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サンタがくれた人生の教科書
クリスマスの朝、目を覚ますと枕元にプレゼントが置いてあった。ポポロクロイス物語というゲームソフトだった。
両親は、わざわざ枕元にクリスマスプレゼントを置いておくような人たちではない。渡すなら直接渡す。そもそもわたしはこんなゲームをリクエストしていない。
ゲームに疎い両親が、子どもからリクエストされず選んだにしてはチョイスが絶妙すぎる。だから、このプレゼントをくれたのが両親でないことは明らかだった。
そして両親以外にプレゼントをくれる人の心当たりもなかったから、あの日枕元に置いてあった贈り物は、きっと本当にサンタがくれたのだと信じている。
そんな経緯で手にしたゲームだからか、ポポロクロイス物語はわたしにとって特別なゲームになった。
もしも子どもが生まれたら、親子でプレイしたいと心から思う。そんなゲームだ。
もしよければここから先は、ポポロクロイス物語シリーズの主題歌を聞きながら読んでもらえると嬉しい。なお、ややネタバレが含まれるので避けたい方はご注意を。
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ポポロクロイス物語は、ポポロクロイス王国の王子ピエトロの冒険譚であり、10歳の子どもが大人へと成長していく物語だ。
10歳の誕生日を迎えたピエトロは、母が自分を生んで間もなく眠りについてしまい、10年間目を覚ましていないことを知る。そして、母の目を覚ます方法を見つけるために旅に出る――というのが、1作目のあらすじだ。
画像は、ピエトロを生んで間もないころの国王と王妃の一幕。
そんなピエトロの冒険を、フローネルの森に住まう森の魔女「ナルシア」や、全身に鎧をまとい巧みな剣技を扱う騎士「白騎士」、ピエトロをライバル視(?)するトラブルメーカー「ガミガミ魔王」など、個性的な仲間たちが手助けする。
ナルシア
白騎士
ガミガミ魔王
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肝心のゲームの内容については、はっきり言ってあっと驚くような展開が待っているわけではない。奇をてらわない、王道でお約束のストーリーばかりだから、ひょっとすると退屈にすら感じられるかもしれない。
実際、小学生のわたしにとってもそこまで印象的ではなかったのだろう。ポポロクロイス物語をはじめてプレイしたときの記憶は、あまり残っていない。
そんなポポロクロイス物語が、人生の教科書と思えるほどに大きな存在になったのは、大人になってからだ。就職して少し経って、いろいろあって疲れていたのだと思う。人の優しさに触れたくなって、ふと思い出してプレイした。
すると、当時は気にも留めなかったセリフが、演出が、音楽が、キャラクターの表情や声色が、いちいち涙腺にくるのだ。プレイしている間、どれだけ泣いたか分からない。
制作サイドも、予約特典として涙を拭うためのハンカチを用意するくらいだから、確信犯だろう。
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続編にあたる「ポポロクロイス物語Ⅱ」に、物語を象徴するようなシーンがある。
ファンの間では有名なシーンで、当時テレビCMにも使われていたから、ひょっとしたらプレイしていないけれど見覚えがあるという人もいるかもしれない。
そのシーンについて端的にまとめられているツイートがあったので、拝借する。
ポポロといえばやっぱりCMでも使われた、マイラを倒した後に閉じ込められ海水が流れて来て、ピエトロがナルシアを抱き上げるシーン。
— くまうさ (@kumausa0) November 6, 2017
「でも良かった。私が海水に触れれば泡になるもの。ピエトロはその泡で呼吸して上まで上がってね」
毎日見て毎日泣いてた。#ポポロクロイス #思い出 pic.twitter.com/t2FSg4scQh
ポポロといえばやっぱりCMでも使われた、マイラを倒した後に閉じ込められ海水が流れて来て、ピエトロがナルシアを抱き上げるシーン。
「でも良かった。私が海水に触れれば泡になるもの。ピエトロはその泡で呼吸して上まで上がってね」
毎日見て毎日泣いてた。
これだけではさすがに伝わらないと思うので、以下補足。
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マイラというボスを倒した後、仲間を先に逃がして遺跡にひとり残ったピエトロは、諸悪の根源を封印しようとしていた。封印が終われば、遺跡から出られなくなるかもしれない。そこへ、ピエトロがひとりで犠牲になるつもりだと察したナルシアが戻ってくる。
「いつでも一緒って、約束したわよね。あなたと離れ離れになるのはもういやなの」
ピエトロがナルシアに生きていてほしいと考えたように、ナルシアもまたピエトロに生きていてほしかったのだ。ナルシアの意思を受け入れたピエトロは、2人で封印を始める。ほどなく封印を終えると、遺跡は崩落を始めた。そして案の定、封印された遺跡の入り口は閉ざされ、2人は出られなくなってしまう。
崩落する建物の周囲から、海水が流れ込み始めた。ナルシアは呪いによって、海水にふれると泡になってしまう。それをピエトロも知っていた。だからひとり残ったはずだったのに。いまさら悔やんでももう遅い。ピエトロは閉ざされた遺跡の入り口に体当たりを繰り返すが、開く気配はない。
流れ込んだ海水が、2人の足元にまで迫る。ピエトロはナルシアを抱き上げて背伸びをして、ナルシアが少しでも海水から遠ざかるようにとあらがう。
しかしナルシアは、
「でも良かった。私が海水にふれれば泡になるもの。ピエトロはその泡で呼吸して上まであがってね」
「ダメだよ……そんなの、嫌だ」
「最後までそばにいられて、わたし幸せよ。……約束破っちゃって、ごめんね」
ピエトロの必死の抵抗もむなしく、間もなく2人は流れ込んだ海水に飲まれてしまう……。
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とても印象的なシーンだけれど、個人的にはそこに辿り着くまでの何気ない会話にまた涙腺を刺激される。
何がそんなに涙腺に、心にくるのかといえば、ポポロクロイス物語のキャラクターが、いつだって誰かへの優しさを動機に行動しているからだと思う。
子どものときは、きっとピエトロしか感情移入できる対象がなかったから、みんなの優しさのすべてを察することはできなかった。子どもの目に映る大人の優しさなんて、そんなものだ。
けれど大人になって、ピエトロを見守る人たちの心情が分かるようになると、彼の成長がなんと目覚ましく、なんと清々しいものであるかと気づかされる。そして、彼を支える周囲の仲間や大人の注ぐ優しさが、なんて尊いものであるかと思い知らされるのだ。
ポポロクロイス物語をプレイしていると、悲しさによって半ば強制的に流させられるような涙はなく、誰かの優しさに触れたときに、自然とあふれる涙ばかりが頬を伝っていることに気が付く。
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そんなわけでポポロクロイス物語は、優しさを中心に考えることの大切さを、誰かを想うことの大切さを、丁寧に教えてくれたのだった。あの日のサンタは、そんな人生の教科書ともいえるゲームを、わたしの枕元に届けてくれたのである。
あの日のサンタのように、わたしもまた、いつか生まれる子どもに優しい物語をプレゼントしたいと思う。
編集:らいむ
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