ゴーイングマイホーム
「ゴーイングマイホーム」
2012年 是枝裕和 阿部寛 宮崎あおい
「この世界は目に見えるものだけでできているんじゃないんだよ」
わたしの人生の一本といったらおおげさだろうか。答えは否。
決して大げさではなく、私はこのドラマが大好きだ。
昨日も最終回を見て同じところで目に水がたまった。
「この世界は目に見えるものだけでできているんじゃないんだよ」
何度も何度もいろんな登場人物に言わせている台詞。
妖精とかコロボックルとかまっくろくろすけが見えなくても、もしかしたらそれは世界の片隅に滲んでいたり、世界の裏っかわにぺたりと張り付いていて、ひょんなことで姿をあらわすのかもしれない。
大人になってもみんな何かを信じていたいのだ。
阿部寛演じるうだつのあがらないCM制作会社の男が、だんだんと目に見えないものを信じるようになっていく。
それは大人になるにつれて近寄りがたくなっていた父親からの愛というものだったり、自分の築いた家族へのあったかい気持ちだったりもする。
忘れかけていた仕事への情熱だったり、見えないものを畏れる気持ちだったり。
すべて目にはみえないのだった。
けれどきちんと存在している。
それは南極の氷河がいやおうなく毎秒崩れ落ちたりしていることと同じくらい確かなことだ。
ファンタジーとか冒険とか子供のそれとは別に、大人にはもっと上質な物語があるのだと思う。
それはそっと交わす会話の中に、たとえば日々の暮らしの中に、はっとしてしまうくらいの瞬間があるということ。
大学生の頃にバイトをしていた。
水道の蛇口をひねって洗い物をしていたら、虹色が見えた。
蛇口に反射する七色の光の粒。
普段は隠れているけれど、見えていないだけで虹色は確実に存在している、と感じてとても興奮した。
まるで宝物をみつけた海賊のように。
わたしはこのとき紛れもなく世界の裏っかわに張り付いているものに気付いてしまったのだと思う。
ひょんなことから。
ゴーイングマイホームの最終回、エンディング曲とともにお葬式のお香典にかかれた小さな名前をみたとき、人生はそういう小さなひとこまひとこまの連続だとおもったらいとおしくてまた泣けてきた。