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計 画 通 り 編

先に逃げた2人と校舎裏の片隅で合流してしばらく隠れていたが、何故かTは追いかけて来なかった。

おかしい。かと言って状況確認の為に今出るのは危険すぎる。


AとBは自転車の心配をしていたが、なんと先程一緒にいた男の先輩2人のうち1人から連絡が来て、自転車を校外に持ち出してくれる事になった。

必要なのは、状況確認だけ。

そこで目的がAである以上、最悪捕まっても何とかなるBか俺が偵察に行かなければならないワケだが、平和に生きてきた女の子にそれを求めるのは酷だろう。

その提案をする事すら、はばかられた。


一つため息を吐いた後、俺は2人に偵察として様子を見に行く事。

俺が捕まった場合と、捕まらずに逃げる隙を見つけた場合の指示を事前に伝えた。


そうしてさながらスパイ映画のごとくなるべく砂利に気をつけながら車と車の間を低姿勢で移動し、昇降口の方からギリギリ死角となる場所までたどり着くことが出来た。

壁に身体を這わせながら、昇降口の方を密かに覗けば俺から見て北東わずか30m程の位置で何やら顧問とTが話している姿が見えた。

幸いにも話に夢中になっており、こちらには気づいていない。

そしてそんな2人の姿を見て、俺は数時間前の自分の行動を思い出す。



実はその日の部活終わりの事。

2年生メインの男の先輩グループはさっさと帰ったため不在で、俺が大好きな大人しめの3年生の部長たちしかいなかった。

先に行っててと言ったAも、どこかへと消えていない。

俺はその好奇心を逃すはずが無かった。


「すみません、H先輩……ちょっと聞きたい事というか、伝えたい話があって……」

部長でありドラマーの先輩であるHは少し変わった人だったが、部長としての責任感が強くとても頼れる人だった。

最初の基礎練の時に着いてくれた時も的確で良いアドバイスをたくさんしてくれて、俺自身も先輩の演奏に凄く憧れて慕っていたためそこそこ良い関係を築けている。

「どうした?」

「実は……本当かどうかは分からないんですけど、○○先輩たちと仲の良いTが、○○先輩たちが「俺以外の1年は皆ダメ」とか「校外のバンド活動に1年は絶対に出さない」とか」

「……先輩たちが言っていたT以外の1年生全体の不評をたくさん聞いて……もしこれが本当なら、私は参加しなくて良いので他のメンバーで出たい子だけでも出して貰いたいです。お願いしますッ!」


我ながら演技力は高いと思う。


正直大好きな先輩を利用する事には少しばかり抵抗があったが、責任感が強く情に厚いH先輩ならきっと動いてくれるだろう。

彼を含め、今この場にいる先輩たちはとっても「良い人」だからね。

(うちの部活の顧問は生徒会の顧問でもあり、その場にいた3年生の先輩たちの中には滅多に来ない生徒会役員のメンバーが3人もいた)


「アイツ……そんな事言ってたのか。
分かった」

「1年だけ出れないとかそういうのは無いから、大丈夫。この件は俺からきちんと顧問に伝えておくよ」

「先輩……ありがとうございますッ!!!」



鉄は熱いうちに打てと言うが、まさかこんなベストタイミングでTにとどめを刺すために置いた布石が俺達を守る盾になってくれるとは。

人生は小説より奇なり。

嗚呼、人間とは何故こんなにも愉快で楽しいんだろう。

俺は悦に歪んだ口元と喜びを抑えながら、二人に「脱出」の合図を送る。

校外へと脱出し、自転車を持ち出してくれた先輩二人とも合流して俺達は無事に帰宅する事ができた。

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