楳図かずおの新作が見たかった
楳図かずおは常にオルタナティブな作家だった。おそらく彼が作品を発表してきた時代を通じて人気がナンバー1だったことは一度も無い。最後のマンガ作品である「14歳」が完結したのが1995年。その後ぷつりと作品を発表しなくなってしまうのだが、後に「だれもほめてくれないからいやになっちゃったんですよ」と」語っている。その時点で楳図は60歳。ほとんどの作家は「描きたくても描けない」劣化に陥る年齢だから、そうこうしているうちに彼も描けなくなるのだろうと思っていた。
2022年、突然彼は制作に4年をかけたという全101枚の連作絵画で新たな物語を提供する。きっかけは2018年、フランスのアングレーム国際漫画フェスティバルで「わたしは真悟」が遺産賞を受賞したことだという。「ほめてくれるんならまた描いてみよう」と思ったそうだが、その時楳図は80歳を超えていて、しかも最後に作品を発表してから20年以上が経過している。どう考えても年寄りの道楽以上のものは期待できない。しかし、そこで展開されていたのは全く衰える事のない筆致で描き出された圧倒的な物語。ぼくは度肝を抜かれた。「この男は休筆なんかしていない。きっと作品を発表していない20数年間、欠かすことなく刃を研ぎ澄まし続けていたに違いない」そう思った。
彼の代表作は何かと問われれば、「漂流教室」や「おろち」、「まことちゃん」あたりがすぐに思い浮かぶが、他にも「猫目小僧」、「アゲイン」、「ロマンスの薬」、「紙の左手悪魔の右手」などなど、傑作は数多い。その中でぼくが個人的に最高傑作だと思っているのが「14歳」。
楳図が最後のマンガを完結させてからもうすぐ30年。その間も数えきれないマンガが発表され続けてきた。しかしこの作品に匹敵するイマジネーションを創出できた者がどれだけいただろうか。なんとなく「それがいつ、何歳の時に描かれたかなんて関係がない。今、並べてみてどっちがすごいか、お前にわかるか?」 と だれかから問われている気がした。
※見出し画像は昭和の小学校女子を恐怖のどん底へ突き落した名作「赤んぼ少女」のフィギュア。正面に伸ばした右手は実はギロチンに差し込まれている。