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「生まれてから会ったことのない父親に会う」というクエストが発生しました

 人生ってのは、楽しいけど理不尽なとこもあって、たまに「あーやめたいなー」と思うこともあるけれど、ゲームみたいに簡単に電源ボタンを切れない。

 そんな時、人間は何かしらで現実から逃げたりして、心や精神を守っている。と、俺は考えている。

 例に出すとすれば、俺はこの人生をオープンワールドのゲームと思っている。自分が「なんで、こんなことしなきゃ行けねぇんだよ」と思っても、それはサブクエストをクリアするための条件だから仕方ないと言い聞かせる。

 不思議なもんで、怒られたり理不尽なことがあっても、「適応力のステータス上がったわ」と思えて余計なダメージが入らないので結構良い。みんなもやってみてくれや。

 話を戻すけど、人生がオープンワールドゲームならメインクエストが存在しているはずだ。俺は今まで、「これがメインクエストだ!」と思えるような、いわゆる自分の生まれてきた意味みたいなものを見つけたことがないんだけど、この前それに近いものに遭遇した。



 足の悪い祖母が、どうしても外に行かなければ行けなくなった。その日は1日空いていたから、婆さんの用事に付き合うことにした。銀行に行き、昼飯一緒に食べて、買い出し行って、婆さんの化粧品もらいに行って、帰りにケーキを買う。

 ほぼデートだな。楽しかった。そんで帰りの車の中で、婆さんと最近生まれた従兄弟の子どもの話になった。「俺もおじさんかぁ」なんて話してだわけなんだけど、婆さんはこんなことを言い出した。

 「あんたがこの家に来たのを今でも覚えてる。1歳8ヶ月やったわ。まだよちよち歩きでな、この子をどう育てようかって悩んだもんやわ」

 母親が、父親と別れて実家に帰ってきた時の話だ。俺は生まれてから父親を知らないし、今の今まで、家族と父親についての話をすることもなかったから、ちょっと聞きたくなって「親父はどんな人やったん」と言ってみた。

 婆さんは、「あんた顔は母親そっくりやけど、性格は父親に似たな。優しい人やった。」と言った。

 その時、ちょっとだけ父親に会いたいと思った。どんな人なのか気になった。子どもの頃は、「俺を捨てた悪いやつ」だと思っていたから、会いたいなんて思っていなかったけれど、少しは分別のついた今なら、会いたいと思う。ほんのちょっとね。

 そうしたら頭の中で、

クエスト
「生まれてから会ったことのない父親に会う」

が発生した。




 父親がいないと、父性のステータスが0に近いので、たまに大人の男の人から父性に近い感情に当てられると、くらう時がある。

 昔、バイト先で店長(男)にバチギレられた時があった。まぁ、そのキレは俺が悪いだけじゃなくて、さまざまな要因が絡み合って起こったことだったので、店長も悪いと思ったのか俺に話しかけてきた。

 俺が頑張ってることとか、こういう時はこうした方がいいとか、将来こういうことがあるからこういうことを言ってる、などを言われたわけなんだけど、俺は大人の男の人からこういう話をされたことがなかったからなのか、父性みたいなものを感じた。

 その感覚がめっちゃおもろくて、ぽっかり空いた穴みたいなとこに、粒子が入っていく感じ、埋められるわけじゃないんだけど、なんとなく安心する。これが父性を受けた子どもが感じるものなのか?

 今までの人生、父親がいなくて困ったことがなかったし、普通に両親のいる人間となんら変わらないなと思っていたけれど、これを感じてしまって、面白い反面、少し悲しくもなった。

 俺の心はぽっかり穴が空いていて、半分は人間じゃないみたいじゃないか。

 父親と会ったら何かが変わるのかもしれないし、逆に酷くなるのかもしれない。そう考えると、このクエストを進めるべきなのか、そうではないのか。少し得体が知れない。

 未クリアのクエスト欄にじっと居座っている。


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