。そう思い、起き上がって持って来てあった求人票に記載されている電話番号に電話をした。
すぐに繋がった。
「もしもし、昨日ハローワークに行った佐田昭雄ですけど、今日の面接キャンセルでお願いします」
『いいですけど、理由はなんですか?』
 男性の職員は低くて渋い声だ。逆に僕の声は男にしては割と高め。
「親とも相談したんですけど、僕には無理っぽいという話しになりまして」
 少しの沈黙の後に、
「そうですか、わかりましたよ」
 そう言って電話を切った。途端に肩の力が抜けた。僕は、
「ふーっ」
 と、息を吐いた。
「つかれた……」
 独り言を呟いた。
「こんなんで将来、就職できるのかな。心配になってきた」
 その後、僕は居眠りをした。お風呂にも入ったし仕事も断ったし、気が楽になったからだろう。

 僕は夢を見た。どんな夢かというと、父に殴られた夢。ハッとなり飛び起きた。父がそんなことするわけない。優しいから。でも、どうしてそんな夢を見たのだろう。よくわからない。

 起きたのは午前10時頃だ。眠い目をこすりながらようやく体を起こした。お腹が減った……。父は何かおかずになりそうなものを作っていってくれただろうか。台所に行くと豚肉をスライスしたものが焼かれて皿に載せており、スクランブルエッグも皿に載せて置いてあった。レンジで温めて食べよう。まるで母が作ったおかずのようだ。美味しそう。

 一皿ずつ温めた。それらをステンレス製のトレーに載せ、電子ジャーの中から茶碗にご飯を軽くよそった。ガス台の方を見ると鍋が置かれている。鍋の蓋を取ってみると中にはみそ汁が入っていた。具材はジャガイモを角切りにしたものとわかめ。ガスの元栓を開けて、ガスに火をつけた。僕は居間に戻り、みそ汁が温まるのを待った。それは、鍋の半分くらいまで入っていた。それから、テレビをつけた。テレフォンショッピングの番組や、再放送のバラエティ番組、これも再放送のドキュメンタリー番組などが放送されていた。その中からバラエティ番組を選び、チャンネルのボタンを押した。お笑い芸人が複数人出演している。テレビから笑い声が聞こえるけれど、何が面白いのかわからない。さくらを使っているのだろうか。つまらないのでテレビを消した。暇だ。何をしよう。やっぱり仕事をしたほうがいいのかなぁ。その方がお金も入ってくるし。前々からどうなのだろう、と思っている職業がある。それは、コンビニやスーパーマーケットの店員。割と楽そうだ。疲れるのは嫌だ。中学生の頃も勉強が嫌で堪らなく、授業やホームルームが終わって帰宅した頃にはぐったりと疲れていた。

 遅い朝ご飯を食べ終わって、父にLINEを送った。父は今、仕事をしているはずだ。
<父さん、僕、仕事するよ>
 返事が来たのはお昼時。昼休みだから空いた時間ができたのだろう。
<どんな仕事だ?>
 父のLINEに気付いたのは約30分後。ヤバイ、休憩時間終わっちゃう!僕は慌ててLINEを打った。
<コンビニかスーパーマーケットにしようかと思ってる>
 父は多分、13時まで休憩だろうからもう時間がない。帰って来てから話すか。

 僕の同級生で、同じように高校に進学しなかった女子がいる。何をしているかな。メールを送ってみよう。彼女は親の躾というのか、LINEは制限されている。
<こんにちは! 久しぶり。何してた?>
 彼女の名前は神崎志穂かんざきしほ、16歳。メールは30分くらいしてから返ってきた。
<昭雄! 久しぶり。今、バイト終わって帰ってる最中だよ。どうした?>
 僕はすぐに返信した。
<久しぶりに遊ばないか?>
 また暫く返信はなく、来たのは約1時間後。
<今日、お客さんめっちゃ多くてさ、疲れちゃった。だから今度にして?>
 コンビニの仕事って大変なんだな、やってみようかと思ったけど、辞めた。スーパーマーケットにしよう。
 それにしても志穂と遊べなくて残念だ。久しぶりだっていうのに。メールは一応、
<わかった>
 と返しておいた。きっと、今までのように志穂からのメールは来ないだろう、こっちから送らないと。

 父が言っていた、僕が成人したら結婚するかもしれないという話だけれど、僕の内心は複雑な心境だ。見たこともないし、喋ったこともない人が義理の母になるなんて。このことは父には言っていないけれど。でも、いずれ言わないといけない。父だって再婚する前に僕に会わせるはずだ。だから、余程、性格の不一致さえなければ一緒に暮らしていけるのかもしれない。その時に僕が実家にいるかどうかは不明だけれど。まさか、僕より彼女の方が大事ってこともないだろうから。だから、悪いようにはされないと思う。心配はあるけれど。

 

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