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アラビック・ヴィオラ考察

昨日、アラビック・ヴィオラ(あるいはアラブ・ヴィオラ)* デビューをしてきました!

「少なくとも日本では、アラブヴィオラの第一人者だろう」

という、いただいた言葉が見合うようになって、ゆくゆくはこのジャンルを確立してアラブ音楽をますます豊かに演奏していきたいです。今回なぜこういうことをしようと思うに至ったのか、これまでの経緯をまとめます。

私とヴィオラ

もともと低音が好きで、藝大の学部時代に副科ヴィオラの個人レッスンを受けていました。レッスンを受けはじめた頃は大学の備品楽器を借りていたのですが、自分に合った楽器のサイズ* でもっとちゃんと練習したいという事情から、ヴィオラの購入もこの時にしています。

私はなぜヴィオラをあまり弾いてこなかったのか

ヴィオラはヴァイオリンより少し大きな楽器で、体格の良い人により適しています。私は腕と指は長いものの、肋骨の中に通常の向きで肺が収まらないぐらいには骨格が小さく、筋力不足なこともあり、ヴィオラを弾くと肩と背中と腰がめちゃめちゃになるので自然に避けてきました。

アラブの伝統音楽でなぜヴィオラが使われてこなかったのか

これまでアラブ地域でも、アラビック・ヴィオリストに出会ったことはありません。*** ですが、アラブ古典音楽でヴィオラを使わない積極的な理由はなさそうです。

アラブ音楽を知った頃からヴィオラが使われていないことはずっと不思議で、2013年にレバノンに留学した時、先生になぜアラブ地域でチェロやコントラバスは使うのにヴィオラは使わないのか尋ねました。返答としては「女性歌手の伴奏としてはヴァイオリンがいいけれど男性歌手の伴奏にはヴィオラのほうがあっている。もちろん使っていい。」

実はそのウード奏者はヴィオラを欲しがっていて、出国前に日本で安いのを買ってきてくれないかと頼まれていました。私は自分の荷物の都合があったのでその望みは叶えられなかったけれど、この発言から、彼が活動していたアラブ地域(東アラブ音楽の中心地であるエジプトとレバノン)ではヴィオラが手に入りにくいということがうかがえます。つまり、今後の貨幣価値の変動や楽器の流通の変化、あるいは海外からの影響によって、アラブでヴィオラが今よりメジャーになる可能性はありそうです。

なんで今ヴィオラを弾こうと思ったのか

私が参加している「Voice of the Nile Club」というエジプト留学者を中心とした超かっこいいアラブ音楽オーケストラバンドがあるのですが、ウード奏者が不在になって低音が欠けがちになっていました。最近コントラバス奏者が加入してくださったので、ここにヴィオラが入ったらサウンドの厚みが増してぐっと良くなると直感しました。なので、まず2ヶ月間背筋を中心に身体を作って、一応半日ぐらいはヴィオラを弾くことに耐えられるようになってから、昨日の本番を迎えた次第です。背中もすっきりしたので一石二鳥◯

もうひとつの理由は、購入したのに活躍できていないヴィオラの存在がずっと気になっていて・・・39cmと小ぶりなのにC線も鳴ってくれる、見た目もイケメンの最高の相棒だと再認識したので、これからはアラブでもそれ以外の場でも自信を持って弾けるよう、もっと仲良くなりたいです。

アラビック・ヴィオラ・チューニング

・一般的なヴァイオリンのチューニング:下から G D A E

・一般的なアラブヴァイオリンのチューニング:下からG D G C あるいは G D G D****

・一般的なヴィオラのチューニング:下から C G D A

・わたしが昨日使ったアラブヴィオラチューニング:下から C G D G

色々検討するまでもなく、今のところこれが一番しっくりきています。

今後の課題

・メロディにも寄れて伴奏にも寄れるというヴィオラならではの特徴を上手に組み込み、アンサンブルを豊かにしていきたい。

・鳴ってほしいポイントの音(ざっくりいえば微分音)が響くように楽器を育てる。

・ヴィオラでアラブの歌をどう表現できるか模索する。ヴァイオリンと違ったヴィブラートや弓ののせ方の技術が必要。

なるべく、アラブの人が楽器を手にとったらこうするであろうという方向の想像力を膨らませていきたいです。ヴィオラと似たような役割を担えるアコーディオンとの絡みも楽しみです。


以上、まとめてから気づいたのですが、アラブ音楽×ヴィオラというニッチにニッチを掛け合わせた題材、どなたが面白く読んでくださるのだろうか・・・。

頭で考えるよりも一度経験すればわかることがたくさんある音楽の世界。東京の方は、ぜひライブにも遊びに来てくださいね。


【脚注】

*いまのところ日本では、アラビック・ヴィオラという言葉もアラブ・ヴィオラという言葉もメジャーではありません。日本で一般的に使われているアラブヴァイオリンという言葉に準ずるならアラブヴィオラなんだろうけれど、響きの良さと英語からの転用という意味ではアラビック・ヴィオラのほうがいいなー。このnoteではいくつかの書き方を用いることで検索に引っかかるようにわざと色々な用語を使っています。

**ヴィオラのサイズは一般的にボディが39cmから43cmぐらいで、ヴァイオリンのように精密には決まっていません。そもそもヴァイオリンの長さを測るときには、355mmとか357mmとかいうのに、ヴィオラになるとmmじゃなくてcmで説明されるようになっちゃうのも個人的にはツボです。

***ざっくり英語とアラビア語でググったところ、ジプシージャズも盛り込んだフュージョン系のことをやっている方が1名、ちゃんとヴィオラでタクシームの弾ける作曲家の人も1名発見したけれど、ふたりとも基本的にはヴァイオリニストのようです。ちなみにInstagramで#arabicviolaで検索しても投稿はなく、アラビア語で検索をかけるとアラブのすみれ色が出てきてしまうので、やはり本当にマニアックな方向に手を出してしまった予感がしています。

****より古典的なのはG D G C だけれど、これについて書きはじめると長大になってしまうので興味がある方は著書を読んでください。

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