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世界のはたらきかたの歴史をひもとく『日本社会のしくみ~日本を支配する社会の慣習』を読む②

1.様々な国の働き方の歴史

日本社会を取り巻く暗黙のルールを紐解いて日本社会の問題点を明らかにする小熊英二『日本社会のしくみ』。

前回は日本の働き方や教育を通し「日本人の生き方」をあらわにしました。(→①はこちら)それぞれの社会には、それぞれの歴史的に作られた慣行があります。それは働き方や教育の在り方や社会保障などの根底にあるものです。

①ヨーロッパ型横割り社会

ドイツやイギリスを中心にしたヨーロッパ地域では、封建制度の頃から職種ごとに組合が作られていました。機械工の組合、経理職の組合…など。各地の職人組合は企業や地域をまたいで連携していました。現在でも各組合は企業を横断してそれぞれの職種を組織しています。すると企業はさまざまな職種の人が集まって共同作業をしている、という感じになります。そうなれば、「〇〇会社の人」というアイデンティティを持たず「〇〇職種の人」というアイデンティティを持つようになります。人々は基本的にそれぞれの組合に所属し、一定の経験を積むと資格を発行するので、それをもってキャリアアップしていく、というシステムになっていました。近代になり、新たな職業が生まれたら新たな組合が生まれました。賃金は会社の大きさで決まるのではなく、主に職種で決ままっていました。職人組合の人が上級職になると幹部として別の組合に加入することになります。人々は「転職」をするのではなく「転社」を流動的にしていくことになります。

②アメリカ型職務(ジョブ)の平等

アメリカでは中世的封建制度がなかったので、1910年代に「同一労働同一賃金」運動が起こりました。それまでは、人事権を持った上司が給与や待遇を決めていたため、ひいきや、不正がはびこっていたためです。当初は「平等」に消極的だった企業や職人も第一次、第二次の世界大戦で、生産工程の合理化の必要性や、労働者の囲い込みの必要性から発言力が高まることにより、職務保有権(ジョブテニュア)という概念が根付きました。これは、雇用主の気まぐれで解雇されない権利で、こういった権利が守られることにより、労働者は長期勤続するようになりました。また1970年代には差別禁止から「性別、人種、性格」などの査定ができなくなり査定の透明性が担保されるようになりました。

こうした差別撤廃の歴史アメリカにおける学歴重視とも関係しています。つまり、性差や人種、見た目や人柄による選別ができないアメリカでは、学位、証明書が一番有効な選別手段になったのです。ですから今アメリカでは職業系大学院に進学してからでないと上級職には就けないようなしくみが出来ています。実際様々な専門職の大学院があり、教育プログラム、学位があり、その内容を担保する専門職業団体もできました。こういった職種別組織はドイツやイギリスにもできるようになりました。

このようにして出来上がった慣行は、雇用主の気まぐれで運命を左右されない情況を作り、差別を撤廃し、職業集団の地位向上をさせることになり、結果として会社を移動しやすくなりました。

③日本の働き方との比較

日本には企業を超えた職務の市場価値、企業を超えて通用する資格や学位、企業を超えた職業組織や産業別組合がありません。企業を超えた基準がないから、企業を超えた流動性が生まれません。結果として労働市場が非正規と新卒時が中心になりました。これが日本型雇用の特徴になるのです。

日本型雇用=終身雇用というイメージが持たれがちですが、日本で終身雇用的考え方が広まったのは、第二次世界大戦後の高度成長期でした。20世紀初頭が日本でも「渡り職人」と言われる、熟練職人が多くいました。大企業は熟練した職人を囲い込むために、定期昇給がある年功型賃金制度を導入したのです。また戦争のための生産増強策として、各社ばらばらだった初任給や最低賃金の制度が導入され、年に一度の昇給も政府指導のもと行われました。

次に日本型雇用の歴史を見ていきます。


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