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データで楽しむ同人誌売上レース

はじめまして。吉田屋敷と申します。
「COMITIA142」が11月27日(日)に東京ビッグサイトで開催されます。
このイベントの会場内企画として
「ゲンロン ひらめき☆マンガ教室 特別授業2022 & 同人誌売上レース」
なるものが開催されます。
本記事では、このイベントを一参加者の視点から紹介してみようと思います。
「ひらめき☆マンガ教室」を知らない方にとっては興味をもってもらうきっかけとなるように。
知っている方にとっては、新鮮な側面をお見せできるように。
最後までお付き合いいただければ幸いです。でははじめます。

なにそれ?

これです↓

リンク先でこの教室と同人誌売上レースの概要が紹介されています。

ゲンロン ひらめき☆マンガ教室とは
株式会社ゲンロンが2017年に設立したマンガ家育成スクールである。主任講師を評論家・マンガ原作者のさやわかが務め、第一線のプロであるマンガ家を多数ゲスト講師に招きながら、幅広くマンガ界で活躍する人材を育成している。
前身となった「ひらめき☆マンガ学校」は2009年に講談社によって設立され、 谷川ニコ、ふみふみこ、米代恭といったマンガ家を輩出。
技術論にとどまらない、作家に必要な自己プロデュース力(ひらめき)を独自のメソッドで鍛える点を特徴としている。同教室では毎年、受講生が同人誌を制作し、同人誌即売会「COMITIA」にて頒布する授業プログラムが実施されている。今年度は第5期にあたる。
新型コロナウイルス禍の動向を慎重に見つつ、例年通りに開催される運びとなった。 受講生たちは機械的に3チームに分割され、それぞれ合同誌を制作。 COMITIA当日の販売数を競い合い、その部数によってひらめき☆マンガ教室内での成績ポイントが加算される。
つまり、COMITIAであなたが選び、購入した本の売り上げが、直接受講生たちの評価につながるのだ⋯⋯!

評論家・マンガ原作者 さやわか

https://www.genron-alpha.com/hirameki_doujin_2022/

ひらめき☆マンガ教室は受講料さえ払えば誰でも受講できる教室であり、受講生のスタンスは実にさまざまです。
「アシスタントしながらマンガ描いてます。メジャー媒体でのデビューを目指してます」
「マンガ描いたことないんですけど自分でもできますか?」
「もうプロとして連載してるんですけど刺激が欲しくて来ました。連載で忙しいんで教室の課題は出せないと思います」

そんな有象無象の受講生たちがランダムに3チームに振り分けられ、「教室の中でぬくぬくやってんじゃなくて、外に出て、読まれるマンガ・読まれる本を作ってごらんなさい。同人誌売上レースだ!」という課題なわけです。
わたし、吉田屋敷は第5期を受講しており、今回の同人誌売上レースにも参加しています。

数字の話

この課題はひらめき☆マンガ教室第2期から始まり、第5期で4回目です。
つまり過去3回分の結果があります。見ていきましょう。

第2期 
2018/11/25 COMITIA126

155冊を売り上げたチームA『大人になったきみへ』が優勝。
155という数字に皆さんはどのような印象を持たれるでしょう。同人誌即売会にサークル参加した経験のある方であれば、達成するのがなかなか難しい数字であることが想像できるのではないでしょうか。ましてやオリジナル作品で無名の作家(…というわけでもなかったりしますが)の合同誌です。
2位3位と差をつけての優勝なので、想定読者に届けるような独自の取り組みが結果につながったのだと思います。

第3期 
2020/02/09 COMITIA131

105冊を売り上げたチームC『ギャル×〇〇』が優勝。
数字が少ないですね。COMITIA131が開催された2020年2月9日の日本の空気を皆さんは覚えているでしょうか。2019年末から海外で話題になり始めた新型コロナウィルスへの不安が、2月3日に横浜港に到着したダイヤモンド・プリンセス号の一件で決定的になった時期です。
参加を自粛するサークルも多く、いつもは売り切れる会場販売のティアズマガジンが売り切れない程度の入場者数でした。
参加者の絶対数が少ないとはいえ、3チームの売り上げを比べると1位と3位ではダブルスコア近い差がついています。チームCの打ち出したフックのあるテーマと、積極的な広報活動が優勝という結果につながりました。

第4期 
2021/04/26~05/08 ネット通販

170冊を売り上げたチームA『欲 その望みは破滅ー。』が優勝。
緊急事態宣言下、コミティアの開催が見送られたことで第4期は教室主催のネット通販による売上レースになりました。
2週間の販売期間で、運営が用意した120冊を越える勢いで売り上げが伸び、緊急増刷分も売り切った第4期チームAの170冊という数字は偉業と言えるでしょう。受講生の作品以外にインタビュー3本を収録した200P超の大ボリューム。youtubeで生放送された講評会からも、自信と気合が伝わってきます。

数字を並べてみよう

ひらめき☆マンガ教室 同人誌売上レース 売上冊数

過去3回でイベント形態や状況が違うので単純な比較は難しいです。
ですが、条件の違う第2期と第4期で、合計売上の数字が近いことは興味深いです。(第4期チームAは完売なので、用意された部数が多ければもっと数字は延びたでしょう)

第5期の話

今回の販売予定冊数は各チーム150冊です。この数字は教室運営が決めています。
運営側も過去の数字を参照しながら「もしかしたら完売するかもしれない数字」を設定しているのだと思われます。コミティア開催ということで、第2期と第3期の数字を踏まえつつ、時勢も鑑みて今回は150冊ということになったのでしょう。

ちなみに、コミティアで150冊売るとはどういうことかピンと来ない方もいるかもしれません。
コミティア142は11月27日の11:00~15:00までの4時間開催です。
4時間=240分=14400秒
14400秒/150冊=96秒/1冊
96秒に1冊のペースで売れないと完売にはなりません。実際は4時間の中で講評会と結果発表があるので売上集計時間はもっと短くなります。

運営側が決めていることは他にもあります。

ページ数

売上レースにおける同人誌作成には、運営側から受講生3チームにルールが課されます。内部資料なのでここではぼんやり書きますが、受講生は自由に同人誌を作ることができるわけではありません。
チーム内の受講生ひとりひとりに既定のページ数が割りふられ、余剰ページと合わせて、どんな内容を盛りこんでいくのか考えることになります。

で、このルールなのですが、第5期とそれ以前では内容がちがいます。
簡単に言うと自由に使えるページ数が少なくなっています。今期のルールでは、第4期に170冊の売上をたたき出した『欲 その望みは破滅ー。』のような、マンガ以外の読み物も充実させた本を作ることはできません。

ルールの意図を想像する

わたし、吉田屋敷は第3期も受講していました。だからこそ細かいルールの違いが気になりました。変更があるならそこには理由があるはずです。

今回で同人誌売上レースは4回目です。教室の課題として設定されており、受講生がなんらかのフィードバックを得ることが期待されています。
ですが、売上レースの結果がその後の最終課題の評価や、卒業後の受講生の活躍とつながっているかというと、そのように見ることは難しいと言えるでしょう。売上レースで優勝したチームの受講生が特に目立っているわけではないのです。

教室という空間は失敗が許される場所です。売上レースで結果が残せなくとも前向きに取り組んだのであれば、もしかすると優勝するよりも経験値は高いのかもしれません。多くの受講生にとって、ひらめき☆マンガ教室に来る目的はマンガ家になることです。売上レースを楽しむことではありません。「ここで負けた経験が力になる」的な台詞をいろいろなマンガで読んだことがある気がします。

とはいえ見栄えが悪い。
「別にマンガの内容で売上レースの順位が決まっているわけじゃない」という声は教室の内外問わず聞いたことがあります。
できるだけマンガの内容で想定読者に支持されるように頑張ってほしい。マンガ自体の評価と売上レースの結果を近づけたい。
自由度を減らしたルール変更には、このような運営の狙いがあるのではないでしょうか。

売上を左右するもの

ところで。
「内容だけで売上が決まるわけじゃない」という話は、どんな業界でもありふれた話です。広報活動やその時々の社会情勢など、現実に数字を左右する要因はさまざまです。
こちらのツイートの画像をご覧ください。

一つ目は第2期のブース設営の様子です。
二つ目は第3期の『ギャル×〇〇』のブース写真です。

第2期で優勝したチームA『大人になったきみへ』
第3期で優勝したチームC『ギャル×〇〇』
両方とも島角の配置での優勝となっています。

わたしは第3期にも参加していたので(チームB『デート』のメンバーでした)、『ギャル×〇〇』が島角だったから優勝したわけではないということを知っています。また、同人誌即売会の経験が豊富な人から「島中と島角でおおきく売上が変わるわけではない」という話も聞いたことがあります。

じゃあ、島中と島角の好きな方を選べるとしたら?
予想でしかないですが、同人誌即売会に参加したことのあるすべての人間は島角を選ぶでしょう。

みなさんに伝えたいこと

過去の結果を振り返り、数字を見比べて、ルール変更に対しての私見を述べ、スペース配置に関してはほとんどいちゃもんに近い内容を書いてきました。
ここまで読んでくれた方にわたしが伝えたいことはシンプルです。

コミティアに来て、わたしたちの同人誌売上レースに参加してほしい。

是非、11月27日、コミティア142に足を運んでいただき、わたしたち3チームのブースの前で、自分が興味を持った本を手に取ってほしいのです。
あなたの「面白そう」と感じた気持ちが少しでも結果に反映されるほど、この同人誌売上レースは良いものになります。
「少しでも」と書きましたが、1/150冊の重みは少しなんてものではありません。あなたの選択が売上レースの結果を左右し、受講生への励みになるでしょう。

受講生はマンガを描くことを勉強している最中であり、あなたが普段楽しんでいるマンガと比べると見劣りするかもしれません。別の楽しみ方も提案しておきましょう。

先を見る

第3期で2位という結果に終わったチームB『デート』という本があります。
第3期終了後、この同人誌に参加している作家9人のうち、なんと4人が連載デビューしています。
ジャンプ+で『マリッジトキシン』を絶賛連載中の静脈さん。
新進気鋭の怪談作家
さんとタッグを組み『コワい話は≠くだけで。』を連載中の景山五月さん。(雑誌「ねこぱんち」で『黒猫の〇〇ごっこ』も連載中。)
自伝的マンガからSFジャンルまで幅広い活躍の
ハミ山クリニカさん。
「good!アフタヌーン」で
『週末芸人』の連載を終え、次回作を準備中の久保田之都さん。
漫画賞の受賞や読切掲載も数えると、9人中8人が商業媒体で結果を残しています。(…はて、なんで勝てなかったのかしら。)

多くの受講生の目的は、教室を卒業してデビューすることです。その未来を見定めて、「この人はなにかになりそうだ」と可能性にベットする意味で本を選んでみるのも楽しいかもしれません。「アイツのことは昔から知っていた」と古参面ができます。
受講生の課題作品は以下のサイトですべて読むことができます。ピンとくる作家が見つけられるかもしれません。

ちなみに『デート』はまだ買えます。

この課題は印刷部数が決まっており、コミティア当日販売分に加えて、後日通販でもお買い求めできます。が、あくまで教室の課題でしかないので、通販の売れ行きがいいからといって増刷はされません。(イベント中に売り切れた『欲 その望みは破滅ー。』はもう手に入りません。)

さいごに

この課題は授業中に主任講師のさやわか先生から告知されます。以下の画像は第2期のものですがこの部分は第5期でも変わっていませんでした。

刺激的な文面はバトル・ロワイアルを連想させます。鼻息が荒くなる受講生もいるでしょう。しかし、この文面について考えると勝負の先の話まで想像できるような気がします。
同人誌売上レースがバトル・ロワイアル然としたデスゲームなのだとしたら、参加者同士で殺し合っている場合ではないでしょう。デスゲームのハッピーエンドというものは、主催者の野望を打ち砕き、閉じられた空間から外の世界に出ていくことだからです。

3チーム手を繋いでゴールしたいというわけではありません。
ですが、100冊売っての優勝と、一番遅かったけど150冊完売しての3位では、どちらが読者にマンガを届けたということになるでしょうか。

自分たちのマンガは、会ったこともない読者に読まれるんだという実感を得て卒業に向かえれば最高です。
ついでに3チーム合計の売上冊数を更新したい。3チーム売り切れば合計450冊です。

【Q01a】チームA『ぼくたち、秘めてます。』

【Q01b】チームB『DEADLINEs』

そして、わたしが参加している【Q02a】チームC『POWER』


果たして、完売という結果に足る本になっているのか?
それを確かめるためにも、是非、11月27日、コミティア142に来てもらえると嬉しいです。お待ちしています。

個人的な宣伝

ジャンプルーキーにマンガを投稿しています。第5期の課題で描いた作品を膨らませたものです。
ジャンプルーキーは「いいジャン!」の数が大事な媒体っぽいので、面白かったら是非「いいジャン!」を押してもらえるとうれしいです。
よろしくお願いします!

結果(2022/11/28追記)

チームA『ぼくたち、秘めてます。』、84冊
チームB『DEADLINEs』、78冊
チームC『POWER』、92冊
「ゲンロン ひらめき☆マンガ教室 第5期 同人誌売上レース」はチームCの優勝となりました!
現地で手にとってくださった皆様、本当にありがとうございます。

この記事は「データで楽しむ同人誌売上レース」です。
結果を並べてみましょう。

ひらめき☆マンガ教室 同人誌売上レース 売上冊数
※コミティア閉会までの最終的な売上冊数ではA→102、B→93、C→105となり、差が少なくなっているのですが、これまでとデータのルールを合わせるために、イベントでの結果発表のタイミングの数字を使用しています。

数字が少ないですね。
5期の結果についてはっきりと言えるのは「これまでと比べると売上冊数の差が少ない」ということです。
イベント中の講評では先生方から「今年レベル高くないですか?」との声もあり、評価したい本も意見が3チームそれぞれに分かれていました。
同人誌売上レースへの参加が2回目のわたし個人の印象としては、どのチームも取り組みの質が良く、全体的にもっと高い売上を期待していました。

しかし現実はそう簡単にはいかないもの。
当日売り子としてブースに立ち、改めて強く実感したのは「見本誌を手に取ってパラパラめくり、内容を見て買う/立ち去る人が多い」ということでした。
この記事の上の方で「別にマンガの内容で売上レースの順位が決まっているわけじゃない」という話を書きましたが、この擦れた思い込みとは真逆の実感です。本を開いて、おもしろさが読者に伝わることが大事なのだという当たり前のことを、ブースから人が立ち去るたびに噛みしめました。

とはいえ、見本誌を立ち読みしてから「1部ください」と言われたときの喜びは何にも代えがたいものでした。
同人誌を手に取って、買ってくれた方が楽しんでもらえていたら嬉しいです。
チームC『POWER』の奥付には読者アンケートの案内があります。
お送りいただいた感想を励みに、今後もマンガを描き続けていきます。是非、アンケートにご協力いただければ幸いです。

ところで

コミティア142当日の「ひらめき☆マンガ教室 特別授業2022」は盛況でした。立ち見で話を聞いている人もいたとか。
売上レースの結果発表を見て「え、こんなもんなの?」「わたしが参加したらもっと高い数字だせるけどね」と感じた人もいるのではないでしょうか。

ひらめき☆マンガ教室は第6期も開校予定とのことです。
同人誌売上レースに殴り込みというのは教室の趣旨とはズレた目的ですが、イベントを見て興味をもった方、是非受講を考えてみてはいかがでしょうか。自分のマンガを人に読んでもらいたい全ての人にオススメします。
来期も同人誌売上レースはあるはずです。わたしはこの課題で頑張る人を応援しています。第6期ではどんな同人誌が出てくるのか、楽しみにしています。

これまでの同人誌課題でつくられた全12冊


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