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ノルウェー民俗音楽入門③ 〜曲の覚え方のコツ教えます!①〜(2021.12.15改)

ノルウェー民俗音楽入門シリーズ3回目は、曲の覚え方のコツ 1回めです。

注:というのは、本当は一度にまとめて書きたかったのですが、ノルウェーの伝統曲がどういう構造になっていて、どんな音楽的な特徴があるのか、どうして覚えにくいのかを書くだけで長大になってしまったからです。なので、実践編(実際に曲を覚えるプロセス)は来週に持ち越します。

さて、ノルウェーの曲は日本人にとって(いや、世界中の多くの人にとって?)とても覚えにくいといわれます。
それはなぜなのか、おなじみアイルランドの曲や隣国スウェーデンの曲とは違う点を、3つに分けて考察します。

ノルウェー伝統曲はなぜ覚えにくいのか(シンプルなデモ演奏)

いままで私が覚えた中で、おそらく一番覚えやすかった Granvin 地方の rull (gangar)《Otteslåtten, etter Otte Nilson Haukanes》を例に考えてみます。

↑ 動画をより覚えやすいものに差し替えました(2021.12.15)


覚えにくい理由1:楽曲構造がはっきりしていない

民俗音楽は耳で伝承されてきたので、民俗音楽を採譜した楽譜を使うには西洋音楽の五線譜の読み方とは違うリテラシーが必要ですが、ノルウェー民俗音楽を採譜した楽譜がまとまっているサイトがあります。
楽曲構造の把握には楽譜が便利なので、今日はこのサイトの譜面を見ながら理解しましょう。

Feleverkene URL: http://app.uio.no/hf/imv/feleverk/

※ Feleverkene は、アイリッシュの人たちが使う The Session と少し似ているけれど、The Session は色んな人が自由に書き込みできるのに対して、Feleverkene はオスロ大学から出版されているシリーズ本の曲をオンライン上で探せるようにしたものです。
検索性はいまいち良くない気がしますが、曲名の《ジャンル etter 誰々》の誰々部分を入れると比較的ひっかかりやすいです。

Feleverkeneで《Otteslåtten》の楽譜を探したら、たぶんこれだと思うものを発見しました(繰り返しとか構成音がやや異なることについては、触れると長くなりすぎるので今回は省略。)

画像1

引用元:http://app.uio.no/hf/imv/feleverk/note.php?id=0062

ぱっと見、アイリッシュの楽譜とは、大分違いますよね。

Aパートが8小節、Bパートが8小節というように分かれていないし、拍子の途中に1かっことか2かっことか書いてある。そのせいで、時折拍の頭がよくわからなくなったりもします。この譜面の中ではずれている部分は1箇所ですが、譜面ではなく音楽上では拍の頭がもっとずれているように感じます。

また、各小節が微妙に似ていて、それを繰り返しながらじんわり曲が展開しているため、慣れるまでは曲の掴みどころがなく、覚えるのに時間がかかりそうです。

覚えにくい理由2:調性感が薄い

続いて、調整感です。アイルランドの曲やスウェーデンの曲ももとは無伴奏だったとはいえ、ノルウェーよりは調性感がしっかりあり、大体ドミナント→トニックで終わったりします。ノルウェーの場合は、もっとゆったりつらつら移っていくので、とらえどころがなく感じるかもしれません。

また、その時の楽器の鳴り方や奏者の気分によって、チューニング全体を2音ぐらいあげたり、0.3音分ぐらい下げたりする(西洋音楽的にいえば、つまり基準音が微分音になる)ので、絶対音感がある人にとっては毎回違うピッチでレッスンされるという点が大変に感じるかもしれません(注1)

ノルウェー人は敢えては説明しないことが多いですが、曲の中で微分音が出てくるのも、慣れない人にとっては難しいかもしれないですね。

覚えにくい理由3:重音が多く、弓順に決まりがある

これは、ハーディングフェーレやフラットフェーレ(フィドル)限定の話です。

弓順は、アイリッシュの場合はほぼ自由ですが、ノルウェーやスウェーデンの場合にはしっかりと決まりがあります。縛り度具合でいうと、スウェーデン < ノルウェーかな。弓順は、踊らせるための勢いと連動しているので、とても大事です。守りましょう。

重音が多いというのは、ハーディングフェーレの話。フィドルと比べて駒(ブリッジ)も平らで、基本的に重音で弾くので、単純計算で2倍の音数を覚えなければいけないことになります。ということは2倍大変なのか?というと、一般の人の聴音の能力だと、2つの音を聴き取っていくのは単旋律を聴き取るのの2倍以上労力がかかることが多いです。

ハーディングフェーレにしろフラットフェーレにしろ、変則チューニングが多いというのも大変に感じるかもしれません。ハーディングフェーレには20種類ぐらいのチューニングのやり方があります。地域によって使わないものもあるので、わたしは今のところ8個ぐらい使っています。個人的には変則チューニングのほうがすきな曲が多いです♡

例えばこれ。

他にもノルウェー音楽が覚えにくい理由はたくさんあるので、実際の演奏動画で観てみましょう。

現地の一流のハーディングフェーレ奏者の演奏を聴いてみよう(Youtube)

さて、わたしはデモ演奏用に、難易度の低い曲を、なるべく現在原曲とされているものに忠実に、わかりやすく演奏したのですが実際難しい曲をとてもいい感じに演奏するとどうなるのかを観てみましょう。

ハーディングフェーレ職人の原圭佑さん(HPはこちら。わたしも彼の作品をひとつ持っています。)の楽器制作の師であり、2018年にLandskappleikenで優勝した、ハーディングフェーレ制作家&演奏家 Ottar Kåså さんの優勝時の演奏動画を観てみましょう。

前回のnote を読んでくださった方ならきっと、どこの地域の奏者かお気づきですね!Telemark 出身の奏者です。

0:08から Gangar が、5:25から Springar がはじまります。(これは前々々回のnoteを読んでくださった方ならわかるかな?)

聴き慣れない人にとってわかりにくいであろうポイントをいくつか指摘すると、

1. そもそもどこから曲がはじまったのか、ぼんやりしていたら気づきません。奏者にも寄りますが、チューニングから流れ込むように曲に流入するケースが多いです。念のため、0:08より前がチューニング、そこからが曲です。

2. Gangar の一拍目がどこにあるのかしばらくわからなかったという方もいるかもしれません。(Springar はわかりやすいかな?)

3. チューニングはめっちゃ高いですね。上から、G C F Cです。大会のときにはチューニング高い人が多いです。Ottar もいつもこんなに高いわけじゃないです。大会だと高音で音がキラッとした方が映えるからかな〜。個人的にはテンションゆるめが好きなので、コンペティションの演奏をずっと聴いていると耳が死にます。

4. そして、タラリラ〜とかピロリロ〜とかいう装飾がより混乱を誘います。

5.1曲の長さも結構長いですね。2周目に戻ったとき、ぱっとわかりましたか?

こんな感じで、とらえどころがなくチューニングから終わりまで流れて聴ける演奏は名演です!いやーすごいなー!!
(音楽によって価値観ってほんと多様だよね、って話は別の機会にしたい。)

きょうのまとめ

まとめ:ノルウェーの曲は、どうやらめっちゃ覚えにくいけれど、独特でとっても面白そう!ということがわかった!(筆者の主観が入っています)

長くなってきてしまったので、この覚えにくい曲をどうやったら覚えられるのかについては、来週日曜日(4/12)ノルウェー民俗音楽入門④ 〜曲の覚え方のコツ教えます!②〜 に持ち越します

次回は、実際に《Otteslåtten》をみんなで弾いてみましょう!


(補筆1)Otteslåttenのデモ動画、わたしもうっかり微妙なピッチで撮影してしまっていたので、新しく録り直しました(2021.12.15)。楽譜に書いてあるピッチはハーディングフェーレ的には低いので、これで弾くことはほとんどないです(長2度ずつ高いのが基本)。ヴァイオリンで練習するという方は、楽譜のピッチでやるのがおすすめです。

(注1)わたしももともとかなりの絶対音感保持者(チューナーより正確)だったのですが、不便なので絶対音感は取りました。民俗音楽や古楽を中心にやっていきたいなら、絶対音感は外していいと思います。
絶対音感を訓練で外すことは比較的容易なので、例えばお子さんの絶対音感が勝手についてしまっても問題ありません◯逆に6歳以上になるとつけることはほぼ難しいので、選択肢を増やしたいなら5歳でつけてあげるといいと思います。

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