転生

僕は盗みを働いて、利益を稼ぐ悪人。ただのペテン師ってやつだ。
時には金を奪ったし、時には人を騙した。昔から僕には居場所がなかったのだ。

ある時、僕には知り合いができた。とても細身で華奢な女性だった。当時の僕は周りが見えず、その女性に執拗に縋っていた。

私には女々しい悪魔が縋りついている。何かあれば泣きついてきて、私の意見を仰ぐ。嫌ではないが、あまり良くも思っていない。

私は才能を買われ、東京の大企業に就職した。しかし、その大企業はとある詐欺師に騙され、私は新卒で仕事を失うことになった。そんな時に出会ったのがあの悪魔なのだ。

ある時、悪魔は死んだ。トラックに轢かれそうになった私を突き放して、悪魔は死んだ。本当に馬鹿なやつだ。私はお前のことを1度も愛さなかった。でも不思議と嫌ではなかった。それだけは覚えている。

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三年経った今でも、あのバカが死んだ時のことはよく思い出す。暴走したトラックが歩道に乗り上げて、私のいた歩道に突っ込んできたところを、待ち合わせしていたあのバカに助けられて、あのバカは死んだ。

あのバカ、調べてみたら私の仕事を奪った張本人らしい。死んでくれてよかった。
私はあいつに全てを奪われた。仕事も財産も。そして何よりも、あいつが見せてくれた笑顔も泣き顔も。後から人間は気付くらしい。私はあのバカのことが大好きだったみたいだ。

お前のいない世界は実につまらない世界だよ。くだらなくてもいい。お前が私にしたことなんてほんとはどうでもいい。でもそれは、お前が生きてたらの話だ。お前が生きて、私が死んでいれば違ったのかもしれない。
でも思ってしまったのだ。お前が死んだとき、死んだのが私じゃなくてよかった、と。だから私は死んで詫びることにした。

今から、お前に会いに行くからな。

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心臓を歩く音がする。実に気味の悪い道だ。僕は大好きな人の体内に入った。


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