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★エンジニアの仕事【レーシングチーム】第2弾

前回の更新から約1ヶ月空いてしまいましたが、『エンジニアの仕事内容』の第2弾を記事にしたいと思います。
例年だと12月は1シーズンの振り返りの期間ですが、今年は第4週までレースという異例のシーズンで、なかなか記事を書く時間が取れませんでした。シミュレーターのレースにも出られず、かなり濃密なシーズンとなりました...
さて、今回は前回記事の続きになりますのでまだ第1弾を読まれてない方はそちらを読まれてから本記事を見て頂いたほうがより内容を理解して頂けると思います。

前回に引き続き、私が担当しているトラックエンジニアというポジションの仕事について紹介していきます。トラックエンジニアが現場でどういったことを考えながら仕事をしているのかを知っていただくことで、レースをより面白くみていただけるようになれば嬉しいです。

1.サーキット編-走行前日

サーキットに着いてから行う仕事は、走行がある日とない日で異なります。走行のない日として挙げられるのは走行日の前日で、トレーラーから車両や機材を降ろし、パーテーションやデスク周りの設営をしたりするので搬入日や設営日と言ったりします。
走行の前日にやる仕事は、以下の通りです。(設営作業は除く)

1.アライメント確認
2.車検
3.トラックウォーク
4.他チーム動向確認

アライメント確認は事前に考えたセットアップに対して、キャンバー角やトー角、車高及び輪荷重といった項目が正しい状態になっているかを確認する作業です。アライメントを確認する際には車両を水平にしておく必要があるので、メカニックが準備してくれた簡易定盤を使います。工場ではより高い精度でアライメントを確認するために、車両が乗る大きな1枚の定盤を使ったりします。

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上の写真は2013年のWECを見に行った時に撮った写真ですが、タイヤの下にある台が簡易定盤と呼ばれるもので、この台は高さや角度が調整できるようにアジャスターがついており、これをタイヤの位置に4枚用意することで、車両を水平状態に接地させられるというものです。

車検は、公式なレースイベントのみですが、参加車両がレギュレーションに準拠した状態になっているかを主催者が確認するものです。車検担当者に、技術的な質問をされる場合がありますので、それに備えて立ち会います。この場にエンジニアが立ち会うかどうかはチームによって異なるかもしれません。

トラックウォークはその名の通りサーキットを歩くのですが、走行前日の仕事の中で最も大変な仕事です。GTとSFが開催されるサーキットは短くても4km近くありますし、鈴鹿サーキットに至っては5.807kmもあるので、徒歩だと1周するのに約1時間30分くらいを要します。デスクワークばかりで体力のないエンジニアには最も過酷な仕事です(笑)
冗談はさておき、トラックウォークにはエンジニアとドライバーが一緒に行きます。コースの舗装状態や路面の凹凸確認、それからドライバーがどのように走りたいかというイメージを共有していきます。この作業をすることでセッション中にドライバーとのコミュニケーションがよりスムーズに進められるようになります。特にドライバーとエンジニアがタッグ(?)を組んでから日が浅い場合は重要度が高くなります。何故なら、ドライバーとエンジニアが顔を合わせるのは年間を通しても、現場にいる日数+ミーティング数回くらいです。なので、会う回数で考えると遠距離恋愛中のカップルと同レベルです(笑) そのため、コミュニケーションでの齟齬を起こさないためだったり、言葉のニュアンスを掴むためにもここで色々と話すのが良いと思っています。「話してないでコース見ろ」とは言わないでくださいね^^;

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上の写真は今年トラックウォークで唯一撮ったオートポリスの裏ストレート

最後の他チーム動向確認は、他チームが新しい機材を投入していないかといった情報収集を行い、レースを優位に戦おうと企てる作業です(笑) 同業他社に対して競合調査するのと同じです。

2.サーキット編-走行日

さて、本題となる走行日の仕事内容です。

①朝一番にサーキットに着いて行う仕事

1.タイヤ初期内圧の指示
2.走行プランの最終調整
3.走行セットアップの最終確認

上記3つの準備は走行前日の段階で90%は終わっていますが、天気や路面コンディション・気温よって変更がある可能性があるので最終的に当日走行前に決定します。そして、ドライバーがサーキットに到着したら、最終的な走行プランの説明をして、エンジニア側から確認したい内容に関しての情報を共有して走行に備えます。確認したい内容に関する一例をあげるとしたら、セットアップでドラッグを減らして走らせたほうが速そうな場合において、「リアウイングを寝かせるセットアップを試すつもりですが、ブレーキング時のスタビリティや高速コーナーのステアバランス悪化が懸念されるので、そこを重点的に確認するようにしてください」といった内容でしょうか。

②走行(セッション)が始まってからの仕事

1.ドライバーとの無線交信
2.オペレーション
3.メカニックへの作業指示

まず、セッション中はドライバーとのやりとりの90%以上をトラックエンジニアが担当します。何故そうしているかというと、セッション中のやり取りに無線を使用していることが大きな理由だと考えられます。無線はある一人が話している場合、そのチャンネルにおいては他のメンバーは聞くことしかできません。そのため、混線を防止するためにも話す人を限定したほうがよいということ、また複数人から話されたら混乱しやすいのでそれを防ぐという要素もあります。私自身、誰かに尋ねたことがないのでこの理由で正しいかは想像の域を出ませんが…。といってもトラックエンジニア以外の主要メンバーも話せるので補佐的に話すことももちろんあります。

無線で話す内容としては、ドライバーからは車両のステアバランスやタイヤの状況、コースの路面状況についての情報をもらいます。
エンジニアからは自車の周りの状況、特に後続車両がアタックしている場合は何秒後ろにいるかといった情報や、ロガーデータからわかる車両の状態、あとはセクタータイムでどこが速い、遅いといった情報を伝えていきます。
お互いが今見えている情報を共有することで、自分たちのポテンシャルを把握し、対応を協議するのがこのやりとりの目的となります。

次のオペレーションに関しては事前に決めたプランに則り進めていくのが基本となりますが、状況によってはプランの変更が必要になることがあるので、その際の対応をトラックエンジニアが行います。練習走行や予選では赤旗による時間短縮への対応、レースであればピットイン戦略の最終判断をするのを決める作業になります。

メカニックへの作業指示は、現場でセットアップを変更するにはメカニックに作業をしてもらう必要がありますので、「ウイングの角度を変えてください」や、レースでは「次の周にピットインするけど、ピットインのロスタイムを減らしたいのでタイヤは左側2輪の交換にします」といった具合で指示を出していきます。私のnoteはエンジニアの仕事にフォーカスしていますが、チームはメカニック・マネージャーといった裏方がいなければ成り立ちませんので、そこも忘れてはいけないですね。
ちなみに私の信条として、現場ではトラックエンジニアが色々指示を出しますが、トラックエンジニアとチーフメカニックの関係は対等がベストだと思っています。どちらかが強すぎる関係は良くないと思います。


③セッション後の作業 (※①の仕事に加わえて)

4.ドライバーへの聞き取り調査
5.ロガーデータの分析
6.4と5からフィードバック

走行結果を評価するには、
 ⑴ドライバーの官能評価
 ⑵ロガーデータを用いた定量評価
が主となりますので、ドライバーから発生した事象や状況について詳しく確認していきます。そのうえで、ロガーデータを分析していきます。
 分析する手法については既に書いたことがあったかもしれませんが、大まかに2種類あり、取得した全データから結果を評価していく総当たり式か、コメントから推測される箇所をピックアップして分析するやり方があります。工場での分析と違って、分析に充てられる時間が限られますので、サーキットでは後者のやり方で的を絞って分析を行います。

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実際仕事で使っているフォーマットはもっと細かいのですが、普段自分でシミュレーターをやるときこういう感じでまとめています。この分析で得られた内容をフィードバックして次のセッションの走行に向けて走行プランやセットアップの調整を行います。

3.まとめ

長くなってしまいましたが、トラックエンジニアの仕事【サーキット編】をお届けしました。書き終わって読み返してみると抽象的な部分が多くてあまり面白みのない文章になってしまったなと反省しておりますが、一通りの内容は書けたかなと思っております。

不明な点やご質問等ありましたら、コメント欄にお願いします。お応えできる範囲で返信させていただきます。

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