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クリードとロッキーさんと超人兵士イワン・ドラゴとその息子ヴィクターの物語

 アラビアンナイトみたいなタイトルを着けるな。
 それはそうと、またいきなり脈絡無く、今度は「クリード 炎の宿敵」を見た。見た理由は、U-NEXTのおすすめみたいなとこに並んでいて、見忘れていたのを思い出したからだ。ちなみにちゃんと「チャンプを継ぐ男」も見ているし「龍を継ぐ男」も飛び飛びだが読んでいる。龍を継ぐ男はこの際関係ないので余り触れないようにする。

 みんな大好きイワン・ドラゴが出てきて、ヴィクターっていうクソデカ息子と、アポロの息子アドニスの戦う話だ。イワン・ドラゴはみんな大好きなはずなので、この映画もみんな大好きだろう。

 ロッキーの経営しているエイドリアンって店には、ロッキーの華々しい現役時代の思い出画像がたくさん貼ってあるのだが、店に来たドラゴが「俺のだけない」って言い出すのだが、スタローンとラングレンは仲良しなので(多分)うっかり忘れがちだが、ドラゴの写真なんか貼ってあるわけないだろ、親友の仇だぞ、というのを思い出すのに二秒くらいかかった。
 なのでよそよそしい会話をするのは当たり前なのだが、何やら寂しいモノがある。

 俺はロッキーシリーズ好きというか嫌いな人そんなにいないと思うのだが(そもそも興味ないとか暴力反対とかは別として)何故か「3」がどんな話だったかすぐ忘れる。
 なんならロッキー4を3だと思っていることもある。
 3って何したっけ、って感じだ。でも多分見直したらすぐ思い出して興奮すると思う。ひとの記憶は曖昧なモノであるのでこれでよしとするし3の話も2の話も1の話もしないで4の話をする。

 イワン・ドラゴは旧ソ連の作り上げた人間兵器みたいなボクサーである。X-MENで言うとオメガレッドみたいなモノであり、ドラゴの嫁はレッドソニアである。
 パンチ力は一トン近くある。かなり超人大募集で小学生が端っこに書いた設定に近いものがあるがギリオッケーだと思う。小学生なら100トン前後は固い。
 旧ソ連の科学力によって作り上げられた超人がドラゴ。俺はそういうのに弱い。ニュータイプより強化人間が好き。なんかこう、先天的と後天的の違いというか、デザインヒューマンには夢があるというか。そんなもんろくな夢ではないが。

 そういうポジションの人が旧ソ連首脳陣の見守る中、ホームで戦って敗北してしまったのでその後おちぶれ、ウクライナで肉体労働をしながら息子を鍛え上げていく。ヴィクターはドラゴとレッドソニアの息子である。強いに決まっている。というかデカい。ロシアって感じだ。

 この辺、昨今の政治状況と相まって(完全に偶然だが)ギリギリ感があり背筋がちょっとピンとなる。ロシアからウクライナに流れてきた自分のことをドラゴは「ウクライナの野良犬」と評している。なんかこう、ロシアの流刑地扱いされている気がする。景気よくない感じとか。
 それでも片田舎ぐらいの扱いなので、この頃はそうだったんですね、という歴史的資料としても価値があるのではなかろうか。言うまでもなく別にそんな価値はないと思うが、当時の肌感覚みたいなのは伝わってくる。
 そんな中でもロシアの高官は貴族面したイヤな連中だし、今まで放置していたくせにヴィクターが結果出し始めると晩餐会で趣味の悪いトランクスをプレゼントしてきたりするのだが、多分「もの凄く偉くなっています」というていで沙織お嬢様に羽根生やしたドレスみたいなのを着てのうのうと現れた元母親、レッドソニアを見たらヴィクターも遂にブチ切れて退室するしドラゴもあとを追って口げんかを始める。

 この辺、うまいのだが、ドラゴの訓練や態度はかなり乱雑で、容赦がなく、ストーリー的には「親父のことが本当にキライ」という筋書きになっていてもおかしくないのだが、親子の絆は深くて強いということをちょっとした会話で匂わせるし「みじめな境遇になったのは俺が負けたからだ!」ってちゃんと自分のせいにもしているし(ほんとは旧ソ連の官僚が意地悪だったのが主な原因なのでヴィクターの苛立ちの方が正しいが)今後の生活のことなども考えている。政治家には頭を下げておいた方が良い。大人の判断。
 あと「他人を恨んでも仕方がない、今の俺は過去の俺が悪い」と思い切れるのは自分に厳しくすることに潔さがあり、体育会系の権化であるがドラゴは元々オメガレッドだったので高官には逆らえないのかもしれない。脳の中にそういうのが焼き印されている可能性がある。
 
 ところでクリードことアドニスだが、この作品は旧作をわざと踏襲していると何かで読んだので4のストーリーをなぞっているから、一回目の対決では死ぬほど殴られてぶっ倒れる(反則負けなのでチャンピオンの座はそのまま)が死ななくてヨカッタネ。死んだら話は終わりだが。
 脚本家が狂っていたらここでロッキー再登場で仇を取るとか言い出したかもしれない。そして息子が叩きのめされてから今度はドラゴが一トンパンチを繰り出しにリングに現れたかもしれない。俺は今、最悪の展開を考えるのに夢中になっている。
 これがロッキーのナンバーズでもなければ脚本家も狂っていなかったようなのでアドニスはちゃんと助かるので安心してください。というか俺だってそうする誰だってそうする。

 嫁に子供が出来たなどもあり、産まれるまである程度育つまでという尺を使って再トレーニングするのは見せ方がうまいと思う。単に鍛え直しているより、ちゃんとケツが決まっているので見ていてダレない。
 ロッキーが連れて行くのは野蛮な荒野の中にある野蛮なトレーニングをする場所だが、ロッキーもドラゴと戦う前は山小屋にこもって木を切ったり担いだりと野性的なトレーニングをしていた。一方でドラゴは科学的トレーニングをしているワケで、ツボに入る対比があった。
 今回も最新設備のきれいなジムで鍛えるヴィクターと、野蛮な荒野にある謎の施設で「タイヤに片足突っ込んだまま打ち合って接近戦の訓練をする」「地面に無意味に大きいハンマーを打ち込み続ける」などを繰り返す対比は当然ちゃんとあります。なかったらおかしいので。ただちょっと謎拳法の修練みたいな印象はあったが。そもそも、その施設、何? という気持ちにもなるが。

 実際の試合シーンの話になるのだが、結構コレがテクニカルで見応えがある。右を攻めさせておいてきれいに左から攻めるとか、駆け引きがちゃんと視聴者に伝わるレベルで描かれている。リアルかどうかはともかく、組み立てが分かりやすい。
 何となくボコスカぶん殴られながら何度も立ち上がってワーッと攻めまくっていた昔のロッキーよりテクニックは重視の見せ方にしてあるとは思う。一トンパンチを何回も喰らっては立ち上がり喰らっては立ち上がりという、かつてのロッキーファイトは、2回くらいならいいがずっとそれだとドラゴが「あいつは無理。人間じゃない」ってビビり初めても仕方ないと思う。
 まああの辺は精神論優先の描き方だろうし、あれはあれで「旧ソ連のこざかしい科学などアメリカのタフガイには通用しない」という構図なので、細かいこと考えなくていいからあれでいいと思う。
 言うまでもなく俺たちはタフガイが好きだ。

 前振りで「俺は負けたから全てを失った」とドラゴが言っていたシーンがここで「勝たなきゃ終わる」という気持ちがヴィクターを奮い立たせるし、完全に途中からビビり腰になっていたかつての親父とは違ってヴィクターには後ろに親父が控えているのもあって集中力は切れない。
 この辺も親子の絆みたいなのが感じられて、親父の為にもヴィクターは勝たなきゃならんのであって旧ソ連の鼻持ちならない連中に、途中で「俺はお前らの操り人形じゃない」とブチ切れていたドラゴとも対照的で良い。お前もやってみろよ、アレもう人間じゃねえぞ、そんなのと今やってんのは俺なんだよ! みたいな独立心と反抗心。
 そういうのないから。むしろ絆深まるから。
 もうなんか対比が全部良い。対比がうまい。

 この手のは「いかに鑑合わせにしつつ調整するか」に正否がかかっているところがあって、時間をかけてかつてのファンだった人が出世したりなんだりしてファン目線での作り方などすると巧く行くことが多い。
 余談だが、最初から構想があったっぽいとは言え、「ターミネーター」と「ターミネーター2」のその辺の調整は異常にうまいのであれはあれでバケモンの一種である。それだけが正解とは言わないが、見ていて気持ちがいいのは間違いない。

 勝つか負けるかったら、んなもんアドニスは勝ちますよ。
 そういう話じゃないんですよ、過程と心の動きと人間関係の話なんですよ。そういうものをボクシングという競技、試合というものに収束させて描いているワケですね。はい。
 ボクシングの映画なので他が雑でもボクシングさせていればいいだろうとか、そういうことではないしどっちが勝つかはお楽しみ! みたいにしたって仕方ないでしょ。
 ロッキーが勝つか負けるかはどうでも良くて、最後にエイドリアンのことだけ探しているところが良くて「ロッキー見たことないけど最後にエイドリアンって叫ぶんでしょモノマネで見た」とか、さも筋書きは知ってますみたいなツラで得意げに言われても、可哀相な奴だなお前は、としか俺は多分、思わない。
 ストーリーってそういうものだけではないですよ?

 ドラゴが、息子の走り込みには車で先導していたのに、負けた後は車使わず自分も横で走るんですよ。ここまで重ねられたものは感情の話であって筋書きの話ではないので、オチまで言っても良いとされている。
 ネタバレなど通じないという作品がこの世にはある。

 ところで次作の「クリード 過去の逆襲」はまだ配信がえらくお高いのでしばらく見ない予定なのだが、次はスタローンとか出ないらしいとかそういうことをどこかで読んだ。スタッフとしては参加しているっぽいが。
 結構な博打だと思うが、既にファンサービスでトレーナー兼セコンドやってますみたいなものなので、そろそろファンサービスはやめてもいいと思い切ったのかもしれない。俺はそういう思い切った切り捨ては好きなので期待したい。いつまでも遺産で食っていくようなことにするとだいたい、ろくな事にならない。
 鼻持ちならない映画の出資者や偉い人などの甘えた意見は無視して良い。あいつらはアホ。そんな架空の悪役を造ってムカつかなくてもいいと思うが。映画関係者はきっと皆さんいい人ですしストーリーをガッチャガチャにしてまで数字優先したりしませんよ?

 そんなワケでみなさんもロッキーとかクリードとか見て、フォームもへったくれもないボクシングの真似事をしながら階段を上ったり降りたりしてみましょう。エンディングでそういう人たちが流れるのでそれでいいと思います。ちなみに、俺は、しません。
〈おわり〉

 




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