舞台演出家の感性デザイン。
感性デザイン部、部長の青柳です。
感性デザインというものはなんなのかを書こうと思います。
私はもとは10年ほど舞台の脚本、演出、演者をやっておりました。
そこで培ったモノづくりの考え方が今の自分を助けてくれています。
ですので、舞台を切り口に記事を書きます。
今回は演出にフォーカスしたいと思います。
まず、舞台というものは生モノです。
ロングランの公演があったとて全く同じ作品になることはありません。
客の入り具合、客の年齢層、劇場の場所、役者のコンディション、技術スタッフのオペレーション、などなど
さまざまな要素が絡み合い、同じ作品のはずなのに笑いの量が違ったり、
時に素晴らしい芝居にもなれば、
時に滑ったりもします。
演者は「今日はハネた」「今日の客は重い」など楽屋で言い合います。
演出家は、冷静にそれを見極めます。
そして次の公演に向け、演出プランを修正するのです。
そこには演出家なりのロジックがあります。
今になって分かったのですが、私は"感性"を"デザイン"していたのだと思います。(そんなかっこいいことしてたとは当時はつゆ知らず)
では、どういう点に気をつけて作品をつくっていたのでしょう。
演出プランの練り方
ポイントはいろいろとありますが、まず視覚と聴覚に切り分けて考えてました。
私は演出プランを練る時に4色ボールペンなどを使い、視覚を青、音を緑のペンで台本に沿って心電図のようなグラフを書いていました。(赤はメモ用)
人はギャップに反応を示します。
青い線と緑の線は観客が受ける刺激の量を指すので、青と緑が一定になっていれば人は慣れていきます。
私はそれを利用し、飽きさせないロジックを組み立てていました。
遅いから早い。早いから遅い。(テンポ)
静寂からの爆音、爆音からの静寂。(音響)
低いから高い。高いから低い。(音の抑揚)
暗いからの明るい。明るいから暗い。(照明)
これらは全て、人の注意を惹く要素です。
慣れさせたところで、音なり光なり役者の掛け合いなりのギミックを入れることで、そのシーンを印象付けることができます。
舞台は生モノと先ほど書きましたが、ある種、作り手側からの一方通行のエンタテイメントでもあります。(客の笑い声などのインタラクティブ性は置いておいて)
その点で観客は受け手にならざるをえず、飽きればよそ見をするし、上の空にもなったりもします。
飽きさせないためにはまず、音、映像という情報を意図的に設計するのです。
TVを例にしましょう。
見たい番組は特にない中でのザッピング。チャンネルをいろいろ変えていると、ふと止めてしまう。
「ゆったりお話しする番組」よりも、「音の切れ間がない番組」に目が止まることが多いのではないでしょうか。
そんな番組ってどんな工夫がされてるのでしょう。
明石家さんまさんが司会をする番組を分析してみてください。
きっと音の切れ間、低いテンションの部分がなく、あるとすれば笑いが生まれる前の"間"ではないでしょうか。
張り芸というのですが、ハイテンションでテンポをつくり、ポイントで落とす。
これは「ながら見」している人に非常に有効な手法です。
なぜならば、言葉を理解せずとも楽しめるからです。
見終わって二時間くらい経って内容を思い出そうとしても、思い出せない。言葉を理解せず、音で楽しんでいたからです。
逆に"引き芸"というテンポを破壊する芸もあります。そういう人を引き立てるには、チームワークで周りがテンポをつくり出す必要があるのです。
音楽と同様です。
Aメロ、Bメロ、と流れてきたリズムが一瞬止まり、そこからサビが始まる。
同じ風土で育ったヒトが持つ感性です。
ツクリテはその感性をデザインしているのです。
視覚も同じです。
舞台の上手(客席から見て右)に視線を集中させ、下手(客席から見て左)からの演出で驚きを与える。
虚をつかれ、観客は心を掴まれます。
これはマジックなどがわかりやすいですね。ある一点に注目させ、その先のオチのためのフリをつくる。
モノやコトをつくるデザイナーには、それを意図的に設計する能力が必要です。
いまのおしごとに生かしていること
舞台や映像などであれば視覚と聴覚の感性をデザインすればいいのですが
インスタレーションなどになってくれば触覚・嗅覚・味覚などもデザインしなければいけないでしょう。
さらにユーザーは観客席に座っていてくれるのではなく、自由に動き回る。
より様々な感性に訴えかける仕掛けが必要になってきます。
ロボットやエージェントとの会話をつくるときも、ユーザーが受け取る情報量をコントロールすることを意識して体験を設計しています。
感性をデザインする。
大壮なことばに聞こえますが、ツクリテならば皆考えること。
それを体系化、言語化してデザインするのが我々のおしごとです。
感性デザイン部 部長 青柳
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