『仕事終わりに奏でるメロディー』Track 1.0
【Track 1.0 お楽しみはこれから:mayu side】
「おっ疲れ様ぁ~」
結乃の妙に明るい乾杯のおかげで、私は落ち込んでいることに気づいた。
「お疲れだね、結乃。今日何かあったでしょ?」
「えっ!? バ、バレてる?」
私に向けられた中ジョッキが不意に止まる。
「バレてるも何も、顔に書いてあるよ」
「うぅ……、茉優ぅ~」
「今日も聞いてあげるから、話してよ」
持ち上げられたままの中ジョッキに私のを軽く触れさせ一口飲むと、結乃も同じく口をつけた。
ジョッキを置いた結乃はメニューを私に渡してくる。
いつものようにメニューに目を通しながら、適当に結乃の好きなぼんじりを10本ほど注文。店員さんを呼ばなくていいタッチパネルからの注文は楽で好きなんだよね。
「それで、どうしたのよ?」
店内に目を移していた結乃が私に顔を向ける。はらっと揺れるサラサラのピンク髪を脳に瞬時に録画していると「茉優?」と首を傾げられた。
いかんいかん、私の方がいろいろとバレる。
「ごめんね、見惚れてた」
「見惚れてたっ!?」
つい心の声が漏れてしまった。
「違う違う、何を見とったのかと思っただけ」
「そ、そうなんだ、急に言われたからびっくりしちゃった」
えへへと照れ臭そうに後頭部に手を当てて笑う結乃。ひとまず誤魔化せたことにしよう。
「それより話してよ」
頬杖をつきながら話を戻すと、結乃はジョッキを両手で持ちながら話してくれた。
どうやら、通勤中に読んでいたマンガのヒロインが亡くなったらしい。
「別に結乃が落ち込むことないんじゃない?」
ひと通りの話を聞いた私は、感想として思ったことをそのまま伝えた。
「だってさ、高校生のときに初めてできた彼女さんなんだよ? ずっと一緒って約束もしてたのに通り魔に刺されちゃって……」
話しながら思い出したのか、少し涙目になった結乃はその展開がどうしても受け入れられないらしい。
「言いたいことはわかるよ。わかるけど、マンガだし」
そう言うと結乃は「冷徹~」と頬を膨らませる。
こんな感じで仕事終わりに結乃と過ごす二人だけの時間が私は楽しみで、いまでも変わらず私はそばにいる。
「でも、結乃が急にいなくなるって考えたら嫌だわ」
何気なく出た声に結乃が目を丸くしていた。
「? 何?」
「えっと……、そんなのわたしも嫌だよ」
妙な沈黙、ビールも一口しか飲んでないのに……。
早くぼんじり持ってきて。
続く