彼の好きなところ

彼は私のパート先に週に数回働きに来る人だったのだけれど、異動により、もう来ないことになってしまった。また来る可能性もあるけれど、そうだとしても何ヶ月も先みたい。

彼がいなくなって初めての勤務日。働きにくくなったと感じた。彼は自分の仕事に加えて、親切心からパートへの指示出しもしてくれていた。彼がいなくなれば、指示がなくても、パート同士が協力しあって与えられた仕事を終わらせなければいけない。

もともと彼はいない日もあったから、そんな時は彼がいる時を知っている人で話しあって、真似してやる感じだった。

これからずっと彼がいないとなると、指示がないのが毎日になる。パートの中には同じパートから指示されるのは嫌な人もいるだろうから、指示ではなくて相談みたいな感じで、仕事が進むように話を持っていった方がよさそう。

この日、大きな問題はなかったけれど、雰囲気がよくなかったこと、これから先大変になりそうなことで少し落ち込んで、彼にLINEし、その後で電話でも話を聞いてもらった(彼は休日だった)。

彼に「せっかく楽しく働けてたのに」と愚痴を言ったら「もうそういうことはないと思わないといけない」と言われた。彼だけでなく、少し前には他の頼りになる人2人も異動になり、ずいぶん雰囲気が変わってしまった。彼を含めた3人がいなくなってしまった損失は大きいな、と実感した。

彼から電話で、仕事を早く正確にこなすコツとか、この人にはどういう対応をするといい、といった話を教わり、ありがたかった。私が最近覚えつつある仕事を実践でもやりたい、と言ったら「覚えたばかりだと遅いから周りから不満が必ず出ると思う、やるなら忙しくない時を選んでメンバーを見てやった方がいい」と。良かれと思って、すぐにでもやってしまいそうだった。助かる。

彼ほどではなくても、仕事ができるようになりたい。新しく聞いたコツもあったので、スピードもまだまだ早くなる余地がありそうだった。彼と話していたら、気持ちが前向きになってきた。

話している中で、彼のおかげで助かっていたのか、とわかったことがあった。仕事が遅い人に厳しく、退勤時にその日のメンバーがこなした仕事の数を数える癖があるAさんというパートさんがいる。

そのAさんに彼が「今いるメンバーでやるしかないんだから。じゃあ誰だったらいいの?」と聞いてくれたらしい。2人の名前しか挙がらなくて「それだけじゃ回せないよね、他の人とも組まなきゃいけないんだから、数なんて数えてもAさんもイライラするし数えられた人も嫌だし、やめなよ」といってくれたそうだ。

Aさんからは「どうしてイライラしないでいられるの?」と聞かれて「だって個人差があるでしょ」と彼は言ったそう。この個人差があることをわかってくれるところが、私が本当に大好きなところ。

自分が仕事ができて、仕事が遅い人やできない人に寛大な人ってなかなかいない。いるとは思うけど、私は彼が初めてだった。そこを尊敬してる。こんなに仕事ができるのに、できない人にも優しくて、素敵な人だな、と思ってた。大好きなところを、再確認できた。

私も、慣れて早くはなってきたけど、Aさんよりは遅くて、仕事量を数えられたらつらい立場。そういえば、Aさん、この前は数えてなかった。彼のおかげだったのか、と気づいた。彼にも「助かったぁ」と言ったら、嬉しそうにしてくれた。

「俺はそこまで考えて根回ししてるから」と自慢気だったけど、本当にすごいから、自慢していいよ、と思った。

Aさんは文句が多くて、私は一緒にいると他の人への文句なのに「きっと私がいない時は私が言われてるのかな」と思ったりしていた。彼に言ったら「でも、話してるってことは嫌いじゃないってことだよ、Aさんが話さない人もいるよ」と教えてくれた。 

私はもしかしたら彼がいなければ、この仕事は続いていなかったかもしれない。今の関係になる前、仕事が遅いうえにミスもあり怒られていた時から話を聞いてくれた(それがLINE交換した日)。一度もばかにすることなく、有意義な助言をしてくれた。本当にありがたい。  

仕事を終えて電車に乗る前のタイミングで電話していた。話も勉強になるし、彼の声も話し方も大好きだから、つい話しこんでしまった。彼から「エマ、もう帰らなくていいの?」と聞かれて、「帰らなきゃ」と電話を切った。

すっかり、エマ、という‘さん付け’じゃない呼び方が定着して嬉しいかぎり。きっと一緒に働くことがなくなるから、エマにしたんだと思う。前に「エマって呼びたいけど、仕事で出たらまずいからエマさんにしてる」って言ってたから。エマさんでもよくないけどね。(ちなみにエマは仮名で、本当の名前は特に似ていない2文字の名前です)

私は彼の呼び方はずっと名字にさん付けだけど、そろそろ変えてもいいのかな、と思っている。

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