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早く息子とまた川へ遊びに行きたい、という話が書きたかった。

駆け出しのライターとして出会ったメンバーたちが、毎回特定のテーマに沿って好きなように書いていく「日刊かきあつめ」です。

今回のテーマは「#2024 夏」です。

例年なら、こんな暑いなか外へ遊びに出かけるなんて正気の沙汰ではないと、こぞってレジャーへ出かける人々を心の内で蔑んでいた。冷房完備の室内でゲームでもしていたほうが安全だし、有意義だと。しかし、今年は違う。早く川へ遊びに行きたくて仕方がない。

8月の頭、家族で初めて近所の川へ遊びに行った。これが感動的に楽しかった。ところが、到着した時間がすこし遅く、息子の着替えすら持っていかなかったから、思う存分遊べず不完全燃焼だった。早くこのときのリベンジがしたいのだ。

今度こそ全力で遊べるようにと、翌日には息子の着替えや靴を買って回った。ところが準備万端になったところで、息子が熱を出した。その2、3日後に妻が熱を出し、発熱外来へ行くと新型コロナ陽性。さらにその翌朝、私も38℃の熱を出した。私の熱はなぜか2時間ほどで下がったので病院へは行かなかったが、その後、後遺症らしき症状に見舞われている。

後鼻漏とか言うらしい。鼻水が喉の奥にずっとへばりついた状態が終日続いていて、すこぶる気分が悪い。鼻がつまって酸欠気味なのか、日中は慢性的な眠気に襲われて仕事にも集中できない。かといって横になると、鼻水なのか痰なのかわからない汁で溺れそうになる。汚い話で申し訳ない。

そんなこんなでもう8月も半ば。いつになったら心置きなく川へ行けるのか、いつになったら息子のおニューの靴や水着をお披露目できるのかと、ヤキモキする日々だ。

息子はさっさと元気になったのだが、大人がこの調子なので、川遊びどころか近所の公園にもなかなか連れて行けない。すると、体力が有り余るので寝かしつけが難航する。だいたい20時ごろには寝かしつけに入るのだが、早くても21時半、遅い日は23時ぐらいまでかかる。寝不足の状態で長時間の寝かしつけをするとどうなるかというと、大人が先に寝る。そして日付が変わるころにふと目を覚まして絶望する。

昨日もまさにそれで、寝かしつけのあと、23時過ぎに起きてから寝直せなくなってしまった。こういうときはあまり無理に寝ようとしてもどうせ眠れないので、開き直ってスマホをいじることにした。眠気を誘うなら小難しい本を読むに限る、ということで、Kindleでめぼしい本を見繕う。ほどなくして見つけたのは『殺戮にいたる病』。

『かまいたちの夜』などで知られる作家・我孫子武丸の代表作と名高い、本格ミステリだ。名前は知っていたが読んだことがなく、たまたまKindle Unlimitedで見つけたので、無料ならばと深く考えずに読み始めた。ほどなくして、名作に出会えた喜びと、寝不足が確定したことへの後悔が同時にやってきた。

知っている人なら言うまでもないが、この作品は寝る前に眠気を誘うために読む類の本ではない。ストーリーは複雑でなく、語彙もいい意味で平易。新聞が読める人なら苦労せず読み進められるだろう。しかし描かれる情景があまりに常軌を逸していて、読めば読むほど目が冴える。

レビューではトリックに騙されたという声も多いが、個人的にそこは予想通りでさほど驚かなかった。それよりもこの作品で私が印象的だったのは、殺人の描写だ。グロテスクなのだが、ただグロテスクなのではない。ネクロフィリア(屍体愛好者)である犯人の視点で描かれる一連の「作業」と「心理」があまりに真に迫っていて、それはどこか慈しみすら感じる。自分の中にも、その行為によって満たされる欲があるような気がしてくる。自分もまた、狂っている気がしてくる。

誰かの視点と心情を味わい、倒錯する。間違いなく、これこそが小説の醍醐味のひとつであると再認識した。

そんなわけで、夏の夜更けに冷房の効いた部屋で読むホラーミステリ小説は最高、という話である。次は何を読もうかと今からワクワクしている。

・・・

タイトルの通り、本当は「暑い日の川遊び最高!」という話を書きたかった。しかしなかなか川遊びに行けない日々の中、心の赴くまま書いたところ、結局「冷房が効いた部屋での読書最高!」という話になってしまった。

どうやら私は根っからのインドア派らしい。

文:市川円
編集:真央

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