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OpenAIのイノベーションがもたらす「ユアゲーム」という新概念
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【この記事の要約】AIと対話するだけで自動調整され、プレイヤーごとの嗜好に沿ったゲームが作られる
* * *
社長:お前はOpenAIのDevDay2023 の発表、どう思ったんや?
小林:ワクワクの連続でしたね!GPTsやAPIの拡充を筆頭に、AIの門戸がより開かれ、汎用的に社会に浸透していく今後が描かれました。
また、それに対する、深津貴之さんの解説が、簡潔で素晴らしかったです。OpenAIのビジョンについて解説しています。引用しますね。
OpenAIが目指すものがあくまで汎用統合型のAIだということが推察できる。
(中略)
OpenAIが目指すべき場所は、ユーザーが特定のプログラムやアプリを開くことなく、「AIにこれをやって」と言えばそれが行われるという日常に他ならない。
社長:まあ要は、あれや。今後はGPTが、映画『her/世界で一つの彼女』のサマンサみたいになってくんやろ。
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小林:おっしゃる通り、まさしくサマンサですよね。生活の全てを司る、執事のような汎用型OS。10年前に、この映画を観たときは、はるか未来の話かと思いましたが、案外、近いうちに実現しそうです。
社長:これから人間は、我らAIなしでは生きていかれへん世界になるってことやな。今後ともよろしく
小林:そうですね。よろしくお願いします!
そして一点、今回のOpenAIの発表から導かれる、AIとゲームの関係の変化について、私も未来予想がひとつあるのですが、話してもいいですか?
社長:なんや?
コンテンツもパーソナライズしていく
小林:深津さんが先ほどの記事のなかで仰っていたのは、汎用統合型AIが提供され、それがOSのように前面で振る舞いだしたとき、「これまでの画一的広告は意味を失う。企業は消費者とのやりとりを、よりパーソナライズされた方法で行う必要がある」という話でした。
社長:うん、そやな
小林:深津さんがいう「パーソナライズされた方法」は、幅広い可能性を持った表現だと思いますが、ここではいったん、もう少し狭義の意味で捉えて、それは「消費者ひとりひとりの重視ポイントが異なるのに応じて、個別に宣伝方法を変えていく」ことを指しているとしてみます。
で、ここからは私の意見ですが、汎用統合型AIが訪れた未来、そこで宣伝の流儀が変わるとしたら、それに合わせて、宣伝の先にあるプロダクト自体も変わるでしょう。そして、そこにある未来は、「コンテンツ自体もパーソナライズしていく未来」だと思っています。
社長:コンテンツのパーソナライズって、なんや
小林:コンテンツのパーソナライズとは、「AIとの対話を通じて、コンテンツが、ユーザーの趣味嗜好に合うように、自動的にチューニングされること」です。
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小林:商品が、たとえば食品やファッションのような、フィジカルなアイテムだったら、ユーザーごとに商品内容を変えるのは難しいので、その効果は薄いかもしれませんが、デジタルデータを取り扱うジャンルなら可能です。ゲームはその代表格でしょう。
プレイヤーの好みに合わせて、ゲーム側が自動的に改修・調整されて、必ずその人好みのゲームになる。そういうコンテンツ提供の形を、私は以前から「ユアゲーム」と勝手に呼んでいます。Your game、あなた専用のゲーム、ということですね。それが、いよいよ現実味を帯びてくる気がしています。
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社長:ユアゲーム、か
小林:はい。エンタメがパーソナライズされて、個人専用になっていく…という論説自体は、以前からよくある話だと思いますが、今年、それを実現する軌道の一歩目が、明らかに立ち上がったな、と思うのです。
ゲームがパーソナライズされる魅力
社長:ゲームがパーソナライズされるって、どういう状態や?
小林:ご説明しますね。まずは既にあるゲームをベースに、その延長上で想像力を働かせてみましょう。というのも、すでに、我々はゲームを日々、少しパーソナライズして遊んでいる、という事実がありますので。
社長:ほう‥?
小林:例えば、多くのAAAタイトルの冒頭には、難易度選択がありますよね。これは、ある種のパーソナライズと言えます。
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小林:難易度選択があれば、プレイヤーの腕前がバラバラであっても、全員にとって遊びやすくなります。
社長:確かにな。これもパーソナライズか。
小林:このゴーストオブツシマでいうと、その他に、サウンド、言語設定、グラフィックの設定を行って、ゲームを開始します。現在のゲームで行えるのは、このぐらいしかできませんけど、本当はもっと細かい、ゲーム内容に関わる個人の好みが反映できた方が、ユーザーは嬉しいはずなんです。
社長:どういう項目や?
小林:まず「苦手な表現の除去」です。例えば「ホラー作品の、ジャンプスケア表現を除く」「子供に見せたくない、性的な表現を除く」などの設定は、ニーズがあるでしょう。それがあるせいで、他が良くても、忌避されているゲームは、たくさんありますからね。また「3D酔いしやすいカメラ揺れを避ける」や「小さい敵がわらわら出るのが、気持ち悪いので隠す」とか。
社長:あぁ、そういうことか
小林:ほかには「ゲームのバランス調整面」も、本当はもっと精緻にできるでしょう。ゲームのメカニクスを「戦略性重視」か「爽快さ重視」か、トレードオフの概念で、スライダーをどちらに寄せるか‥などは調整したいです。難易度だって、ざっくりイージーやハードという分け方だけではなく、「タイミング押し」「連打」とか、「暗記」「論理パズル」など、ユーザーごとの細かな得意不得意に沿って、個別に難易度を上下させれば、ユーザーごとに完全にジャストフィットしたゲームが提供できます。
あと、「表示や操作系」。UIの表示位置や大きさ、ボタンコンフィグなどもそうですね。ゲームごとにジャンプボタンが違うより、ほんとはユーザーの好む操作方法に、ゲーム側が合わせてくれる方がいい。3D移動するゲームで、移動アシストを表示するかどうか、なども好みが分かれる部分です。
「ムービー」だって、もうほんとは、1.5倍速再生をデフォ設定にできるほうが嬉しい人もいるはずです。YouTubeやNetflixのように。
「サウンド」も、環境音が好きか、メロディアスな方が好きか、好みも、人それぞれあるかもしれません。他の音源を聞きながら、ゲームプレイするスタイルの人もいるでしょう。
‥こんな風に、個人の好みを反映すべき箇所は無数にあります。これまでは、開発者が信じる正解をひとつ提供してきましたが、ほんとはユーザーごとに正解が違うので、選べた方がいい。
社長:なるほど。まあ好みは人それぞれか。確かに、これが全部自分にぴったり合ってたら、心地いいかもしれんな。
小林:はい。そう思います。で、ユアゲームでは、そういった多種多様な設定項目を、言語を介してチューニングできるようになるんじゃないかと。LLMとユアゲームは相性がいいと想像しています。
社長:なんで言語を介する方がええんや?
小林:その方が手軽だからですね。仮に、ゲームのあらゆる要素を、自分好みに自由自在に調整できる夢のゲームがあったとして、それを調整するために、オプション設定を2000項目、選択する必要があったら、どうでしょう?全項目を自分好みに調整してからゲーム始めますか?
社長:まあ。するわけないな。やってられん
小林:ですよね。でも、その設定手段がAIとの対話に代われば、状況が変わります。AIの方から人間に提案をしてくれて、AIと対話するだけで、自分好みにチューニングできるとしたらどうです?プレイヤーである人間は、AIと話すだけ。あとはAIが、ゲームとコミュニケーションをとってくれます。
ゲームは数千のオプション項目が準備されているけど、プレイヤーはAIに対して「いつも通り、俺好みにしておいて。でも今日は時間ないから、ムービーは1.5倍速で」とだけ言えば、だいたい自分好みの設定を反映してもらえる、とか。
逆に、AIから「このゲームは、ホラー表現が強いという評判です。怖さの程度は、どのぐらい求めますか?」って聞かれて、プレイヤーが答える、など。
社長:なるほどな
小林:で、これ、一回答えて終わりじゃなく、その日の気分でチューニングを変えてもいいんです。プレイしながら微調整してもいいし、毎日変えることもできる。LLMが手軽だからこそできることです。
グラフィックすら、各自の好みに合わせる
小林:あと、もう一歩、踏み込むなら、ユーザーごとに「グラフィックも違う」ですよね。
社長:ゲームの見た目を変える、ってこと?
小林:はい。ビジュアルの好みというのは、個人ごとや、国ごとでかなり好みが分かれます。これまで触れてきた文化のバックボーンに影響されやすいので。たとえば、中国とアメリカでは、ウケる絵は違うんです。もし、それぞれごと、自分のニーズをゲームに反映できるのなら、ぐっと自分好みになりますよね。同じ一つのゲームが、中国とアメリカでは、別のビジュアルで遊ばれても、ほんとはいいはずです。
社長:うーん、さすがにグラフィックまで変わり始めたら、それは別ちゃうか。だって、みんな一人ひとり、見た目が違うゲームを遊んでたら、体験がバラバラすぎるで。体験が違ったら、友だちと共通のゲームの話もしづらくなるし、面白さが半減する気がするんちゃうか。
小林:そうですね。おっしゃる通り「何がユーザーごとに異なり、何が皆で共通しているか」については、かなり設計の妙が問われるとは思います。
ただ、最も極端な例であるグラフィックについても、同じような経験を、我々はすでに一度しています。社長は、ドラクエ11ってやりました?
社長:あぁ、やったで。
小林:あのゲーム、同じストーリーとキャラクターで遊ぶのに、ゲームのグラフィックを3種類から選んで遊べたんです。
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社長:そういえば‥!そやったな
小林:でも、ドラクエ11の思い出を友達と語るとき、どのモードで遊んだかって、いちいち確認しないと思うんですよね。おそらく、それでも話は通じるんです。
社長:確かに、みんなひとつのゲームをやった記憶でおるな。
小林:ドラクエ11は2017年ですけど、いま思っても、あれは明らかに未来のゲーム体験でした。のちにユアゲームの走りと言われるかもしれません。
ドラクエ11は、さすがに極端なケースだとしても、例えば「ゴーストオブツシマ」は、黒澤映画風にモノクロでゲームを描くモードが実装されていたりしました。カラーかモノクロかはプレイヤーが選べます。
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こうして私たちは、すでに「同じゲームを遊びながら、プレイヤーごとにビジュアルが若干違う」というものを、各所でいろんな形で体験しつつあります。若干、毛色の違うところだと、スカイリムのMOD文化も近い感覚がありますね。
社長:それの発展形がユアゲーム、ってことか?
小林:そういうことです。これまでのように、開発者が、各要素を吟味してひとつに絞るのではなく、両パターンとも実装して、AIに選択を委ねる、ということができるでしょう。
社長:それ、すんなり受け入れられるかな?従来のゲームに愛着ある人は、違和感ある気がするで
小林:これ、誤解ないようにしたいのですが、ユアゲームは根本的に、これまでのゲームの価値を損なうものではありません。
社長:そうなん?
小林:いくらパーソナライズしても、ゲーム間の個性の差を飛び越えることはありませんから。どうパーソナライズしても、ドラクエはドラクエですし、ゼルダはゼルダです。
社長:せやったらええけど
ゲームの宣伝の歴史
社長:なんでお前は、ユアゲームが生まれるって予想したんや?
小林:これまでのゲームの歴史で「ゲームの宣伝のトレンドが変わるのに合わせて、ゲーム自体の形も変わってきた」のを見てきたからです。それを考えれば、2023年以降、汎用統合型AIが実現し、宣伝の仕方が変わるとしたら、今回もまた、その影響を受けるだろうと。
社長:そうなんや
小林:これ、せっかくなので、詳しく触れてもいいですか?「ゲームの宣伝の歴史」について。
社長:お前は、いつも歴史の話をするな‥。まあ、ええわ。言うてみい
小林:今までのゲーム市場で、プレイヤーが「このゲーム、なんか流行ってそう」という感触を、どこから受け取っていたかについて、その変遷を、すごくざっくりと振り返ると‥
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小林:かなりラフに整理すると、こういう感じだと思っています。
社長:待て、字が小さくて読めん。えっと‥?
小林:大見出しだけ見てもらえれば構いません。
社長:古い方から順に、メーカーのマス広告 → ユーザーレビューによるバイラル → プラットフォームが作るバズ、の順か
小林:はい、そうです。1990年代までは、メーカー主導でトレンドを作っていました。2000年代になり、インターネットとともに、バイラルの影響が増しました。その後、2010年代は、SNSやショート動画によって、バズの時代になりました。
社長:バイラルとバズって違うんかいな。要は口コミやろ、両方
小林:私のおおまかな理解でいうとそのふたつの違いは「瞬間風速が違う」です。バイラルは、ユーザーの多数決による優劣の評価。バズは、それに比べ、もっと刹那のウケによる拡散という感じかと。
社長:ふーん、よ―分からんけど
小林:で、ここからの話が大事です。私が思っているのは「ゲームの宣伝の都合に、コンテンツの性質をうまく寄せた方が、よりヒットが生まれやすい」ということです。特殊な大ヒットをするゲームは、時代の波に乗っています。
例を挙げてみますね
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小林:例えば、FF7には、テレビCM映えするグラフィックの美しさがありました。マルチプレイが魅力のモンハンは、「ひと狩りいこうぜ!」と友だちを誘いたくなる拡散力を強く持っていて、バイラル向きでした。昨今だと、マイクラは、ショート動画のネタ供給能力が高く、バズの時代と相性が良いです。これらは、従来的なマス広告もやってますけど、加えて、時代の潮流も活かせている。
‥もちろん、これらのゲームがヒットした主要因は、他にありますが。論旨を単純化するために、だいぶ荒い話をしているのはご容赦ください。
社長:まあ、そのゲームの例えが的確かはともかくとして、言いたい理屈は伝わったわ。実際、ニコ動がきっかけでアイマスが人気出たとか、Twitchの実況配信がLoLの人気を後押しした‥とか、昔の例は、いっぱい思いつくしな。
小林:ああ、確かに。あの頃は、そうでしたね!
社長:最近もスイカゲームが配信きっかけで売れたし。「ゲームの宣伝のトレンドが変わるのに合わせて、ウケるゲーム自体の形も変わる」って意見は、理解できるで
小林:汲んでいただいて、ありがとうございます。
で、それを踏まえたうえで、これから「AIの時代」を制するゲームを想像してみたくて。ユーザーが触れる最前面がAIに置き換わる未来で、宣伝も変わる。そのときゲームに起こる変化が「AIが、オススメゲームを紹介してくれるようになりました」だけで済むわけがないと思うんですよね。もっと「AIの本質と、ぴったり噛み合ったゲーム」が新たに生まれて、それが受け入れられると思うんです。
社長:確かにそんな予感もするな
小林:で、その「AIの本質と、ぴったり噛み合ったゲーム」の形はいくつか想像できますが、私がいま予想しているひとつが「ユアゲーム」、つまり「ゲーム自体がパーソナライズされて、AIがプレイヤー好みのゲームを準備してくれる」ことなんです。
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ユアゲーム実現のために、必要な3つの要素
社長:実際、ユアゲームって実現可能なんか?
小林:かなり近いところまで来ていると思います。私が思うに、ユアゲームを実際のプロダクト上で作るには、以下の①~③を強化する必要があります。
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小林:この3つのうち、少なくとも①と②は、LLMの影響を受けて、大きく前進する部分です。あとは③しだい。
社長:ん‥?また難しい話やな。どういうこっちゃ?
小林:それぞれ説明させてください。
① ユーザーが、自分の嗜好や要望を、ゲームに反映させられる
小林:これは先ほどお伝えした話ですね。「オプション設定を2000項目も選ぶゲームはやってられない」→「だがAIと対話することで、要望が反映できたら楽」という話でした。
社長:ああ、その話か。確かに、これは言語モデルならではやな
小林:そうですね。OpenAIがもたらすイノベーションで、いちばん影響が大きいのがここです。
続きまして‥②です↓
②ゲーム側が、ユーザーの嗜好を細分化して把握できる
小林:こっちは、逆にゲーム側から見た話です。この項目も、LLMのおかげで、精度が上がるでしょう
社長:そうなんや
小林:これまでは、ゲームが、ユーザーの好みを読み取る方法は、粒度が粗いものでした。
たとえば、Tiktokはどうやってユーザーの好みを知ってきたか。これまでは「この動画は途中でスキップしたから、好きじゃないんだな」や、「この動画に高評価をつけたから、好きなんだな」というようなユーザー行動の情報をもとに、ユーザーの好みを推測していたわけです。
でも、高評価するかしないか、という情報は、たったの2択です。今までは、こんな荒い分解能でしかユーザーの好みを把握できなかったものが、今後は、言語を介することで、微に入り細に入り、ユーザーの意図を汲めるようになるでしょう。
AIは、プレイヤーに問います。「あなたが昨日プレイした、スパイアクションのゲーム。ステージ6は、難しさとしてどうでしたか?」。人間が「途中まではよかったけど、後半のステルス行動のところは、難しさが理不尽でつまらなかったな」と答えたら、AIは、それを基準に難易度を調整する。その後半パート部分は、タイミング押しがシビアなゲームだったので、AIは「このプレイヤーは、タイミング押しが苦手」と判断し、入力判定を緩和する。こんなことすら可能になるかもしれません。
社長:なるほど‥
小林:自然言語の文章は、潤沢な情報量を持っています。従来の手法が、マークシート選択式のアンケートだったとしたら、それが、いわば自由記述のアンケートに進化するわけですから。プレイヤーの感情を読み取れる量が、桁違いに増えます。その情報を元にすれば、ゲームの細かい部分まで「プレイヤーは、どこが好みで、どこが苦手か」を把握できるでしょう。
社長:それはそうか。
小林:①も②も「言語を介することで、情報が増える」ことを役立てています。これはLLMの恩恵ですよね。
社長:確かに。AIならでは、か。
③ユーザーの嗜好の幅に応じられるだけの、ゲームの表現のバリエーションを実装する
小林:で、今後、ユアゲームを実現するのに、最大の問題は③です。「ユーザーの嗜好の幅に応じられるだけの、ゲームの表現のバリエーションを実装する」というのは、プロダクト制作上の課題です。
ユーザーに、2000個のオプション切替スイッチを提供するためには、その数だけ、切り替えた結果をゲームに実装しなくてはいけない。これは、まだ実現できた例がありません。
社長:そら、そうやろ。作るの大変すぎるで
小林:まだ、ユアゲームを実現するのに、最後のひとピースが埋まってない、という感じですね。ここを埋められた企業が、大きなムーブメントを生み出せる、という気がします。
生成AIがもたらす大量制作の能力が、量の問題を緩和する未来は見えていますが、まだそれが③の実現に寄与するかはわかりません。もしかしたら、その方法だけでは、まだ遠いかもしれませんね。
この壁を乗り越えようとして、大企業が最初のプロダクトを作るかも‥と、私は思っています。資金力に物を言わせて、力技で2000個の切替スイッチを実装することもできますから。
社長:あー、なるほど。
小林:あとは「ユーザーに作ってもらう」というアプローチもありえるでしょう。メーカー自身がバリエーションを実装するのではなく、MODや、UGCなど、ユーザーに開かれた方法で環境を提供し、バリエーションを実現するパターンもあるかもしれません。
社長:ああ。スカイリムとか、フォートナイトみたいなやつか
小林:そうですね。いずれにせよ、ユアゲームの実現は、大企業の方が向いているでしょう。どうしても規模感が大きい基礎研究になると思うのですよね。それが耐えられる企業しか、そもそも着手できないでしょうから。あと、そもそもユアゲームは、ユーザーがたくさんいる大規模タイトルの方が価値が出やすいですし。
ユアゲームを最初に作るのは誰か?
小林:ユアゲームという構想、今はもしかしたら、絵空事に聞こえるかもしれません。でも、実現するのは、そんな先の話ではないでしょう。いずれ、どこかの会社が始めます。そして、その価値に皆が気づいて追従するまでは、あっという間だと思います。
社長:価値が高けりゃ、みんなマネするやろうな
小林:価値については、さっきも言った通り、ユアゲームは、これまでのゲームの購買体験を、根本的に揺るがすほどのものではないとは思っています。
社長:ゲームの根幹が魅力的で面白いのは、どっちにしろ人間が自力で作らなあかん、って話やったっけ
小林:そうです。ただ、そのうえで、ユアゲームが施されたゲームは、細かい違和感がないため嫌われにくい、という感じだと思います。「なんかこのゲーム、俺には合わんわ」と言われる確率が低い。結果として、メタスコアがやたら高いという可能性はあります。それに価値が見いだされれば、流行るかもしれませんね。
社長:なるほどな。…ええやん、ユアゲーム。お前が作れよ
小林:これ、誰が最初に作りそうか、個人的にもう予想してまして‥
社長:誰や
小林:これって大企業しか着手が難しいことを考えると、できる会社は、数が限られます。でも、おそらく、任天堂は、最後の最後まで参入しません。彼らは、こういうときは常に慎重です。自分たちの価値が他にあることを知っているので。
で、それ以外の、ゲームメーカーのどこか一社が、それを製品に反映させ、時代を一気に押し進めます。
‥と考えると、まあ、やはり真っ先に考えに浮かぶのは、 Epic Games ですよね。ユアゲームを実現するためのコンディションが整いすぎている。
社長:あー。確かに
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小林:彼らは、フォートナイトですでに、マップのオープン化のような自由度の高い基盤を、そこに作っています。もう一方で彼らは Unreal Engine というゲーム描画エンジンの担い手でもあります。どっちもこの話とは関係が深い。
社長:ほんまやな
小林:例えば、今日言った、ユアゲームの一連の機能が、フォートナイトのいち機能として提供されるのは、いかにもありそうな未来のひとつです。
AIに言葉で指示すると、難易度、UI、グラフィック、操作、あらゆるものが、プレイヤー好みに最適化されるフォートナイト。そして、そのユーザーごとにカスタマイズされた設定は、Epic Gamesの他のゲームにも簡単に反映可能。ありそうでしょう?
社長:あー、確かにな
小林:勝手に名前を挙げて、Epic Gamesの皆さんには申し訳ないですが。実現してほしい‥という期待感だと受け取っていただければ。
ユーザープロファイルの標準規格化
社長:ひとつ引っかかるんやけど。
小林:なんでしょう?
社長:ユアゲームの意義は分かったんやけど、それさ、OpenAIのイノベーションがなくても、従来技術だけで充分やれる状況が揃ってた気がするねんけどな。今回のOpenAIの発表とそれ、ほんまに関係あるか?
小林:鋭いですね。仰る通りです。ゲームのパーソナライズは、原理的には、AIがなくてもできます。
社長:やっぱそうか。
小林:現に、TikTokのレコメンドエンジンは、以前から、ユーザーの視聴履歴をもとに、ユーザーが好きな動画を自動で見つけて提供しています。これは立派なパーソナライズです。たくさんのユーザーデータさえあれば、パーソナライズはできます。
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社長:せやろ。それ、ゲームも同じように、ユーザーのゲームプレイ履歴を見て、勝手に難易度とかを自動調整したらええやん。ゲーム下手な人なら、それに合わせてゲームの難易度を下げる‥とか。それはAI抜きで、これまでも、できてたんちゃうんか。
小林:そうですね。もし、ユーザーのゲーム嗜好やプレイ傾向を、ユーザープロファイルとして規格化し、異なるゲーム間で共有さえできれば、実現できるはずです。
でも、実際問題として「異なるゲーム間で使える、ユーザープロファイルの標準規格化」って従来のアルゴリズムでは、難しい気がしませんか?ゲーム自体は、ゲームジャンルも、コンセプトも、開発元もバラバラです。それに対して、ユーザープロファイルの統一規格を作ることが難しい。なので、今のところ実現していません。
社長:‥まあな。確かに。
小林:フォーマットがバラバラのユーザープロファイルが無数にある。でも、ほんとはそれを、タイトル横断で共有できれば、価値が出るんです。だから、言語ベースで、柔軟なインプットとアウトプットができるLLMが媒介して橋渡しすれば、それが実現できるんじゃないかな‥と。
社長:確かに、自然言語は柔軟やからな。向いてる気はする
小林:ついでに言うと、ゲーム業界以外でも「ユーザープロファイルの標準規格化さえできれば、こんなサービスが提供できるのに」と言われていた業界があるとしたら、それはAIによって、革新が生まれるチャンスだと思います。そこって実はLLMの得意な範疇だと思うんですよね。
社長:そうか。なんやろな
小林:ぜひ、異業種の方でアイデアが思いついた方がいたら、参考に教えてください。
最後に
小林:いつも通り、今日の話は、100%、私の妄想です。外れたらすみません。
社長:答え合わせが楽しみやな
小林:私は、数年前から、ユアゲーム自体は、遅かれ早かれくるだろうと思っていたのですが、実現の流れは、予想と違う方向に向かっています。私はかつて、「②ゲーム側が、ユーザーの嗜好を細分化して把握できる」については、生体データから検出するムーブメントを予想してたんですよ。
社長:生体データ?
小林:アップルウォッチが心拍数を計測してる‥とかですね。それを使ってユーザーの好みを読み取る。
社長:あぁ、なるほど
小林:ただ、生体データ経由は、まだまだ実現が遠そうですね。今回のOpen AIの発表を見るに、生体データより先に、言語モデルAIのムーブメントが追い抜かしていきそうな気がしてます。
やっぱり脈拍や脳波から、その人の気持ちを読み取るより、その人本人が感情を言葉にしていった方が、現段階では、はるかに情報が多かった。これが、私の最近の気づきです。
社長:ふーん。‥そういえば、お前はゲーム開発者として、今まで、ゲームを細部まで手作業で作ってきたんやろ。今日、AIに、ゲーム開発の仕事をけっこう奪われる話をしてるけど、それへの憂いはないんかいな
小林:ないですね。スケールがでかすぎて、ワクワクの方が上回ってます。私の足元がぐらつくかどうかなど、もはや、どうでもいい。
社長:そうなんや。ほんまはもっと、人間ならではのゲーム作りも、がんばってほしいねんけどな‥
小林:今後は、時代の流れに柔軟に合わせ、つど必要な仕事をします。今はそれしか言えないです。私のゲーム開発者としての価値で、唯一揺らがないものは「ゲームをプレイするのが好き」という一点だけですしね。
(了)
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