斎藤工のフェロモン
色気で一撃必殺してみたい人生だった。
思い返せば、これまでにお付き合いした方達は、持ち前の共感力と、女性の長い無駄話に耐えるだけの忍耐力で、射止めて来た。
なので「優しい」「安心する」と、言われた経験はあるが、僕の造形美に惚れられたり、エキゾチックに滲み出る余裕や、なかなか手に入らない高級ブランド品に恋焦がれるような惚れられ方をした事はない。されてみたい。手に入りやすい庶民的安心感はもういい。僕に狂われてみたい。
出来ないと分かっているからこそ、温もりで包むように心がけたはずなのに「遠藤は、優しすぎるよ」と言って、振られた事がある。どういう意味だ?何かメッセージが隠されているのか?そりゃ、優しくするだろ、好きなんだから。いくら考えても、なかなか腑に落ちない夜が続いたので「おそらく"優しすぎるよ"と言うセリフを吐いてみたかったんだろうな」と思うようにしている。誰にでも、そういう時期はあるので。
確かに、優しい人間でいたい。なので、人間としてはこれ以上ないほど嬉しい。それは良い、それは良いのだが、人間に生まれた意味はあっても、オスに生まれた意味がない。
一度でいいのだ。僕のフェロモンにやられて、顔がとろける女性を見てみたい。一度でいいので、強烈なオスとしての背中をメスに見せつけてみたい。一度でいいので、僕を見ただけで気絶して欲しい。
そう思い、僕はチャイハネでエキゾチックな半袖シャツと、エキゾチックな香水を買った。鼻がもげそうになり、すぐ捨てた。悔しい。
同じ人間のオスのはずなのに、僕には無い色気が、斎藤工にはある。僕ですら狂いそうな色気がある。
例えば、色気付くのを諦めてしまったお母さん達100人を無人島に放って、そこに追加で裸の斎藤工を1匹放ったら、流石に木のみの樹液とかを駆使して化粧を始めるはずだ。
羨ましい。
僕は、美容室で「斎藤工にしてくれ」と頼んだ。美容師のセット力もあり、ウェービーでウェットな斉藤工に仕上がった。悪くない。が、翌日、鏡をみると髪がボリューミーに爆ぜ、サイババが映っていた。悔しい。
ああ、相手の人生を狂わせる程の色気が欲しかった人生だった。