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知的好奇心

昨夏から,少し時間的な余裕ができたので,哲学・思想史を体系的に読むことにした。ほぼ1ヶ月を費やして,これらの半分ほどを読み終えた。今春には読了するつもりだが…。

平凡社版『思想の歴史』(全12巻),高校時代に学校の図書館で見つけて拾い読みをして以来,昭和40年初版発行の本シリーズを探して,確か大学か研究所かにいた頃に神田の古書店で全巻揃いを手に入れたと記憶している。
必要な部分には目を通してきたが,通して読むことはできずに数十年が過ぎた。今冬に相当数の本を断捨離したが,それでも残した本であった。
歴史的理解や哲学的解釈としては55年も前に書かれた内容であるだけに古さは否めないが,思想史の概説書としては十分であり,最新の歴史解釈や思想史との対比を試みながら通史として読むことも意味があると考える。

併せて,高校時代に恩師から借りたバートランド・ラッセル『西洋哲学史』を,原書であるBertrand Russell『HISTORY OF WESTERN PHILOSOPHY』と対照しながら読むことにした。
原書の初版は1946年であり,私が持っている市井三郎訳書の改訂版が1969年(初版は1961年)であるから,75~52年前の本である。
個人的には,哲学・思想よりも哲学史・思想史に興味があったので,どちらかというと,まず哲学史・思想史からその哲学者・思想家が生きた時代や社会を把握し,その人物が誰に師事したか,あるいは誰の影響を受けたかをわかった上で,その人物の哲学・思想を読解していくという読み方をしてきた。それは,私が歴史が好きであるというだけでなく,本書の副題にも「古代より現代に至る政治的・社会的諸条件との関連における哲学史」とあるように,高校時代に初めて読んだ本書の影響が強かったからだと思う。

西洋哲学史あるいは思想史の類いの本は相当数を買い求めて読んできたが,改めて<原点回帰>したくなったのが,上記の2冊を書庫の書棚の奥から持ち出してきた理由である。
人生の後半を迎えて,自らの<原点>を再確認したい思いが強くなっている。それは仕事のためとか,論文を書くためとか,研究のためとかではなく,純粋に興味・関心からの読書である。

それぞれの時期において,抱えた仕事や課題に応じた「研究と実践」のための読書が多かったように思う。もちろん,今後もそうであろうが,一歩離れた純粋な読書,興味・関心の趣くままに知的好奇心を満足させたいと思っている。

『思想の歴史』は,その時代の思想家・宗教家・哲学者の生涯と思想だけでなく,その思想や哲学が生まれた歴史的背景や社会状況などが詳細に記述されていて,歴史と思想の織り成す壮大なドラマを見ているようで,実に興味深い。しかもギリシアから中世・近世・近代の西洋思想史だけでなく,中国・インド・イスラム・戦国から江戸・明治までの日本における思想史まで同時代史的に網羅している。中には文化や芸術にまで言及しており,各章の執筆者の専門性と問題意識も反映されていて,読み応えがある。

哲学史や思想史は数多く出版されてきた。(最近では中央公論新社『哲学の歴史』やちくま新書『世界哲学史』があり,必要な巻を購入して読んではいるが)どれもそれなりの目的と課題をもって体系的に編纂されているが,一長一短は否めない。今の私にとっての目的は,歴史を思想や哲学を主題にして体系的に概観すること,思想や哲学がどのような歴史的背景や政治・社会情勢の中で系統的に現代まで流れてきたかを知ることなので,本シリーズに十分満足している。更に詳しくは関係書で把握すればいいだけなので…。

Russellの文章は大学入試の英文解釈でよく出題されていたので,問題集や参考書で目にしていたが,数学者・論理哲学者だからか,英文の構造・構成が論理的でわかりやすい。『HISTORY OF WESTERN PHILOSOPHY』も同様に,理解しやすい。市井三郎の訳もほぼ的確ではあると思うが,少々厳密(忠実)すぎる感じもする。(原著の方が理解しやすい部分も多い)

本書に不満があるとすれば,「古代哲学」及び「中世哲学」が詳しすぎる気がする。それは多分に私の勉強不足,「古代哲学」や「中世哲学」を蔑ろにしてきたせいである。
しかし,このことからわかるのは,西洋の哲学者が「古代哲学」(ギリシア哲学)や「中世哲学」(キリスト教)を当然のように重要視して学んできたという証左である。確かに,ヘーゲルもハイデガーも「古代哲学」を研究し大学で講義を行っている。日本はどうであろうか。日本思想史などを開くと,必ずしも西洋の哲学者のように「古代」や「中世」の思想家・宗教家を学んでいるようには思えない。日本思想史を読んでも簡単な概説という感じを受ける。専門化・細分化されているからかもしれない。

『思想の歴史』と並行で読み進めて理解できているというのが現状であるが,それでも久々に好きな分野をじっくりと読む,単純に知的好奇心を満足させてくれる読書は楽しい。

部落史・ハンセン病問題・人権問題は終生のライフワークと思っています。埋没させてはいけない貴重な史資料を残すことは責務と思っています。そのために善意を活用させてもらい、公開していきたいと考えています。