リバーブックス日記 2024.10.22(火)
2024.10.22(火)曇り 13/25℃
定休日なので、思いっきり寝坊して10時すぎに起床。年を取ると朝目が覚めてしまうとよく聞くけれど、今のところその気配はゼロだ。早朝に目覚めてウォーキングしちゃうような日が、自分には来るんだろうか。
今日は神奈川県の真鶴町に行こうと思っていた。
8月にリバーブックスで開催した、のもとしゅうへい展『海のまちに暮らす』の舞台が真鶴だったし、同名本の出版元である真鶴出版の川口さんや、真鶴で僕と同じく個人書店の「道草書店」を営む中村さんがたびたび当店にも来てくださっていて、何かと真鶴にはご縁がある。何度か行ったことがある町だけど、ゆっくり歩いたことはなかった。
沼津から真鶴は、実はとても近い。JR沼津駅から東海道線の上り電車に乗ってわずか5駅。沼津ー三島ー函南ー熱海ー湯河原ー真鶴。30分電車に乗ると着いてしまう。静岡県民の感覚だと隣県だし、箱根の山を越えるから心理的に遠く感じるけれど、物理的な距離はわずか30kmだ。
昼過ぎに家を出て、13時半の電車に乗って、14時過ぎには真鶴駅のホームに立っていた。これはもうご近所と言っていいだろう。
駅を背に、なんとなく海の方に向かって歩く。真鶴は海に向かう傾斜した土地に成り立っていて、町じゅうが坂だ。坂を下れば海に着くだろう。坂なので、下の町並みが見える。見渡す限り高い建物はない。真鶴町には「美の基準」という、町の景観のみならず、路地で生まれる住民同士のコミュニケーションにまで心配りをした町づくりの条例があり、それによって海沿いののどかな街並みが形作られているそうだ。路地を入ると住宅に続く石段があり、猫がいる。
少し歩いて、道草書店へ。住宅街の中にある小さな本屋さんで、奥には畳敷の小上がりがあり、その奥には児童書を並べた子供図書館や真鶴の資料を集めたスペースもあった。店内ではコーヒーも飲めるようになっていて、住民の方がコーヒーを飲みながら店主の中村さんとお話をしている。本屋で靴を脱いで畳の上でアイスコーヒーを飲んでくつろぐ。文字にするとよくわからないが、想像以上に落ち着く。店名の通り、これは道草をくってしまう。店主の中村さんと12月に開催される横浜の本のイベントの話などを伺って、真鶴町の「美の基準」の本と、大竹昭子さんの中平卓馬の本を購入。またぜひ来よう。
さらに坂を下って「岩海岸」というど直球な名前の海岸へ。平日なので工事関係の人しかおらず、地図に載っていたハンバーガー屋さんも閉まっていた。雨が降りそうな気配だったので、来た道を引き返して、真鶴駅に向かう。道沿いには昭和の香りを残した豪邸がいくつもあり、庭を埋め尽くす緑の合間から建物が見える。鳥の鳴き声が360度から聞こえる。カメラを持って写真を撮りながら散歩したくなる道だ。
ふと見覚えのある路地に辿り着く。この先に真鶴出版があって、以前来たことがある。調べたら今日はショップはお休みだった。また来ようと思って前を通ったら、灯りがついていて、中にいた川口さんが気づいて招き入れてくれた。
気を使ってくれたのかもしれないが、ちょうど空き時間だったとのこと。川口さんに11月発売の新刊『最小文化複合施設』の束見本(製品と同仕様の印刷前見本)やゲラを見せてもらいながら、制作話を聞く。谷中の古い建物をリノベーションした複合施設HAGISOの10年をまとめた一冊で、インタビューやら建物の見取り図やら情報が満載だ。HAGISO(萩荘)の名前にちなんで、隣接するお寺の敷地に生えていた萩を使って、本のスピン(栞紐)を萩染めにしたらしい。めちゃくちゃ面白い!こういう本にまつわるストーリーは本屋としてはぜひ知っておきたい情報で、川口さんから聞いた話はこの本に興味を持たれたお客様がいたら、ぜひ伝えたいと思う。発売日が楽しみだ。
川口さんとお話ししていて、小規模出版と小規模書店という“小商い”同士が商売をして、お互い稼いでいく関係性は、版元、書店、お客様全てがハッピーになるのではないか、と強く感じる。小さな本屋で小さな出版社の本が売れて、それぞれの小さな経済が回っていくスタイル。とてもとてもいいじゃないか。
真鶴出版の雑誌「日常」などを仕入れて、おみやげに真鶴のみかんをいただいて、真鶴駅に着いたら、ちょうど沼津行の電車が来た。沼津まで28分だった。
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