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2020年度人工知能学会全国大会(第34回)で、「恋愛心理」に関する研究成果を発表してきました

エモスタでは、大きなミッションとして、『信頼形成のために必要なコミュニケーションについて「心理学×AI」を使ってモデル化する』ことを目的に、さまざまな研究に取り組もうとしています。

先月開催された、「人工知能学会全国大会(第34回)」では、エモスタで独自に研究した成果について学会発表をしてきました。この記事では、その学会で発表した内容をお伝えします。


学会発表した研究内容

私たちは「恋人に自己開示をした時における開示者の基本感情および表情予測」というタイトルで研究結果を発表しました。今回学会発表した内容は、「恋愛心理」や「パートナーとのコミュニケーション」をテーマに研究しました。この研究に取り組み始めたのは、私たちが、パートナーとの関係について悩みを抱えている人や、恋人がほしいのにできない人に対して、その課題を解決できる方法を提示したいと思ったことがきっかけです。

学会の発表論文は、下記のURLからご覧いただけますので、ご興味があればぜひご覧ください!

以下からの内容では、学会で発表した内容を踏まえて、特に「恋愛心理に関心を持つ一般読者の方」に役立つ内容をお届けします。


「恋愛心理」を研究する意義

誰もが長い人生を生きていれば、一度は誰かに恋をして失敗した経験があるのではないでしょうか?また、恋人との関係が上手くいかず、不本意に破局した経験があるのではないでしょうか?

「恋愛」は、日常的なテーマであり、興味を持つ人が多く、また悩みの原因になるテーマであると言えます。恋愛関係は、人間の発達や精神的な健康を促進するために重要な対人関係と言われています。逆に言えば、失恋することは、人々に苦悩をもたらし、精神的な健康を損なうことになると考えられます。不本意に関係が破局しないために、また、失恋して立ち直るために、「恋愛心理学」に関する研究は貢献できると思いますが、国内の心理学研究において「恋愛心理」に関する研究は盛んに行われているとは言えないのが現状です。

国内において「恋愛心理」に関する実証的な研究があまり行われていない一方で、世の中には、いわゆる根拠のない「恋愛テクニック」と呼ばれる情報がたくさん飛び交っています。このような情報はエビデンスが曖昧で、鵜呑みにすると恋愛に失敗したり、異性関係でのトラブルを引き起こしたりする可能性を高めます。恋愛心理に関する情報がネット上で溢れているのは、「恋愛」に関心を持つ人が多く、悩みが尽きないことを意味していると推察することができます。こうした社会の状況において、恋愛心理について実証的に研究を行うことは、恋愛に悩む人の手助けになり、当人が理想の恋愛をするために貢献できると考えられます。


恋愛関係には「ソーシャルスキル」が必要

恋愛関係には、「親密性」と「任意性」が高いという特徴があると言われています。「親密性」は互いの関係が親しいことを、「任意性」は互いの意思によって関係が展開されることを意味します。このような特徴があることから、恋愛関係は自らの意思で形成したり発展させたりしなければいけません。そのためには、「ソーシャルスキル」が必要であると言えるでしょう。

恋愛心理学の研究では、「ソーシャルスキル・トレーニング」という方法を用いて、異性関係におけるコミュニケーションの取り方がトレーニングされています。そのトレーニングによって,恋愛スキルを身につけ、異性との付き合い方を改善できることが明らかになっています。

そこでエモスタの研究では、ソーシャルスキルの立場から、恋愛関係においてどのようなスキルを駆使すれば、恋人との関係を円滑にできるのかについて考えてみました。


自己開示に関する「社会的浸透理論」について

自己開示とは、「特定の他者に対して,自分自身に関する本当の情報を言語的に伝達する行動」です。自己開示には感情表出や親密化の調整などの機能があり、自己開示を適切に行えば,精神的な健康を促進させると考えられています。

自己開示に関する理論として、「社会的浸透理論」という理論があります。この理論では、二者関係が初対面同士から次第に親密になるにつれて、互いに交換される自己開示の「量」と「質」が増えることを次のように説明しています。自己開示する人(以下「開示者」と表記)は、自己開示された人(以下「被開示者」と表記)に対して自己開示を適切に行うと、開示者地震の重要な個人情報を被開示者に伝えることになり、被開示者は信用されていると認識します。その結果、被開示者も開示者に対して自己開示を行うようになるというメカニズムです。社会的浸透理論に基づくと、人間は、互いの自己開示のやりとりを通して、他者と親密になり信頼関係を形成していくと考えられます。

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「社会的浸透理論」の考え方は、恋愛関係においてもあてはまると考えられるため、エモスタの研究では、「自己開示」を恋愛関係で用いるソーシャルスキル(=恋愛スキル)の要素として位置づけ、人が恋人に対してどのような内容を自己開示しているのかを調べました。調査結果をもとに、自己開示の内容と基本感情との関連を検討し、開示者の表情を予測しました。このような研究を行った理由は、恋人への自己開示の内容から,開示者の基本感情と表情が予測できれば,恋人と親密になるためにどのように自己開示をすれば効果的なのかを言語的かつ非言語的に知ることができるからです。また、開示者の感情状態を理解することにもつながります。研究で得た示唆は恋人への自己開示に悩んでいる人への解決策として有益な情報になると考えられます。


【恋人への自己開示内容】(エモスタ独自の調査結果)

エモスタで実施した調査では、恋人への自己開示内容を測定しました。その内容を分析した結果、恋人への自己開示内容は以下の6つのグループに分けて解釈できることが示されたのです。

グループ①:性に関する話題
 グループ①では「性的経験」「初めての性経験」「性的関心について」といった計13個の項目が含まれていました。

グループ②:ゆううつな出来事に関する話題
 グループ②では「最近のつらかったこと」「最近,落ち込んだこと」「最近,悲しかったこと」といった計10個の項目が含まれていました。

グループ③:将来目標に関する話題
 
グループ③では「将来の目標」「あなたが持っている夢」「現在持っている目標」といった計14個の項目が含まれていました。

グループ④:充実した生活に関する話題
 グループ④では「最近,面白かったこと」「最近,楽しかったこと」「最近,嬉しかったこと」といった計12個の項目が含まれていました。

グループ⑤:自分の欠点に関する話題
 グループ⑤では「あなたの嫌いなところ」「あなたの短所」「あなたのダメなところ」といった計6個の項目が含まれていました。

グループ⑥:他者への愚痴に関する話題
 グループ⑥では「友人に対する愚痴」「友人に対する不満」「職場の人に対する愚痴」といった計6個の項目が含まれていました。

以上の、恋人への自己開示内容に関する6グループ(6因子とも言う)と開示した時の基本感情との相関関係を検討してみました。その結果が以下のものです。

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恋人にどんな自己開示をするかによって、基本感情の生起状態が異なる可能性があることが示されました。「性に関する話題」は、悲しみの感情があまり生起せず、驚きや恐怖とといった感情を表情で示すと考えられます。「ゆううつな出来事に関する話題」は、驚きの感情があまり生起せず、怒りや恐怖といった感情を表情で示すと考えられます。「将来目標に関する話題」は、悲しみの感情があまり生起せず、喜びや嫌悪といった感情を表情で示すと考えられます。「充実した生活に関する話題」は、悲しみや恐怖の感情があまり生起せず、喜びの感情を表情で示すと考えられます。「自分の欠点に関する話題」は、喜びや驚きといった感情があまり生起せず、嫌悪や怒りといった感情を表情で示すと考えられます。「他者への愚痴に関する話題」は、恐怖や驚きといった感情があまり生起せず、嫌悪や怒りといった感情を表情で示すと考えられます。

以上の結果から、開示者の表情を予測したものが以下の図になります(表情生成の精度を高めていく必要性がありそうです...笑)。表情予測の結果は、開示者がどのような感情状態で自己開示しているのかを理解することにつながると思います。

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本研究では、開示者が恋人にどんな自己開示をする時に、どんな感情状態を表情で開示しているのかという示唆を得ることができました。本研究の知見は、恋人に対して自己開示する時の表情トレーニングに活かすための予備調査になると考えられます。


エモスタの事業

エモスタの事業に興味や関心を持っていただけた方は、ホームページをご覧ください!互いの研究領域を生かして、世の中の課題を解決する仲間を募集しております。

記事執筆者:エモスタ・研究開発パートナー 酒井智弘


参考文献

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相羽 美幸 (2009). 日本の雑誌・ホームページにおける恋愛スキルに関わる記述の内容分析 読書科学, 52, 38-48.

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