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忖度・同調圧力にとらわれているわけを知る『空気の研究』を解説します④最終回:社会を動かす原理と構造

「空気」とそれをめぐる「水」について考えてきました。「空気」は絶対的な力を持つ「判断基準」(①空気の定義)であり「空気」が作られる原理原則(②空気から逃れる方法)を理解しそして水を差さなければならない(③水を差す)ということを学んできました。

1.虚構の支配

最後に日本社会を動かす見えない原理と構造について著者の山本七平は、こう述べました。

結局のところ、「空気」も「水」もどちらも日本人を拘束するための構造。つまり、支配の装置です。日本に流れる「空気」は一体なんだろうか、と考えたとき、答えは「虚構の世界」「虚構の中に真実を求める社会」であり、それが体制となった「虚構の支配機構」だということだ。

日本社会をひとつの舞台と例えて考えます。舞台は周囲を完全に遮断することで成立する一つの世界、一つの情況倫理の場の設定です。その設定のもとに人々は演技します。そしてそれが演技であることを舞台にたつ人、観客とのあいだで隠されています。舞台において女形を「男性だ」といって問題視するひとはいません。これで情況倫理とその対象を臨在的に把握している観客との間で「空気」を醸成して全体拘束主義的に人々を別世界に移すというその世界が人々に影響を与え、そのひとたちを動かす力になるのです。

舞台の場だけではなく、実生活上でわたしたちはこういった「状況倫理」を作って「空気」を醸成した社会をむしろ維持しようと積極的に参加しているというのが実情で、この構造を著者は「虚構」だといいました。情報は演劇(生活)に支障のないようにように改変され、社会は拘束されています。各集団がそれぞれの利益を守るために都合の悪い真実は隠しあい日本全部で一体化したことから、戦争は始まりました。この体制が徹底的に排除していくものは何でしょう。「自由」と「個人」です。自由に舞台を壊されてしまっては、社会は成り立たないのです。個人主義では舞台で演技はできません。この秩序の中にわたしたちは安住してしまいました。そうすると、自由な発想も、方向転換も不可能になってしまい、自分で自分が止められなくなる状態に陥ってしまうのです。

そして、破綻した暁には「われわれには新しい歴史が始まる」といい、なにかというと過去と断絶し、常に新しい瓶に古い酒を入れる「総無責任状態」になってしまうのでした。

2.「空気」の解放

著者は「空気」から自由になる方法について、このように示唆しました。

①物事は相対化して考えること。

②情況倫理を破壊すること。

③自由な思考をすること。

④倫理観を持つこと。


「空気」が醸成された社会において、なんのための「空気」なのか誰のための「空気」なのか考えることが必要です。A=Bなのか、本当に現状はこれが正しいのか、ほかの選択肢もあるのでは?など、正しいと信じたことがあとの歴史で覆るのはよくあることです。

「空気」が醸成され、同調圧力が生まれ、反対者が排除されるためには閉鎖的な情況倫理が不可欠です。そのためには、閉鎖された環境から外に出ることが必要です。外の空気を入れること、もしくは自ら外に出かけてみることが必要です。あらゆる情況には外側があることを認識し、理解する必要があるのです。

「空気」の醸成された社会には「自由」がない、と著者は書きました。「空気拘束的通常性」の中には自由を置く場所がありません。しかし、新しく何かを生み出すものはあらゆる拘束を断ち切った「自由」しかないのです。わたしたちは自らの意思で「空気拘束」を断ち切り、「思考の自由」とそれともなう模索をしなければなりません。そのためには、自分を拘束しているものが何なのか、それを徹底的に研究することが大切です。

そして最も譲れない原点(倫理観)をもとに現状の拘束に対抗しなければなりません。著者は「根本主義(ファンダメンタル)」というキーワードで説明しています。著者は理想を守ろうとする情熱が変革の原動力になる、と書いています。理想は原点です。原点は活力です。未来を自らの視点で読み解くことです。わたしたちはみな独自の存在で、知性を取り戻して倫理観を持つことが大切です。(了)

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