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タイセツさん

同じ顔の人はひとりとしていないだろうが「系統」はある。
バタ臭いとかしょうゆっぽいとかが子供の頃に新鮮な分類フラグに思えた80年代に幼少を過ごしたワタクシ。

電車の昇降時は顔を上げていないと危険なので前を見ているとヒトの顔をしっかり視界に入れてしまうことがある。
最近よく「タイセツ」さん系統のお顔をお見かけする。最も、このカテゴリ名が成立するのは2人くらいで、彼らとも疎遠になってしまったが。

「タイセツ」さんは、私が社会人となって初めての上司である。きっと2、3歳上で、小さな映像制作会社の社長の息子なのだが、2世と思われるのを懸案してか、Yという社長と違う姓を名乗っていた。名前が大雪でタイセツさん。小柄でクッキリ星飛雄馬系の濃い顔で、ややなにかと毛髪や輪郭が後退した社長とはすぐに親子とは思えなかったけど、やっぱ似てたな。

タイセツさんは礼儀正しく且つ無愛想な人。2人きりで行う仕事が多かったので、霞のような共通項を繋ぎ合わせ、徐々には我々なりに打ち解けていったつもりである。911の第一報は彼と社用車で聞くラジオで知った。それは、後から聞いたが、先輩とはいえ彼も異業種からの転職で映像業界もまだ勉強中で、どういうふうに私に接したらいいかわからなかいオーラだけはしっかり伝わっていた。
彼を窮屈にしていたのは既に公然の秘密化していた『Y』という偽名だと思う。父親である社長も、母親である経理のSさんも(彼女は旧姓を名乗っていた)、家族臭を押し殺してそれぞれの名前を呼びかけ合う感じが、却って匂いをキツくして、茶番に尽きた。
私は2年も経たずにその職場を離れてしまうのだが、彼も実は転職を目論んでいて、私に先を越された!と悔しがっていたらしい。もう彼の子供も成人している頃だ。元気でいるのだろうか。

記憶や思い出が否応に思い出されるトリガー。
決して楽しくもなかったはずだけど、面白かった瑣末なエピソードも多少の無意識の脚色と共に妙に懐かしさが込み上げてくるのは、時間のマジックなのだろうか。

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