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引用・・高橋順子さんの詩

  

 「あの女とこの女」

炬燵のそばに
缶ビールの空き缶がたまっている
それは灰皿として使用される
女は空き缶の口に造花のバラの蕾をさしてみた
バレンタインデーとかで男に女友達がチョコレートを送ってきた
その包みについていたものである
けったいな風習や と男は言うが
まんざらでもないらしい
うまくないやろが喰うとするか
あなたも一つどうや
あの女が愛人になってくれんやろか
この女に男が言うので
口説いてみたら とけしかける
そうしたらあたし貯金をぜんぶおろして
競馬場めぐりをするんだ
炬燵の中から威勢よく跳びだすのは
言葉の売り買いばかりで
両名なかなか腰があがらない
もう七百年くらいは経ったかな
雪がつもりはじめている

  🚗🚗🚗🚖🚖


高橋順子さんは、私小説作家車谷長吉さんの奥様としても知られていますが、この詩は、ご主人との、ほのぼのだけではない過酷ともいえる、共に文学者夫婦の日常が、ちらっと覗ける作品ではないでしょうか。夫を支える、支えきった高橋順子さんは幸せだったと思いたいのですが。