『この音が届くのは、キミだけでいい』

『再会』


『週末空いてる? よかったら遊びに行かない?』

 帰宅早々にスマホをテーブルに置こうと鞄から取り出すと音菜からLIMOが届いていることに気づいた。
 音菜とは高校卒業から約6年間連絡を取ってなかったけど、明坂から聞いていたような落ち込んでいる感じはなく久々に会った音菜は元気そうだった。
「6年ぶりの連絡が遊びの誘いとは音菜らしいけど」
 なんとなくスマホに向かってメッセージを打ち込む音菜の姿を想像して、無意識に独り言をつぶやいていた。
「いやだ」
 そっけない返事をしてスマホをテーブルに置こうとすると、すぐにスマホが震えた。
 もう一度スマホに視線を移すと
『電話するから出て』
 と、短いのに一方的で圧のあるメッセージが見えた。
 そのメッセージ通りスマホが震える。音菜からだった。
 ほんの少し、口元が緩むのを感じながら通話ボタンに触れ耳に当てる。
『久しぶりだね、正輝。こっちに戻ってくるなら言ってくれたらいいのに』
「すまん、急に決まったことで連絡できなかった」
『ぜったい嘘だ』
 拗ねているのか、頬を膨らませているような口調だった。そういうところは高校の頃から変わっていない。
「嘘じゃないよ。引っ越しの準備とかいろいろあったからな、それで、遊びに行くって?」
 明坂から音菜のことを聞いて東京に戻ってきたことはダサく感じて、ボロが出ないように話を誘導した。
 週末のことに触れると、音菜は『うん』と小さく息を吐いてから話してくれた。
 どうやら、明坂と一緒に行く予定だった音楽系のイベントに明坂自身が急に行けなくなり、俺にLIMOしてきたらしい。
「話は分かったけど、他に誘えそうな奴はいないのか?」
 大学で他の人間関係だってできているはず。そう思っていると『……正輝がいい』と、小さな声が耳に届いた。
『正輝と行きたいの、私とじゃ……ダメ?』
 続く声は恥ずかしいのか、さっきよりも小さく、心には大きく響く。
 そう言われて脈が速く打ちだす。まるで高校の頃に時間が戻ってきた感じで、むず痒い。
「……いや、別に」
 そういうわけじゃ、とほんの少し遅れてそう伝えると音菜は『約束だよ』と小さく嬉しそうに返してくれた。
『じゃあ週末、絶対だよ』
 また明日ねと、通話は切られた。
 スマホを耳から離し、テーブルに置く。
 本当はグルメ雑誌の編集者になってから東京に戻る予定を組んでいた俺にとって今回の転職はいろいろと犠牲にするものが多かったが、久々に音菜の声を聞くと些細なものに感じられた。

 どうしてか、まだまだあの頃のように音菜のことが好きらしい。
 もしかしたら、あの頃以上かもしれない。

 東京に戻ってきてまだ数日しか経ってないのに、これからの生活が楽しみになってきた。