【004】南半球を代表するの複数国ラグビープロリーグ ~Super Rugby~
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これまで、フランスTop14、Pro14と触れて来ましたが、今回は南半球を中心としたラグビーの大会であるSuper Rugbyについて調べ、そこから日本ラグビーの未来に関する考察をしてみようと思います。
南半球のスポーツ人気
Super Rugbyには、2020年時点でオーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ、アルゼンチン、そして日本のチームが参戦していますが、日本を除く各国のスポーツ人気について見ていきましょう。
まずはオーストラリア。オーストラリアではコンタクトスポーツ系を中心とした球技の人気が高いようです。人気の高い順番に並べていくと、オーストラリアンフットボール、ラグビー(リーグ)、サッカー、クリケット、ラグビー(ユニオン)の順になっています。(*1) なお、日本でもおなじみのラグビーはラグビー(ユニオン)です。こうして見ると、オーストラリアの人々にとってはラグビー(ユニオン)は5番目に人気のスポーツだということがわかります。ちなみに、日本で5番目に人気のスポーツはプロゴルフです。(*2) 私たちがゴルフの番組を見る感覚でオーストラリア人はラグビー(ユニオン)を観戦しているとイメージするとわかりやすいですね。
次にニュージーランドです。ニュージーランドではラグビー(ユニオン)が最も人気があり、競技人口も他のスポーツと比較して多い状況です。クリケットやゴルフ、ネットボールがそれに続いています。(*3) 筆者もニュージーランドを旅したことがありますが、日本中のどこに行っても野球のグラウンドを見つけるのと同じ感覚で、どんなに田舎の街にも必ずラグビー場があり週末は老若男女がラグビー場に集っている風景を目の当たりにしました。
そして、2019年ラグビーW杯の優勝国である南アフリカです。南アフリカのラグビーといえば、2009年に映画として公開された「インビクタス/負けざる者たち」を連想する方も多いかもしれません。南アフリカでは、一般的にサッカーが有色人種の間で、ラグビー(ユニオン)が白色人種の間で人気が高いスポーツとして知られています。(*4) ただ、2019年ラグビーW杯でも有色人種の選手が何名も活躍していたように、人種の壁はどんどん低くなっているようです。
最後にアルゼンチンです。アルゼンチンでは、サッカーが群を抜いた人気を誇っておりメディアでも常時サッカーが話題に挙がるようですが、その次に来るのがテニスとラグビー(ユニオン)です。(*5) 日本でいうサッカー日本代表のように、アルゼンチン代表のラグビーの試合がある際にはメディアでも取り上げられる機会が非常に多く、人々の注目を集めています。
ラグビー(ユニオン)とラグビー(リーグ)の違い
ここで、改めてラグビーのユニオンとリーグの違いを見ていきましょう。この違いの起源は19世紀の英国に遡ります。元々はフットボールとして英国で誕生した球技がサッカーとラグビーとに分かれた後、ラグビーは英国全土に普及していきました。ラグビーの試合に出場する選手は皆仕事を持つアマチュア選手で、土曜日に開催される試合に出場する形式を採っていたのですが、比較的裕福な労働者は週5日労働で休暇となる土曜日に試合に出場できたのに対し、金銭的余裕の無い労働者は週6日労働が一般的だったため仕事を休んで金銭的補償のない状態で土曜日の試合に出場していました。この状況に端を発し、ユニオンは中流階級を中心に、リーグは貧困層を中心に普及拡大していきました(*6)。特徴として、ユニオンは15人制でアマチュアリズムを重視し身体接触が多いのに対し、リーグは13人制でユニオンと比較して身体接触が少なく、大衆向けのエンターテインメント色を重視していてユニオンよりも早くプロ化した、といった点が挙げられます。
オーストラリア・ニュージーランドと南アフリカのラグビーの現状
オーストラリアにおいては、オーストラリアンフットボールのプロリーグ(A League)やラグビー(リーグ)と比較して、ラグビー(ユニオン)は苦戦しているのが現状です。観客動員数ベースで見てオーストラリアンフットボールが283万人/年、ラグビーリーグが156万人/年の観客動員数であるのに対し、ラグビー・ユニオンは58万人/年に留まっています。(*7) ラグビー(ユニオン)は他のコンタクトスポーツ系球技の中でも後塵を拝している状況です。
対して、ニュージーランドではラグビー(ユニオン)が活況です。競技人口で比較しても、ニュージーランドではラグビー(リーグ)の競技人口の3倍弱がラグビー(ユニオン)をプレイしています。ラグビー(ユニオン)が最も人気のあるスポーツであり、スポーツといえばラグビー(ユニオン)という立ち位置を占めていることが伺えます。(*7) ニュージーランドのフラッグキャリアであるニュージーランド航空が、ラグビー(ユニオン)ニュージーランド代表のオールブラックスの スポンサー契約を務めてきたことからも、国民にとってラグビー(ユニオン)の存在が大きいことを表しています。
南アフリカにおいては、ラグビー(ユニオン)が南アフリカオリンピック委員会に認知されている反面ラグビー(リーグ)は同委員会に認知されておらず、構造的にユニオンがリーグを上回るポジショニングに位置している形になっています。昨今はラグビー(リーグ)が国内でのプレゼンスを高めてきています。(*8)
なお、アルゼンチンと日本においては、ラグビーといえばユニオンという前提で広く認知されています。
Super Rugbyの成立ちと概要
前置きが長くなりましたが、ここからSuper Rugbyの成り立ちを見ていきたいと思います。
Super Rugbyは前身となる大会の歴史も含めると25年の歴史があります。オーストラリアで人気の高かったラグビー(リーグ)に対抗すべく、オーストラリアの2州、ニュージーランドの3州、フィジーの各地域/国代表のチーム間で南太平洋チャンピオンシップと冠して1986年に始まった大会がSuper Rugbyの前身で、1995年のラグビー(ユニオン)プロ化解禁を契機に大会名をSuper12に一新したのがその始まりです。1995年以降、競技力強化を目的に南アフリカのチームが参入しフィジーが大会から離脱したため、しばらくはオーストラリア、ニュージーランド、南アフリカの3ヶ国のチームが参戦する大会になっていました。2016年シーズンからはアルゼンチンと日本からもチームが参入しました。チーム数の変遷やチームの入替りはあるものの、2020年時点では、オーストラリア4チーム、ニュージーランド5チーム、南アフリカ4チーム、アルゼンチン1チーム、日本1チームの計15チームとなっています。レギュラーシーズンは16試合/チームで、合計120試合が開催されます。オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ、の各カンファレンスに5チームずつが所属し、カンファレンス内でホーム&アウェイの総当たり対戦(8試合/チーム)と、カンファレンス外のチームとはホームorアウェイで対戦(8試合/チーム)する形です。決勝トーナメントには、①各カンファレンス首位(計3チーム)②首位チームを除いた最高勝点チーム(1チーム)③先述の4チームを除いた勝点が多いチーム(計4チーム)で開催されます。なお、日本の1チーム(ヒトコミュニケーションズサンウルブズ)は2020年シーズンを最後にSuper Rugbyから退くため、2021年からは14チームの大会になります。(*9)
Super Rugbyの運営
Super Rugbyの事業運営母体は、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ、アルゼンチンのラグビー(ユニオン)協会による合同事業体であるNPOのSANZAARで、2011年に設立されました。NPOのため株主は存在せず、またNPOそのものにスポンサーがつくことはなく、大会とチームにつくことになります。SANZAARのExecutive Committeeは、日本を除く各国協会職員2名ずつと実務部隊であるManagement TeamのCEOであるAndy Marinosの計9名で構成されています。SANZAARのオフィスはオーストラリアのシドニーに居を構えています。(*9)
収益規模とスポンサーシップ
Super Rugbyの収益に目を転じていきます。Super Rugby及び所属する各チームの収益規模は公開されておらず、残念ながら詳細の財務状況はわかりません。断片情報ですが、Deloitteが2016年に発行したレポート(*10)によると、2015年時点ではスーパーラグビーに参戦しているニュージーランドのチームは、1チームあたり4億米ドル/年の収益があるとされています。単純計算をすれば、Super Rugby全体で60億米ドル/年の収益があるとも見えますが、これはラグビー(ユニオン)が最も人気のニュージーランドでの数値です。ニュージーランドは黒字、他国は赤字という噂が多く聞こえてくることに鑑みても、他の国ではこの数値を下回っている可能性が高いといえるでしょう。また、南アフリカではPro14とSuper Rugbyとに所属するチームが分散していることもあり、結果的にSuper Rugbyとそこに所属するチームがラグビー(ユニオン)の人気を活用した収益獲得に至っていないことも推測されます。
スポンサーシップに関連した話題では、1995年のSuper12開始時にNews Corp社と10年5.5億米ドルで英国、オーストラリア、ニュージーランド向けの放映権契約が締結されています。また、2006年にはSuperSport社が南アフリカの放映権を締結し、06-10年の放映権は5年で3.2億米ドルになり、Super Rugbyが世界中の視聴者に届く環境が整いました。(*11)また、大会のスポンサーは国ごとに設定できるため、国ごとに大会の呼び名が少し変わるのも面白い点です。ちなみに、オーストラリアはVodafone(通信)、ニュージーランドはInvestec(金融)、南アフリカはVodacom(通信)、アルゼンチンはPersonal(通信会社Telecomの携帯電話ブランド)、日本は三菱地所がそれぞれスポンサーについています。 反面、大会の運営費も高騰してきており、2018年時点ではチームがSuper Rugbyに参加し続ける限り約1.2億米ドル/年のコストかかるとも言われていて、チーム運営に必要な多額な資金が経営を圧迫しているのではという声も挙がっています。(*12)また、2020年シーズンをもってSuper Rugbyから退くことになったサンウルブズは、2021年以降もSuper Rugbyに所属し続ける場合には10億円の支払いを求められていたとの情報もあり、2010年代後半に入ると資金面での不透明性が問題視される場面もありました。(*13)
観客動員数
この表は、2010年以降のSuper Rugbyの平均観客動員数を示したものです。オーストラリアでの観客動員数は20,000人程度で推移していた2010年頃と比較して2018年には半分近くの10,000人強に減少しています。それに連動してSuper Rugby全体の平均観客動員数が下落してきているのがわかります。反面、ニュージーランドの平均観客動員数は変遷はあるものの15,000人弱前後で推移しています。こうした状況を踏まえ、オーストラリアメディアはオーストラリアにおけるSuper Rugbyの人気低迷を問題視しています。(*14)
参考として、オーストラリアで人気のA Leagueは10年近く11,000人程度で推移しています。(*15)また、ラグビー(ユニオン)のライバルとなるラグビー(リーグ)は、A Leagueと同様に10年近く16,000人程度で推移しています。(*16)A League、ラグビー(リーグ)ともに会場への観客動員数は一定に保ちつつ、SNSを活用したメディア露出などを活用しており、収益の軸を多様化してきている印象があります。これもプロ化後の歴史が長く、スポーツマーケットでの経験値が成せるA Leagueとラグビー(リーグ)だからこそ成しえた技なのかもしれません。
Super Leagueは2011年にSANZAARが運営事業者として就任以降、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ、アルゼンチン、日本と5ヶ国に跨り大会を展開し、運営団体として浮沈を経験する中で、安定的な収益構造の構築に苦戦しているといえます。束ね揚げるのが難しい複数国に跨る大会だからこそ、人気の高さが違うとは言えど、高い集客数を維持出来ているニュージーランドの取り組みを各国で共有するなど、歯車が噛合いシナジーが生み出せた時には観客を魅了するものにできるのではないでしょうか。
日本のラグビーへの提言
アマチュアリズムから一歩踏み出し、複数国に跨るラグビー(ユニオン)リーグを展開してきたSANZAARから日本の新ラグビーリーグが学ぶものは多いと思います。具体的には、A League、ラグビー(リーグ)というライバル競技がプレゼンスを示す中で試行錯誤を繰り返すオーストラリアにおけるSuper Rugbyの取組みについては、成功・失敗とその結果に至るプロセスを含めてラーニングをする価値があると考えています。特に、日本に留まらずアジアで一帯となって大会を展開する構想があるようですが、SANZAARが5ヶ国で展開しうまくいった放映権の部分と、苦戦している集客の部分に関する課題を洗い出し、日本らしい方法でソリューションを提供することができれば、世界のラグビー界に新たな風を吹き込むこともできるのではないでしょうか。
引用
(*1) http://blog.aus-ryugaku.com/popular-sports-in-australia/
(*2) https://www.crs.or.jp/data/pdf/sports19.pdf
(*3) https://newzealand-ryugaku.com/life/nzsports/
(*4) https://www.za.emb-japan.go.jp/itpr_ja/aboutSA.html
(*5) https://www.quora.com/How-popular-is-rugby-in-Argentina
(*6) http://thsports.blog.fc2.com/blog-entry-119.html
(*7) https://en.wikipedia.org/wiki/Comparison_of_rugby_league_and_rugby_union#cite_note-autogenerated1-59
(*8) https://www.theroar.com.au/2016/05/02/south-africa-afraid-rugby-league/
(*9) https://super.rugby/about-sanzar/
(*10) https://www2.deloitte.com/content/dam/Deloitte/nz/Documents/consumer-business/nz-en-2016-state-of-the-unions-report-upload.pdf
(*11) https://en.wikipedia.org/wiki/Super_Rugby
(*12) https://www.rnz.co.nz/national/programmes/morningreport/audio/2018664150/pacific-super-rugby-team-would-cost-18m-a-year
(*13) https://rugby-rp.com/2019/03/23/abroad/33596
(*14) https://www.austadiums.com/sport/crowd_records.php
(*15) https://afltables.com/rl/crowds/summary.html
(*16) http://www.ultimatealeague.com/records.php?type=att&season=2018-19