ノルウェー民俗音楽入門④ 〜曲の覚え方のコツ教えます!②〜(2021.12.15改)
先週は更新が空き、失礼しました。
今回は、曲の覚え方の実践編です。トピックは3つ。
① ノルウェーでは一般的にどんなレッスンが行われているのか
② 1レッスンの中で曲を速くたくさん覚えるコツ
③ 実際に《Otteslåtten》を覚えてみよう
②に関して、今まで中東・ヨーロッパの伝統音楽を習ってきて、私以上に曲を速く覚える人にはまだ出会ったことがありません。すべての民族音楽の習得に通じるところがあると思うので、ノルウェー音楽に興味のない方もぜひ参考にしてください。
①ノルウェーでは一般的にどんなレッスンが行われているのか
Photo by Asaki Abumi(タイトル写真も鐙麻樹さん撮影)
レッスンでは、この写真のように先生が目の前に座り、1対1で教えてもらうことが多いです。
※スペルマンスラグなど、複数名で曲を覚えていく場もあります。
私は今までハーディングフェーレのプライベートレッスンを5人の先生から受けたことがありますが、レッスンの流れは大体以下のとおりです。他の楽器でもほぼ同じだと思います。
【手順1】まずコーヒーを飲んで、おやつを食べたりして、お喋りする。
※話の流れの中で、これまで習った曲を自分で弾いたりすることもある、というか、私は積極的に弾いています。先生から貴重なフィードバックをもらえるし、先生にも「この人は教えたらちゃんとものにしてくれて、教えがいがあるなぁ!」と思ってもらえます(たぶん)。
【手順2】「何を習いたい?」ときかれたり、1曲通して弾いてくれて「この曲好き?」とかきかれたりするので、自分の希望を伝える。
※私は、あまり好きでない曲は覚えるのに時間がかかるし結局自分のレパートリーにしないので、ピンとこなかったら「他の候補は?」って容赦なく(かつなるべくチャーミングに)ききます笑
【手順3】曲が決まったら、先生がその曲の最初のパーツを弾きはじめる。
※どのぐらい細かく分けるかは、先生が受ける人のレベルやその日の調子に合わせてくれます。すっごく初心者だと一音ずつみたいな感じに分けて教えてくれるはずなので、耳コピ初めてでもご安心を!パーツ分けについては②で詳しく触れます。
【手順4】そのパーツが弾けるようになると次のパーツに移っていき、ちょっとずつ通しながら最後まで弾けるようになる。
以上が、ざっくりとした流れです。先生によっては、その後その曲を即興的に展開するやり方まで触れる人もいるけれど、少数派です。
②1レッスンの中で曲を速くたくさん覚えるコツ(私が実践していること)
【Point 1】なにはともあれ、最初はよく聴く(最重要!)
私は曲を習う時、どこかで耳にしたことがある曲にしろ、本当に初めて聴く曲にせよ、最初は何度か通して弾いてもらっています。
ポイントは、まずは細かいことを気にしすぎず、ざっくりと曲の全体像を掴むこと。そのために、先生の演奏を聴きながら軽くハミングしたり身振り手振りをつけたりして、曲をまるっと覚えることを意識します。その時、必ず足は真似て拍を取りましょう。
たったこれだけの作業をサボる人がめっちゃめちゃ多いんですが、本当にもったいないです!!!自分が楽器を練習しに来ているのか、それともその先生の音楽を学びに来ているのか、思い出してください。自分が音を出すのと先生のすべての動きを身体に行き渡されるのは別の作業なので、まずは先生の身体や気持ち(=音楽感すべて)をまるごと自分の身体に乗り移らせることが最優先です。自分のオリジナリティを出すのは帰宅してからにしましょう。
ちなみに私は、自分が弾きはじめるときの目安は、8割方先生が弾いているのを覚えたと感じてからにしています。
【Point 2】先生が曲をパーツごとに分割しすぎそうになったら、先を続けて弾くように促す
レッスンの流れの【手順3】の部分ですが、パーツ分割をしすぎると、逆に曲の全体が見えなくなってしまいます。なぜなら、例えばどんなに英語の初心者だとしても、”Good morning” を "Good" と "morning" に分けて「いい+朝=おはよう!」と覚えるよりも「”Good morning” は、おはよう!」と通して覚えたほうが効率がいいし意味を成しているからです。
音楽も言葉と同じ。自分のレベルに応じて可能な範囲で、なるべく大きな塊で曲をとらえていくことがポイントです。
【Point 3】こまめに休憩をいれる
このやり方で覚えるのは集中力がすごく必要なので、かなり頻繁にコーヒーブレイクをいれるのもポイントです。人間の短期記憶力には限界があるし、先生も人間です。「こいつはすぐに休憩したがる生徒だな」と思うと、その方が先生も疲れを恐れず集中力を保って有意義なレッスンをしてくれるし、思いがけないこぼれ話が聞けたり、何より仲良くなれます。
【Point 4】スマートフォンに演奏を録画させてもらう
どの楽器のレッスンでも、録音でなく録画がおすすめです。先生のフォームをまるっと自分の身体に乗り移らせるのが民族音楽を覚える時の基本。ハーディングフェーレの場合はボーイングが大事なので、尚更録画です。
録画媒体は、ちょくちょく見返せるもののほうがいいので、高音質高画質よりも、隙間時間にいつでも見返せる便利さを優先しましょう。録画させてもらうタイミングは、曲を全部覚え終わったところでデモ演奏をお願いするのがおすすめです。レッスン全部を録画してもその後それをまとめて観る時間はまず取れないので、フィールドワーク以外の目的で撮ることはほぼ無意味です。撮る角度は、ハーディングフェーレの場合はこの動画のように、必ずボーイング、足、左手が入る角度で!動画は細かいポイントを何度も確認するのに最適なツールなので、レッスン後は動画を細かく止めながら一挙一動を目と耳に焼き付けていきましょう。
【Point 5】レッスン後は速やかに寝る
レッスンから帰ってきたら、あるいは帰り道では、必ず昼寝をします。ここで記憶を定着させると、その後の復習がとても楽になります。そもそもレッスン後は疲れているので、泥のように眠れます。疲れてなかったら自分の集中力不足を疑い反省しましょう。
【Point 6】レッスンは毎日入れない(現地レッスンの場合)
これも、コスパのためにも自分の集中力のためにも、そしてその後のモチベーションのためにも非常に重要です。私はノルウェーに行きはじめた最初の頃はいま習わないともったいないと思ってレッスンに毎日通っていたのですが、疲れて集中力が落ちるし、帰国してから習った曲をまとめて復習するのは普通に無理でした。それに、せっかく現地にいるならそこでの生活を満喫することがとても大切です。レッスンペースは週に3度までにして、レッスンのない日はしっかり復習したり休息をとったり、現地での生活を存分に楽しむのがおすすめです。
このやり方で、わたしはハーディングフェーレの場合は、だいたい1レッスンあたり4曲ぐらい覚えています。曲の選び方もポイントで、集中力があるうちに長めの曲、なくなったら短めの曲にするといいです◯
③実際に《Otteslåtten》を覚えてみよう
では、ノルウェー民俗音楽入門③ 〜曲の覚え方のコツ教えます!①〜で扱った《Otteslåtten》を覚える時のやり方に入ります。
※普段は採譜はしないのですが、解説のために使います。【手順3〜4】でのざくっとした覚え方とはどういう覚え方なのかの参考までに。
このパーツが4回ぐらい、ちょっと違う音形もいれながら繰り返される。
※「4回中の3回めが違ったな」とか「2周目に入ったら重音は違う音にしている」とかいうのはあんまり気にしすぎない。
5回めで、何かがちょっと付け加わりました。こういうつなぎパーツが覚えにくいところです。手間取ると先生は繰り返してつなぎパーツだけ弾いてくれたりするのですが、それは先程の「よい」「朝」的になってしまっているので、もう次まで弾いてもらっちゃいましょう。
ここも何回か繰り返されるところです。こういう簡単なところはサクッと飛ばしていきます。
ちょっと付け加わって次のパーツにいきます。こういう拍感も微妙になるところは覚えにくいと思うので、もし集中力が切れはじめていたら一度めのブレイクいれちゃっていいです!
〜以下繰り返し〜
曲の展開、意外と超シンプルですよね。
それは当たり前の話で、民俗音楽なので、当然誰にでも弾けるための音楽になっています。実は全然難しいことなんてないし、パズルみたいでちょっとおもしろいし、なんだか挑戦してみたくなっちゃいました!(やや価値観の押しつけ)
しかも、このやり方だったら Youtube動画やオンラインレッスンでも曲を覚えることが可能です。もちろん現地でしか得られないものは多いし、対面レッスンでないと先生をまるごと自分に乗り移らせることは難しいし、なにより民俗音楽をやる醍醐味は音楽を覚えること以外のありとあらゆる部分に宿っているから、現地ですべてを体感してほしい…けれど、家でひとりでもできることは山のようにあります!
きょうのまとめと次回予告
・ノルウェーでのプライベートレッスンの進め方がわかった。
・民俗音楽を覚えるコツがわかった。
・実際に1曲を覚えていく手順がつかめた。
「1レッスンの中で曲を速くたくさん覚えるコツ」については、ノルウェー現地での習い方をベースに書きましたが、他ジャンルの音楽を耳コピするときにも、あるいは、日本国内でレッスンを受けるときにも応用が効きます。参考になりそうな部分があったら、ぜひ自分にあったやり方で取り入れてみてくださいね。
次回(4月26日)は、今回の応用編。
ノルウェーの伝統曲の基本構造を把握して、実際に覚えられるようになったので、次回はノルウェーの伝統曲を上手に弾くということはどういうことなのか、いい演奏とはどういう演奏なのか ということについて考えてみます。
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