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Q 仮処分では被害者側で名誉毀損などを説明しなければならないと聞きましたが、それはどのくらい難しいですか?

A 「証明」までは求められず、「疎明」で足りるとされますが、そのハードルはかなり高いです。

解説いたします!

1 被害者側で立証しなければならないこと
Q 私は会社を経営していますが、誹謗中傷に対して法的措置を取るにあたって特に気を付けるべきポイントを教えてください。|弁護士遠藤宗孝 (note.com)の記事の「1」の欄に記載したとおり、開示請求では、被害者の側で、①名誉を毀損することに加えて、②公共の利害に関する事柄でないこと、③公益目的でないこと、④真実でないことについても説明する必要があります。

2 裁判の場合は「証明」が求められること
裁判の場合には、「証明」をすることが求められます。「証明」とは、「通常人が疑を差し挾まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りる」とした最高裁判決がありますが((最高裁昭和50年10月24日)昭48(オ)517号)、これは、非常にざっくりといえば、「誰がどう考えてもそうだよね」という程度まで求められるということです。裁判での証明は本当に大変です!

3 仮処分の場合は「疎明」で足りること
これに対して、仮処分の場合には、「証明」までは求められず、「疎明」で足ります(民事保全法13条2項)。条文には、以下のように記載されています。

(申立て及び疎明)
第十三条 保全命令の申立ては、その趣旨並びに保全すべき権利又は権利関係及び保全の必要性を明らかにして、これをしなければならない。
2 保全すべき権利又は権利関係及び保全の必要性は、疎明しなければならない。

ここで「疎明」とは、上記の「証明」の程度まではいかないものの、「一応確からしい、との推測が得られる程度」と説明されます。簡単にいうと、「確かにそうかもしれないなあ」という程度で足りるということす。

仮処分の場合に「疎明」で足りるとされる理由は、仮処分の場合には、アクセスログの保存期間との関係で、とにかく素早く結論を出さなければならないところ、この場面で「証明」まで求めていたのでは、こうしたことができなくなってしまうからです。

こうした条文の違いと、その背景となる理由を聞くと、「じゃあ、仮処分の場合の「疎明」は非常に簡単なんじゃないか?」と思われる方もいるかもしれません。しかし・・・

4 結局は「証明」に近いものが求められる!
しかしながら、実際に仮処分を行っていると、このハードルが非常に高く設定されていることに驚きます。私の感触としては、通常の裁判の「証明」とほとんど変わらない程度に高度なものが要求されているように思います。

5 特に難しいのが「真実でないこと」
特に、1記載の事項のうち、「真実でないこと」については、非常に苦労することが多いです。その理由は、以下のとおりです。

■図解
       投  稿
         ↑
そもそもどういった事実を示しているか?
→①ここで裁判所と噛み合わないリスク

         ↑
示された事実について真実でないといえるか?
→②ここで裁判所が納得しないリスク

⑴ 投稿が摘示している事実について反真実であると示すことが必要
まず、「真実でないこと」の立証は、投稿が摘示している事実について求められます。これだけ聞くと、「そんなの当然じゃないか」と思われる方もいるかもしれません。

しかし、インターネット上の投稿については、従来のメディアと比べて文章量が少ないこと、校正等の作業を経ずに、投稿者の記憶のみに基づいて投稿等がされるという特殊性がありますので、そもそも、問題となっている投稿が、どのような事実を摘示しているのかを判断(特定)するのが難しいことが多いです。

そのため、被害者や弁護士が、「Aということが書かれている!そしてAは真実でない」と主張して、Aが真実でないことの証拠を提出したとしても、裁判官は、「AではなくBということが書かれている。そしてBについては真実でないことの資料がない。だから反真実の疎明があったとはいえない。」と判断する可能性があるのです。

このように、「疎明」としてどの程度の心証が必要となるのかということ以前の、そもそも何について反真実の疎明が必要となるのかという段階で、裁判所と話がかみ合わない可能性があるという点で、難しい作業です。

⑵ 反真実の疎明の程度が足りないとされることがある
次に、何について反真実の疎明が必要になるのかという段階はクリアしたとしても(上記の例でいうと、裁判官も、「Aということが書かれているので、反真実の疎明はAについて求められる」というように考えたとしても)、疎明の程度が足りないとされることがあります。

まず、裁判所は、投稿に摘示された事実が真実でないことを客観的資料等で疎明するのが難しいような場合を除き、資料の提出も求めます。
そのため、「Aというのは嘘です!」と書いた陳述書では足りないことが多いです。

また、陳述書以外の証拠を提出したとしても、疎明の程度として足りない、とされることがあります。

さらに、真実でないことの疎明の対象は、摘示された事実の「重要な部分」とされますので、投稿の細かな部分の多少の不正確さや誤りを指摘しても、反真実の疎明には足りません。

そして、Q 私は会社を経営していますが、誹謗中傷に対して法的措置を取るにあたって特に気を付けるべきポイントを教えてください。|弁護士遠藤宗孝 (note.com)で解説したとおり、開示請求に失敗すると、投稿者にいわば「お墨付き」を与えてしまい、同様の投稿が繰り返されるリスクが生じます。

ここまでお読みになった皆さんは、「被害者にとってあまりにハードルが高すぎる、いったいどうしろっていうんだ・・・」と思われる方もいらっしゃるかと思います。

5 とにかく詳しい弁護士に相談!
ここでも、やはり開示請求に詳しい弁護士に相談することが重要です。詳しい弁護士に相談すれば、以下のようなメリットがあります。

①投稿がどのような事実を摘示しているのかをよく吟味できる
→上記5の⑴の何について反真実の疎明が必要となるのかという段階での裁判所との食い違いを防止できる

②反真実の疎明に必要な資料などをよく吟味できる
→反真実の疎明にどういった資料が必要になるのかを理解できますので、依頼者に対して必要な資料の収集などを迅速に依頼し、上記5の⑵の疎明の程度という問題もクリアしやすい

③微妙な投稿については開示請求・削除請求を行わない
→開示請求・削除請求が否定された場合のリスク、特に企業の商品・サービスに対する投稿については裁判所が非常にハードルを高くしていることをよく理解していますので、何でもかんでも開示請求・削除請求を行うことで、かえって投稿者に「お墨付き」を与えてしまう可能性を減少させられる

開示請求を弁護士に頼む必要はないという意見を聞くことがありますが、私は、この分野を勉強すればするほど、詳しい弁護士に依頼することの重要性を実感しています。本人で対応するのではなく、十分な知識・経験を有する弁護士に相談しましょう!

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