効果的なコミュニケーションとは

相手の質問に答えを返す。相手にしてほしいことを伝えて、望む行動をしてもらう。無理だったらそう答える。それだけでコミュニケーションは成立するはずなのに、これが案外難しい。

言葉のキャッチボールとは言い得て妙なたとえで、できる人にとってはよそ見をしながらでもできることが、できない人にとってはどんなに集中してもできない。

でも、練習すればそれなりにできるようにはなる。そのコツは、「言葉に唯一の正解なんてない」と知ることだと思う。

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私はWebメディアで、外注の編集者さんやライターさんの対応全般を管理している。チーム全体を統括するようなポジションなせいか、普段仕事をしていて特に多い質問は「これであってますか?」だ。社内外問わず。

内容は主に、ライターさんから編集者さんへの「この記事はこう書いたのでいいのか?」という質問であったり、逆に編集者からライターへ「こう書いてほしい」というフィードバックであったりする。

どちらも過剰な専門用語が飛び交うような小難しい話ではない(扱う企画にもよるが)のだけれど、なぜかそういったやり取りが頻繁に発生するのだ。

「これであってますか?」の根本は、「この言語はこの使い方であってますか?」に集約される。いわば、日本語を日本語に翻訳している状態だ。

中には、分かる人からすれば「どうしてそんなことも分からないの?」と言いたくなるような質問もある。お互い日本語話者であるのに、どうしてそんな齟齬が生じるのか。

だって乱暴に言ってしまえば、「『1+1は2』であってますか?」と尋ねられているに等しいのだから。

でも、『1+1=2』が正しいかどうかを数学的に証明するのは、実は結構難しい。

「1とは?」

「2とは?」

「+とは?」

「=とは?」

このすべての条件が明らかになっていないと、証明することはできないからだ。もっと言えば、「証明とは?」も明らかにしなければいけないし、「数学とは?」「数とは?」と掘り下げていかないと、本質的な答えには辿り着けない。

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言葉についても全く同じことが言える。

日本に生まれ育った人は、当然のように日本語が扱えると思い込みがちだけれど、実はそうでもない。単語の意味まで正しく理解していることは案外少なくて、誤解していたり歪曲して理解していたりなんとなく信じ込んでいたり、いろいろある。

ひとつひとつの単語を理解している人からすれば、日々のコミュニケーションでうんざりするような場面もあるだろう。

でも一方で、『正しい理解とは?』という点も明らかにしておかなければいけない。

たとえば「愛」という言葉は、たくさんの意味を包括している。家族、恋人、友達、ペット、趣味などなど、愛を注ぐ対象は数あって、しかしその対象によって実際に向けている感情は異なるはずだ。

ということはつまり、それぞれに向けて発信する「愛」という言葉は、同じ言葉なようでいて、実は違うものと考えることもできる。

あらゆる言葉で同様だ。

「今日は寒いね」と言ったとき、その「今日」とはどの時間帯を指していて、「寒い」とはどの状態を指すのか、それだけでは本当は分からない。

これを拡大解釈すれば、あらゆる言葉はTPOに応じて意味合いが変わり、「正解」はあったとしてもその瞬間にしか生まれず、そして正解かどうかは「コミュニケーションが成立したか否か」でしか証明できないのではないだろうか。

そんなの屁理屈だと思うだろうか。

しかし実際にそんな意識を持ってコミュニケーションに臨んだ結果、明らかに成立するケースが増えたのは事実だ。

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そしてようやくタイトルの話。

成立しないコミュニケーションほど無駄なものはない。それはただのノイズだ。ラジオを垂れ流して、それに意味もなく相槌を打っているようなもの。

これを避けるためには、「自分が思い込んでいる言葉の意味をいったん捨ててコミュニケーションに臨む」ことが肝心だ。

それこそが効果的なコミュニケーションに繋がる。勘違いしてはいけないのは、効率的と効果的は全く異なるということ。

効率を意識すると、「言葉数ややりとりを少なく、よりシンプルに伝えるべき」と思い込んでしまいがちだけれど、それによって成立するコミュニケーションは人間関係を醸成させない。もちろん信頼関係をすでに築いた相手との間であればいいけれど、それであったとしても+αを望むのは難しくなってしまう。

効果的なコミュニケーションは、スループットを最大化させる。

同じ記事執筆の依頼でも、ただ「これを書いてほしい」と依頼されるのと、「こういう背景があって、こんな人にこんな記事を届けたいと思っている。ついてはこの分野で信頼できる知識を持ったあなたにぜひ記事を頼みたいのだ」と依頼されるのでは、その後のアウトプットにこもる熱量も変わってくるだろう。

そしてこのときに重要になってくるのが、「きちんと相手に伝わる言葉で伝えること」だ。

ただ熱っぽく話せばいいのではない。

あくまでも相手がいてこそのコミュニケーションである。伝わらなければ、それもやっぱりノイズになってしまう。

どんな言葉を語ろう、どう言おう、と考えるのではなく、どんな言葉なら伝わるだろう、どう言えば伝わるだろう。伝わるコミュニケーションをするうえでは、相手の立場に立った想像が欠かせない。

そして、「そのときその人にとってなにが正解か」を模索する。

自分が培ってきた常識や知識なんて、「そのときの正解」に比べたら、なんの役にも立たない。いっそ捨ててしまったほうがいいくらいだ。

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