不倫のきっかけ
私の不倫のきっかけは、元をたどれば相手からLINEを聞かれたことだ。
7月のある日。
パートの仕事を終えた私は、同じ職場の男の人とたまたま二人で歩いた。はじめは三人いて、一人がトイレに寄って二人になったのだった。
その人について知っているのは名字だけ。年齢もも結婚しているかも知らない。彼も私が結婚しているか知らなかったと思う。といっても、私の見た目は主婦そのものなのだけれど。
仕事中に連絡事項を話したことがあるが、長めの会話をしたのもその時が初めてだった。
話の内容は、私が仕事で上司に怒られた話。彼は私よりも上司と親しいので「あの人はストレートだから」とフォローしてくれた。
怒られたことは誰にも言ってなかったのに、なぜか彼には話してしまった。ちゃんと話を聞いてくれる人だな、と思った。
そこまで深刻な話でもなかったし、すぐそこの交差点で別れるつもりでいた。完全に油断していた。
赤信号で私は立ちどまり、そのまま歩き去ると思っていた彼もなぜかとまって「LINE交換しときますか」と言った。
かなり驚いたけれど、それでも「また会った時に話せるから」とやんわり断った。
それなのに、彼は「ぜんぜん一緒にならないから」と言う。その前には、周到なことに、私がいつ仕事に来るかを聞かれていた。
そうなると、もう断りの言葉が浮かばなくて、私はQRコードを読み取っていた。
そして彼と別れて歩いた横断歩道で、目を落としたスマホの画面が真っ黒だった。そんなことをしたことはないけれど、知らぬ間に電源オフにしたのかも。すごく動揺していた。
今思えば、「結婚してるから」「家族以外とはLINEをしないので」など、LINE交換の断り文句はいくらでもある。
断りたい人ならしっかり断れていたと思う。
彼だから、交換した。
この時、動揺しながらも、わざわざLINEを聞いてくるなんて、この人は私が気に入ってるのかな、と感じた。
一度断ったのに、あきらめずに聞いてきたことに
、特別さを感じてしまった。
この見立ては、後に「タイミングが合ったから聞いたんです」と本人が否定。でも、その否定は、恋愛モードになっていた私を冷静にさせるためのものだった。
最近になってまた「いいと思ってなければLINEは聞かない」という言葉をもらって、嬉しさを噛みしめた。
今はすっかり、私の方が好きになっているけれど、このLINE交換の時まで彼のことはまったく意識していなかった。
彼もこのあいだ「俺の方がLINE聞いてますからね」と言っていた。
私の不倫は、彼のこの日の行動がなければ始まらなかっただろう。
でも彼は「恋愛する気がない」という考えの人。このことは了解していても、私の方は好きになってしまったので、何とも言えない気持ちになることがけっこうある。
(彼の、恋愛する気がないという考えについては、また書けたら書こうと思う)
7月のこの最初の日だけは、彼の気持ちが私の気持ちを上回っていた。それが貴重なことに思える。
ほんの2ヶ月前のことだけれど、思い出すとなつかしい。