夜の死刑執行人

1793年1月20日付け。
処刑人ムッシュ・ド・パリことシャルル・アンリ・サンソンから、県検察部長代理宛てに提出された書類が残っています。
「ご用命、承り候」で始まる文面は、翌日に行われる国王ルイ16世の処刑の手順についての問い合わせで。
国王の処刑という大事を前にして、百戦錬磨の首斬り人も、さすがに神経質になっていた様子が伺われます。
その内容は。
ルイがどういう状態でタンプル塔を出発するのか。
国王用の馬車か。
処刑囚用の普通の馬車なのか。
処刑後に死体はどのように処置するのか。
自分と助手たちは8時にタンプル塔に行く必要があるか。
もし同行のためにタンプルに行く必要がなければ、何時にどこで待機すればいいのか。
・・・・と、かなり細かい問い合わせで。
「至急、ご教示頂きたく」と結んだ署名は「革命裁判執行官、市民サンソン」となっています。
当然、実務としては、前もって知っておくべきことばかりではありますが、上役が見逃しがちな事項でもあり。
滞りなく行われたルイ16世の処刑には、こうしたプロフェッショナルな準備があったことが分かるのと同時に。
サンソンの役人としての優れた資質、生真面目さをも垣間見え、なかなか興味深い書類です。

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