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北欧旅 vol.3
ヨーロッパは国と国が近い。
週末になると船に乗って違う国へと買い出しにいったりする。
これは日本とちがうところで、私達は普段船に乗る機会がとても少ないように思う。
今回は生まれて初めての船旅。スウェーデンのストックホルムからフィンランドのヘルシンキまで16時間ほどの海の旅だった。
船の中にはごはんを食べられるレストランやバー、ダンスフロアやサウナなど、楽しめるものがたくさんある。
とりわけ私が興奮したのは船の上でのお買い物だ。免税店や土産物屋さんがあるので、なぜか海の上でスニーカーを買っていたりする。
船は波をかき分けながら進む。
遠くに見える日暮れのストックホルムの家々の窓からは、オレンジ色の光が漏れている。
真四角の窓にぺたりと張り付いた幸福のカケラみたいな明かりの束が見えなくなる頃には、
黒い海と重たい色の空だけになった。
自分がゆらゆらと浮かぶおおきな乗り物にのっていることが、なんだか心許ない感じがしたけれど、心も柔らかな水に浮かんでいるかのようにゆったりと漂っていた。
いつもの仕事や日常からきれいさっぱり切り離された海の上で、わたしはただただわたしだったように思う。
部屋にとりつけてあったちいさなラジオから、心地いい洋楽が流れて、頬づえをついて空と海ばかりをみていたあの時間は、今思えばこの旅でいちばん心に残る瞬間だった。
空と海はどんよりとあつぼったい白と灰色のグラデーション。
境界線は鉛筆で書いた線のように頼りない。
翌朝、甲板にでてみた。
風が吹き荒れ、身体がぞうきんのようにしぼられるような寒い朝だったけれど、大小様々な形をした流氷が波の上に模様をつくっているのを、すばらしい気持ちで眺めていた。
そのとき、中国の青年が声をかけてきた。
つたない英語で、親しみを込めて。
中国では日本のことをみんなが嫌うように教育されていることを彼はおしえてくれた。
そして、彼はそのことに憤りを感じているようだった。
僕たちは日本人が好きだ、と彼はわたしたちに伝えてくれた。
中国人に対しての差別はわたしたちにもきっと少なからずあるのだろう。
けれど果てしない海の上、強風にあおられながら小さくてちっぽけな自分を携えてただそこに立っていると、なあんだ、わたしたちはとびきり自由だ、と思った。
その反面、わたしたちはどこへいっても日本を背負っている。
そして彼らは中国という国を、時々不自由でどうしようもないな、なんて思いながら、よいしょと背中におぶっているのだ。
海に浮かぶパズルのピースのような流氷は、形も大きさもとりどりで、あたり一面に世界中の国が敷き詰められているみたいだった。
わたしたちの国はどこで、彼の国はどれなんだろうか。
最後に彼が教えてくれた。
「僕のお母さんが僕にいつもこういうんだ。
若いときには遠くへ、出来るだけ遠くへ旅に
でなさいってね。」
港がみえてきた。
バイバイとサンキューを交互に交わしながら甲板を後にした。