見出し画像

拝啓、隣の「パリピ」へ

私、今、イライラしております。

年に、指折り数える程しかない、2連休。嫁は実家に帰り、友達は元々ほぼ居ない。用事0の奇跡的、2連休。誠に大切な二連休です。

なので、1人キャンプに来ています。山梨県道志村のキャンプ場。夏ともあって、緑の色が深く、ひぐらしの声と、針葉樹の焚き火の音が、とても気持ちいいです。正しく言い表せませんが、森と川の匂いがします。良い所です、山梨県。

ここまで来るのは、大変でした。中央道は、いつも以上に渋滞しており、途中途中のパーキングエリアは、全て満車。トイレも我慢します。眠気覚ましに、目の下や、内腿をつねりますが、それでも覚めない場合は、不味い青色のガムを食べます。結果、ナビで3時間の予定が、4時間40分掛かりました。隣の県に移動するだけで、4時間40分です。大変でした。

でも、そうまでしてでも、この色が見たくて、この音が聴きたくて、この匂いを嗅ぎたくて、ここに来ました。

私くし事ではありますが、日々、人の目ばかり気にしてしまいます。家電量販店で、買いたいair podsの種類を店員さんに聞きたいのに「そんな事調べればわかるだろ」と言われそうで、声が掛けられなかったり、マクドナルドのフライドポテトにケチャップを付けたいのに「家のケチャップ使えよ」と言われそうで、注文できないでいます。「頑張れよ」と言われればそれまでなのですが、やめられず、勝手に肩をすぼめ、無駄に疲れてしまう性根なのです。

日々、溜まってく一方のストレスが、もうそうそろ、溢れます。ギリ、表面張力で耐えれていますが、今、是が非でも森に行かないと、今、都会の喧騒を離れ、川とひぐらしと焚き火の演奏を聴きながら、本でも読んで、写真でも撮って、ゆっくりしないと、溢れ出します。そして、死にます。国で指定された祝日なんかよりも、よっぽど大切な、大切な、2連休なのです。

なのに、隣のサイトが「パリピ」です。

終わりです。ストレスの値を下げに来たのに、上がってます。

このキャンプ場は、フリーサイトの為、好きな場所を選べます。隣のサイトにテントは建っていますが、人はいませんでした。買い出しか何かに行っているのでしょう。渋いテントの色、少食であろうクーラーボックスのサイズ、机の上に手作り料理のタッパー。「老人だ」と思いました。だから、ここにしたのです。なのに、戻ってきたのは4人の「パリピ」です。

彼らは、この大自然、広大な森の中で、レゲエミュージックを流しています。そして「ラガマフィン」なる言葉を発しています。普段レゲエを聞かないので、ラガマフィンと聴くと、猫を思い浮かべます。丸々としたばっちりお目目の、小さな猫です。彼らの音楽と共に聞こえる、熱の入ったラガマフィン。それを聞くと「猫好きなんだなぁ」と思います。いちいち感情を揺さぶらないで欲しいです。

僕は、テントを建てています。何故なら、今更、場所を変えられないからです。「あいつ、俺らの顔見て、場所を変えたぜ、ショボい奴だ、ヤーマン」なんて酒のアテにでもされたら、たまったもんじゃありません。末代までの恥です。

「やったろうじゃないの、お前らなど、気にしてやらねぇよ」と意気込んでいます。ヤケクソ設営です。いつもの3倍の力でペグを打ち込み、机や椅子を準備し、とうもろこしを2本を茹でています。僕は、忙しいので、何も気になりません。今日の僕は、気高き精神です。武田信玄の如き魂です。

設営がひと段落つき、イスに座り、川を眺めています。落ち着きます。でも次第にパリピ達の声が、耳に入ってくるようになります。パリピ達の行動が、いちいち目に止まるようになります。不思議なものです。何故なのでしょう。他愛のない笑い声や、必要最低限の動作なのに、イライラします。

このイライラ、間違いなく「妬み」です。純度の高い、僻みです。そんなの分かっちゃいるんです。

「友達沢山で来て、楽しそうで羨ましい」「そもそも周りの目を気にせず、恥ずかしげも無く、ラガマフィン出来る精神性が羨ましい」それだけ、です。羨ましいんです。

例えば、隣のサイトがパリピではなく、75歳の夫婦ならこんな気持ちにはならなかったでしょう。75歳夫婦のサイトなのに、下品なアホ笑いが聞こえてきていたら、とても幸せな気持ちに包まれた事でしょう。ラガマフィンが聞こえて来たら、猫より遥かに癒された事でしょう。

ジャスコ2Fの紳士服売り場でしか見た事ない、淡いアイボリーのシャツのおじいさんと、人畜無害で、休日はあんこを作っているおばあさんが「息子達も働き始め、家を出て行ったので、たまには2人でキャンプでも行くかね、ワシも昔は、ボーイスカウトをやっておってな、火起こしは任せておきなさい」と、いざ作業を初めてみたら、衰えて力が無いは、老眼で湿った木の見分けも付かないわ、全然点火できなくて、おばあさんは笑っています。おじいさんにもプライドがあります。ムキになっています。情けのないおじいさんです。ラジオからは、ラガマフィンが流れています。

僕は、幸せです。

でも、現実は違います。蛍光色で訳の分からない柄のパーカーを羽織り、水平線ほど真っ直ぐなツバの帽子を被り、見せびらかす為だけに購入したデカいBluetoothスピーカーから、ラガマフィンが流れています。パリピです。イライラします。

妬みです。分かっているんです。

彼らは、これっぽっちも悪くないです。なんなら、他のパリピより静かです。ランプも2個しかつけていないし、周り与える影響は、ほぼないです。僕が近過ぎただけです。幅もとっていないし、ゴミも落としてない。世間的には、良いパリピだと思います。喋ったら、相談に乗ってくれそうな、仲間思いの良いパリピのはずです。

でも、悔しいんですよ。「楽しそうで良いですね」と。

コッチは、簡単に楽しむ事すら手放しで出来ないんです。生きる事に精一杯なんです。どんな服を着るかすらも、周りの環境で決めます。不快な思いを与えない色を選びます。素材を選びます。そんなキリンみたいな柄の蛍光色な服なんて、着れないです。だから、ソロキャンプに来ました。山梨の森に来ました。

今日くらい、静かに、誰の目も気にせず、楽しみたいじゃないですか。

もし、伝えようもんなら「そんなこと言ったってしょうがないじゃないか」と言うでしょう。分かります。えなりかずきになっちゃいますよね。あなたたちは、何も悪くないです。

でも、心のどこかで「コイツら、人に迷惑かけそうな顔してるな」「コイツら、ルール破りそうだな」「コイツら、頭悪そうだな」と、勝手な先入観で、思ってしまっている、自分がいるのです。

コッチの方が、キャンプ素人の可能性もあります。コッチの方が、ルールもモラルも無い可能性もあります。

でも、笛を加えて、いつでもイエローカードを出せるように、前傾姿勢になってしまうんです。

悔しいです。いちいち気にしてるようで、悔しいですよ。興味もないはずなのに、隣の彼らを意識しちゃって、本も頭に入ってこないんです。悔しいです。

なんでもかんでも、そつなくこなすなよ。渋くてお洒落なサイト作るなよ。楽しそうに動画撮ってんなよ。周りなんて見えない程、ラガマフィンすんなよ。上手いこと人生運ばせんじゃねぇよ。分けてくれよ。

結局、こういうヤツらの方が、仕事も出来て、度胸もあって、何事にも前向きにチャレンジして、8頭身のギャルとセックスして、可愛い愛娘2人作って、家族が居るから仕事頑張れて、休みの日には海行って、海外行って、腹筋割れてて、幸せなんですよ。

くそ。悔しいよ。

だから、いつもより大きな音を立てながら、サイトを片付けてやります。

ざまあみやがれ。「パリピ」という死語と共に、滅びろ!

サポート機能とは、クリエイターの活動を金銭的に応援する機能のようです。¥100〜¥100,000までの金額で、記事の対価として、お金を支払うことができるようです。クリエイター側は、サポートしてくれたユーザーに対して、お礼のメッセージを送ることもできるそうです。なのでお金を下さい。