素敵な商品のニッチな使い方
「今ね、単体で素敵な商品を組み合わせて、思いもよらないような使い方を研究してるのよ。」
午前10時半、テーブルに紅茶とお茶菓子を前にして、いつものように唐突にショウコさんは話し始めた。
せい子さんは、はい。と軽く相槌を打ってその先を静かに促す。
「単体で素敵な商品とは、まず見た目が美しいこと。機能的なこと。雑誌なんかでよく取り上げられてそうなもの。ね。
それで、あんまり人は使わないような使い方を研究してるの。」
まあ、研究と言っても単に思いつくに任せてるだけなんだけど。とショウコさんは言った。
「それで、思いついたものとはどのような?」
せい子さんは、なんだかリアクションに困りそうだなと思いながら聞いた。
「まず、使用するのはアクアドロップのふろしきとラバーゼのプレートです。」
これです!っと言ってショウコさんは、エメラルドグリーンの風呂敷とステンレス製のお盆のようなものを持ってきた。
この2つを組み合わせて何かに使用するようだ。
「この風呂敷、撥水加工がされてて便利なの。濡れても平気だし、何より丈夫だからショッピングバックに大活躍。畳めば少し厚みのあるハンカチってくらいだし、普段バックに入れておきやすいの。
そして、このプレート。これは同じラバーゼのキッチンボウルの蓋として使えるんだけど、私は切った野菜とかお肉とかの仮置きにも使ってる。ホットプレートものの料理の時とか食材を置いておくのに丁度いいの。」
「はぁ。風呂敷もプレートもそれぞれでかなり用途がありそうですね。」
せい子さんはどちらも持っていなかったが、撥水加工された風呂敷もキッチンボウルの蓋も、本や雑誌で何度か見かけたことはあった。
ショウコさんは、広げた風呂敷の中央にステンレスのプレートを置き、布の四隅をつまんで一手に掴んで持ち上げた。
底面の安定した巾着のような感じだ。
「このプレートの所に、食べ物を置いてこっそり運ぶことができるのです!」
どう?とショウコさんが得意げに言った。
せい子さんはしばらく考えたフリをして聞いた。
「なるほど・・・。でも私は今まで生きてきて、食べ物を隠して運ぶシュチュエーションがなかったのですが。一体どういう?」
せい子さんが聞くと、よくぞ聞いてくれました!とショウコさんが答えた。
「私ね、朝はきちんと決まった時間に食事をする方なんだけど、お昼ごはんがどうも遅くなったりするのよ。ドラマをエンドレスでついつい見続けてたら、あっという間に時間が過ぎて、ただいま〜って子ども達が帰ってきちゃって。そして友達なんかが遊びに来ちゃうの。
そこでふと、お腹が空いてる事に気づいて、しかもどーしてもドデカイカップラーメンが食べたくなるの。
でもね、子供とお友達はリビングで遊んでて、ダイニングでラーメン食べるの抵抗あるじゃない?」
ショウコさんはふぅ〜っとため息をついて続けた。
「私普段、割と外ではスッとしたママを演じてるのに、あ、こんな時間に中高生男子が間食してそうなガッツリラーメン食べてるんだ。ってお友達に思われたくないじゃない。」
「まぁ、あんまりかっこいいものじゃないですね。」
学校が終わって小学生が遊びにくる時間帯に、どうしてもドデカイラーメンじゃないとだめなのだろうかと思いながら、せい子さんはうなずいた。
「そんなにっちもさっちもいかない時に、この組み合わせアイテムの登場です!このプレートに湯を入れたラーメンを置いて、風呂敷で覆って運べばいいのです。さり気なくぶら下げて二階に上がり、寝室で食べることができるのです!どう?」
「・・・なるほど。確かにそれならバレずに持ち運べそうですけど。」
ラーメンの匂いまでシャットアウトしてくれるのだろうか。そしてまあまあ慎重に運ばなければならないのでは。
「でしょ?実際誰にも気づかれなかったの。そしてね、この撥水加工の風呂敷を床に広げることによって、汚れ防止にもなるでしょ。
ピクニックシートみたいになるしね。」
せい子さんは、ショウコさんがカップラーメンをこの風呂敷に包んで2階にコソコソと持って上がり、寝室の床に座り込んでカップラーメンを食べている光景を想像した。
「考えてみたんですけど。意外と楽しそうです。」
そうでしょー!うちの中でコソコソってなんか楽しいのよ〜。とショウコさんは嬉しそうに言った。
確かにとてもニッチな使い方だと、せい子さんは思った。