見出し画像

薪小屋を愛でる

畑や田んぼ、漁港などに建っている物置小屋や作業小屋の写真を撮り歩いては記事を書いています。
何かのお役に立ちそうにはありませんが、どうぞお立ち寄りください。

夏から秋にかけての今の時期に、北国の人達がせっせとしている作業があります。それは冬を前にしての薪作りです。

黙々と薪を割る(岩手県岩泉町)

薪に好まれるのは杉や檜などの針葉樹よりもクヌギやカシ、ミズナラなどの重くて堅い広葉樹です。これらの木の方が燃焼時間が長いからです。
薪作りはまずは山から木を切り出すことから始まります。幹や枝をトラックで運べる長さに切って家の敷地まで運び込み、さらにストーブに入る程度の長さに切り分けます。それを薪割り機なり斧なりを使って2等分、4等分、8等分へと割っていくのです。文字にすると簡単ですが、聞くところによればかなりの重労働だそうです。しかも割った薪をその年の冬にすぐに使えるわけではありません。伐採したての木は水分を多く含んでいて、燃やしても煙やすすばかり多く出て燃焼が悪いのだとか。そのために薪を1〜3年ほど乾燥させる必要があるのです。
長野県のある集落では、伐採したら山の中に半年から1年木を放置して乾燥させるそうです。その分だけ木が軽くなり、搬送の負担も減るとのことでした。

(秋田県北秋田市)

写真を見ると分かりますが、薪は空気が通りやすいように向きを同じにして積み上げられます。雨や雪で濡れないように屋根をかけることはもちろんですが、何より大事なのは薪が両端から崩れないようにすることです。そのために地面に杭を打ったり、木枠を造作するなどしています。

木の杭を立てて、薪の端が崩れないようにする(岩手県岩泉町)

中には両端を井桁組みにしているケースも見かけます。

端の薪は交差するように井桁に積み上げられ、切り株や廃タイヤで固定されている(高知県本山町)

こうして写真を並べてみると、手積みの無骨な美しさに惚れ惚れします。木の断面に色がまだしっかりと残っているのは乾燥を始めて間もない薪で、水分が抜けていくと徐々に色も抜けていきます。

積み上げられた薪が徐々に減っている様子が分かる(秋田県男鹿市)

上の写真の右半分の薪はまだ手つかずですが、左半分の薪は地面近くにわずかに残るばかりです。撮影したのは秋田県男鹿市の海岸沿いですが、被せたトタンに大きな石が「これでもか」というぐらい、たくさん乗せられていました。おそらく海風が吹き付けるからでしょう。波しぶきを避けるように海に対して薪を横置きしている様子も印象的でした。
果たしてひと冬を越すのにどれくらいの量が必要なのでしょうか。真冬の吹雪いている日にここから薪を取り出す人の姿を想像すると、その苦労がしのばれます。

住宅の軒下や出窓の下にも薪を積み上げている(長野県松本市)
図らずもできたモザイクアートのような美しさ(岩手県岩泉町)

上の2枚の写真では、薪は納屋や住居の庇の下に積み上げられていました。これはこれで美しい景観です。

薪ストーブのある生活に憧れる気持ちは若干ありますが、薪を入手するツテも置き場もない都市生活者の私には所詮はかなわぬ夢物語。コストも考えればエアコンや石油ファンヒーターが妥当なところです。
冬に車を走らせ旅をしていると、不意に薪を焚べる匂いが車中に流れ込んでくることがあります。そんなときはウインドウを少し開けて肌を刺す冷たい外気に触れながら、見知らぬ人の家の中で薪がはぜているさまを想像するのです。
(了)
2022.08.29

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?