ゲースロその3 最終章おもんない問題
俺は面白いと思うんだが、海外などでは「おもんないから作り直せ」という激しい運動が起きていたようだ。
冗談半分だと思うが。
「作り直せ」って言って作り直すわけないだろう。ただ本気の人も混ざっているだろうし、みんな別にゲースロ嫌いではないというかむしろ好きだから言っているのだろうし本気度が伝播したという話かもしれない。
作り直すわけないだろう。
この運動を盛り上げれば作り直すはずだ! と本心から信じている人たちがいたら、それはそれでファンという気がする。ピュアすぎるが。
キャラが多すぎて処理し切れていない話は前回も書いたんだが、最終章は確かにちょっと処理をしくじった部分が多かったと思う。
打ち切り説もあるぐらいだ。そんなわけないのだが。
七王国が六王国になって王の血縁相続をやめるまでの話だ。ずっと話の中心だったスターク家の北部は独立勢力となったのだからストーリー的には全然纏まっている。
キャラ人気は昨今、欠かすことの出来ない要素だし、いいキャラが連発されたが、デナーリス絡みでガチャガチャになったのも前回書いた。じゃあデナーリスをやり直せば済むのかというと、そうでもないと思う。
脚本を追うというか片付けなきゃならない最終章に置いて、キャラの処理が全体的に追いついていなかったのがポイントだと思う。
この「キャラを持て余している」という状態は、俺は第7シーズン『氷と炎の歌』辺りからうすうす感じていた。北から死者が来るから大変ですというのをみんなに見せて納得させよう! ということで、ジョン様ご一行というかジョン・スノウを筆頭に、ハウンド、ベリック、ソロス、ジェンドリー、トアマンド、ジョラー・モーモントというちょっと多すぎない? という顔ぶれで死体を探すスタンド・バイ・ミーみたいな展開になった時に、ちょっと様子がおかしいぞとは思った。
ネームドキャラ集めて今までの歴史を振り返ろうみたいな、巧くやれば視聴者にとってはボーナスステージみたいな話になるが「これ強引に『纏めました』感出し始めてない?」という危機感が俺の額で火花となって炸裂した。次は最終章ということもあってか、いったん纏めてみた感じなのだが、別にそんなにいなくて良くない?
だって動く死体を一体持ち帰ればいいだけですよ? 誰も打ち破ってこいなんて言ってませんよ。三人ぐらいでいいよ。どのみち、その人数と顔ぶれだったから何か役立ったわけではないし。
何にせよ、長期シリーズはダレることは避けられない。これは原作者がガッツリ関わっている(既に原作書くよりドラマの脚本進めることが楽しくなっているとすら邪推されている)ゲームオブスローンズでも避けられない。途中で原作者が離脱しました、というよりかはマシかと思うが。少なくとも果てしない迷走は発生しない。俺はウォーキングデッドの話などしていない。
長期シリーズを終わらせる時に気をつけなければならないのは多数、作ってしまったキャラの処理で、しくじるとファンが激怒する。なんなら脚本なんかグダって良い。ビーフシチュー作ってても良い。
良くないが。
造るならダイアウルフの形したパンにしてください。
第7シーズン『氷と炎の歌』の時点で制作陣が焦りを感じ始めていたことが伝わってくる。つまり「お話」として纏めるなど苦でもないが、キャラ、どうする? というヤツである。
非常に厄介なことに、キャラ人気というのは制作側でコントロールできない。もうちょっと言うと「人気が出るように」コントロールするのは比較的、楽だと思う。センス頼りにせずともデータや統計というものがある。これが終わらせるとなるとキツい。
何度も歴史物の話をしてしまうが、歴史物などは「死んどるから、ここで死んどるから」で終わりでいいし、ファンだってそこで死んでることぐらいは知っているので無茶は言わない。
終わってもいいが散り際であるとか、ストーリー上の意味であるとかを充分に消化してくれれば、みんな満足だと思う。
残念ながらゲームオブスローンズはキャラが無数にいる。
キャラ描写に尺割いていたら話がそもそも終わらない。
とは言え第7シーズン『氷と炎の歌』には俺の大好きなリトルフィンガー処刑回がある。スターク家の女性をコントロールすることにかけては絶対の自信を持つリトルフィンガー、ピーター・ベイリッシュ公が、うかつにスターク家三兄妹を纏めて相手にしてしまったが為に処刑される回である。
作中きっての「人脈と口先でなんとかする」というカメレオンのヤザワみたいな生き方で鉄の玉座まで視野に入れているというピーター・ベイリッシュ公だが、個別撃破ならともかくスターク家三人を同時に相手にしたのは無謀であった。
相手はダイアウルフの紋章を掲げるスターク家である。
チームプレイをさせたら勝てるわけがない。
俺はいつから、アリアとサンサが示し合わせて協力体制を取っていたのかを考えるのが好きだ。俺の説では「矢は一本しかなかったから同じ矢を使って30回も40回も射ってやっと命中させた」のくだりだ。
毛利元就的なアレだ。
まあそもそもブランが白目剥いて全部見ているのだからアレなのだが、それだと証拠に欠ける。アリアとサンサが詰めた上で「なんで知ってんだよそれを!」というのを被せてくるから強いのである。
スターク家の人間は個別撃破しないとタチが悪い。
口先で生きてきたピーター・ベイリッシュ公だが最後は口先の争いで負けて処刑された。最高ですね。
細かい話だが、ホワイトウォーカーを殺せるのはドラゴングラス(黒曜石らしい)で出来た武器と言われていたのだが、のちにヴァリリア鋼(ガンダニウム合金みたいなヤツ)で出来た武器でも良いとされている。
ただヴァリリア鋼の武器は七王国に数本しかない。ネームドキャラに持たせるには良い。だいたい武器にも名前が付いている。ハーツベインとかロングクロウとかいい感じで中学生感のある名前だ。
シーズン1で名もなき殺し屋がブランを殺そうとして使ったナイフもヴァリリア鋼なのだが、その頃は設定上「高貴な人が持ってる刃物の金属」くらいの扱いだったのかもしれない。
その名もなきナイフはのちにアリアが受け継いで物語のキーとなるのだが、どっちかったらアリアの持っている「ニードル」(短いレイピアみたいなの)をヴァリリア鋼にしておいた方が良かったのではないかと俺は思う。
ニードル、マジで三回くらいしか使われていない。
だがニードルではハウンドの鎧すら貫けないので難しいところですね。ヴァリリア鋼なら貫けてたのかな。それだとあそこでハウンド死んでたね。難しいですね。
アリア・スタークは作中最強候補の一角を担い、少なくとも「手段を選ばずとにかく殺せ」というお題ならば一人で七王国の名家を次々と壊滅させることすら可能かもしれない恐ろしい女である。というかそれを仕込んだジャクェン・フ=ガーも恐ろしい男であるが、ジャクェンには恐らくルールがありルールを守っている。
アリア・スタークにはそんなもんはない。というか身につく前にいいとこ取りでブレーヴォスの街から出て行った。
アリア・スタークを縛るものと言ったらスターク家ぐらいだが、のちにアリアは誰も知らない七王国(現・六王国)の西へと一人旅立っていく。あんな人間殺戮兵器を野に放って大丈夫だろうか。西とやらが心配である。
最終決戦前に「セックスがどんなものか教えて貰おうか」という感じで、初めてのセックスに挑むのに選んだ相手(ジェンドリー)を突き飛ばして押し倒す女である。俺にはアリアの背中に鬼の貌が浮かんでいるのが見えた。
ジェンドリーはその後、嫁になってくれと頼むが、アリアはマジで「どんなもんなのか知りたかった」だけらしく、もう用済みですとばかりにお断りする。
まあジェンドリーが正式にバラシオン家継いだからレディにはなれないという理由だと思うが。一緒に冒険の旅に出ようぜ! とかジェンドリーが言ってたらちょっとは違ったかもしれない。
俺が唯一「作り直してくれねえかな」と思うのは、恐らく最も盛り上げなければいけない「長き夜」である。ゲームオブスローンズのそもそもの本軸と言っていい、北からやってくる死者の軍団、そしてラスボスと言っても過言ではない「夜の王」との決戦で、北部諸侯とデナーリス軍の連合による総力戦である。
ラニスターは来ないよ。サーセイは最低だからね。
でもジェイミーは来るよ。ジェイミー一人でいいよ。ティリオンはもういるし。
オールスターキャストでお送りする一大スペクタクル最終決戦。鬼舞辻無惨vs鬼殺隊みたいなもんである。
オールスターキャストで戦わせればいいというものではない。
まず夜だからってそんなに暗くすることないだろ。何してんのか分からん。よく見えん。あと乱戦の中でカットインする主要キャラの前をチャカチャカ色んなものが横切るから、邪魔。
これはある意味仕方のないことで「数で力押ししてくる有象無象が10万人くらい」という相手に陣形も戦術もどうでもいいことなのでひたすら、死者を倒し続けることとなる。
死者側にはネームドキャラなどいないので、別に凝った因縁の戦いが差し挟まれる訳でもなく、えんえん、乱戦と消耗戦を繰り返す。その上、いつもより放映時間が長い。
全部ダメという訳ではない。先鋒のドスラク人騎馬隊が夜の闇に突っ込んでいってシーンってなって、ぽちぽち馬を捨てて逃げ帰ってくるところとかは面白い。あとドスラク人の変な刀にエンチャントファイアしたメリサンドルというのも面白い。特に役に立ってなさそうだったから。
戦争の見せ方はゲームというか。ある程度ルールがないと見ている方が面白くない。ここで落としたから、ここで取ったから、みたいな感覚があるから爽快だったり悔しかったり悲しかったりするのであって、無限湧きしてくるザコに力押しされても不条理な思いがするしそもそも飽きる。
ドラゴンの使い方もかなり雑だし(ドスラク人突撃の前に物見を兼ねて飛ばした方が良かったと思う)塹壕に並べた鬼フェンスに火が点かない! とかも「何でだよ!」というストレスが溜まる。ちなみにその鬼フェンスにはメリサンドルが着火する。結構時間かけて。完全にチャッカマンだよ。着火装置だよ。あとたまに人を生き返らせたりする。
「夜の王はブランを狙ってくる」からブランをおとりにしているのだが、だったらもうちょっとブランの周囲を固めろとも思う。なんでシオンと鉄の民しか配置されてないんだ。ちなみに一応ドラゴンは待機していたが、例によってデナーリスが死者の群れに焦って飛び立ってしまう。
しまうのは別にいい。
ドラゴン投入しても戦況が変わらないんだよ! 無数の死者を適当に焼いてるだけ! ここら辺りは、設定上、仕方ないとしても、もうちょっと見せ方を工夫して貰いたかったと思う。
挙げ句の果てには夜の王が両手挙げたら、今度は「さっき死にました」みたいなのが起き上がってやり直しでしょ? 絶望感より先に「もういいよ」という飽きが先に立ってしまう。
アリアが城の中ちまちま逃げ回ってたのも意味わかんない。ブランのところを目指していたんならまだ分かる。無作為に城の中を逃げ回っていたようにしか見えないし、ジェンドリーに造らせた変な武器も早々になくした。
拾ったドラゴングラスの短剣とかで戦うのは、この後の展開に寄与するため仕方ないのだが、何せ、例のヴァリリアンナイフがデカい。装飾もあって存在感ありすぎるため「それを使いなさいよ」と思ってしまう。
でもシオンとブランの会話は大好きだよ。
作中屈指の最高会話だよ。
「ブラン、後悔している、俺の行為は……」
「だからここにいる。故郷に」
とかブランが最後に
「君はいい人だ、ありがとう」
って言ってくれるところとか、シオンが救われた感じがしていいでしょ。シオンはアホだから無理してメチャクチャやろうとして全部しくじった上に本当はそんなことしたくなかったけどしてしまって、俺は、俺は、ウワァーっ! ってなってるとこにかける言葉としては大正解だと思います。
音楽もいいよね。絶対に死にますミュージック。耽美。
良いとこと悪いとこが混在している「長き夜」だが、投入した人員を長尺使っても巧く処理出来なかったのが目立つ。あとやはり、戦闘シーンが雑。夜の王の側近を何人か殺して、敵の死者がガバッと纏めて砕け散るぐらいのメリハリがあったらかなり違ったかもしれないし、ネームドキャラももっと生かせたと思う。
というかそうして欲しかった。果てしない消耗戦見せられても困る。
個人的に、海外の作り直せムーブメントに俺も何か賛同出来ることがあるかな、と言えば、そのぐらいである。それも別に集団で署名集めてSNSでボロクソけなしてまで言いたいかというと全くそんなことなくて、「まあ、強いて言えば長き夜かな」というだけで、別に作り直さなくてもいいです。
そういう気持ちを持つなとは言わない。俺だってたまにそう思う。
ただあまり本気でやらない方がいいと思う。
理由は、作り直すわけがねえから。
俺はゲームオブスローンズの顛末について文句はない。
色々あら探しみたいなこと言ったが、それは俺の趣味というだけで、正しいわけじゃないしむしろ間違っている。
文句はないどころか最高~って気持ちは見直しても湧いてくる。
俺は結局の所「話が終わる」のが好きである。
続くより好きかもしれない。
きちんと終わる話を見るととても気持ちがいい。だがヒットした作品は続けるのが得、というのも分かっている。
後日談を造るほどの欲は出さないで欲しい。
終わりは、終わりだから、気持ちがいいのである。
ところでこれは噂だが、ジョン・スノウが最後に北に旅だった後の冒険譚がスピンオフ企画としてあるという。そんな噂は全く当てにならないが、ヘタしたらやるかも知れない。
その企画に俺が期待していることはただ一つ。
ジョン・スノウのダイアウルフ、ゴーストの再登場である。
ドスラク人と一緒になって先陣として単独で突っ込み、その後描写がなく、最後にしれっといたゴーストである。片耳が千切れていたよ。むしろゴーストのスピンオフが見たいくらいです。
今回、久しぶりに一気に見て、俺の中では一区切りついたように思う。
一区切り着けるまでに何度も見てしまった。これは情報であるとか個別キャラの認識とかではなく、単に一つの作品を何度も繰り返し見ることによってまた新しい発見があったことに起因し、そして遂に、その新しい発見も掘り尽くしたように思う。
味わい尽くしたという自覚がある。
前日譚「ハウスオブザドラゴン」がそこまでの強度を持つかはまだ分からない。分からないが、まだシーズン1である。答えが出るのは数年後だろうか。その時まで付き合ってみようと俺は思っている。
ところでマウンテンって強化改造新型マウンテンになってから特に何もしてなくない? 無言で立ってただけでしょアレ……。「沈黙の誓い」を立ててたから喋れなくてもいいんだけど、最後サーセイの保護よりハウンドとの対決を優先した時に、最後に何か一言喋ってほしかったですね。
沈黙の誓いとかもうええわ! みたいな。
クァイバーンは死んでますしね。
まあその辺も、俺の趣味です。
趣味を余り押しつけるのは良くないゾ。
皆様もどこかでそういうブレーキを意識してみましょうね。