特化する欧州デザインファーム
10月にイギリス・デンマークへ行き、現地のデザインファームで働く方々のお話を伺ってきました。欧州デザインファームの動向について気づいたことを少しシェアしたいと思います。
デザインファームのM&Aが一巡
2011年頃から外資系戦略コンサルティングファームなどによるデザイン会社の買収が本格化し、約10年が経過しました。
この約10年の間に以下のようなファームや広告代理店、メーカー関連の会社がデザインファーム を買収・出資して子会社化しております。
【コンサルティングファーム】
・アクセンチュア⇨FJORD(サービスデザイン )の買収
・マッキンゼー⇨LUNAR(デザインコンサル)の買収
・デロイト⇨Heat(広告クリエイティブ)の買収
・キャップジェミニ⇨Adaptive Lab(デジタルデザイン)の買収
【広告・ブランド】
・博報堂⇨IDEO(デザインコンサル)出資
・電通⇨frog(デザインコンサル )の提携
【金融】
・Capital One⇨Adaptive Path(UXデザイン)の買収
【メーカー / IT】
・日立⇨METHOD(デジタルデザイン)の買収
(買収したGlobal Logic社による買収)
・NEC⇨Snook(ソーシャルデザイン)の買収
(買収したNorthgate Public Service社による買収)
この背景にあるのは、デザイン思考を含む広義のデザインがビジネスのKPIを向上するというファクトデータが蓄積されてきたため、経営層の意思決定が行いやすくなってきたことだ言われてます(2013年)。
さらに、このデザイン投資効果ブームの経営・組織的な背景としては、
①モノ売りからコト売りの顧客体験価値を提案するビジネスモデルへの変革
②デジタルトランスフォメーションにおける組織の仕組みとしてデザイン(顧客中心、アジャイル、共創などのアプローチ)を取り入れる必要性
が指摘されています(Mackinseyの調査レポやコンセントさんのブログ)。
このブームが10年が経ち、大手デザインファームと呼ばれる会社は軒並み、買収されたり、出資を受けたりすることで、経営陣がクリエイティブ出身の人からビジネス畑の経営層へと置き換わりました。
これにより、業界の再編が促され、デザインファームで働くデザイナーは、創造的でクリエイティブな環境を求めて、別の会社を立ち上げたり、フリーランスになったりと、大移動が起きているという状況があるようです。
HorizontalからVerticalという流れ
そして、このデザインファームが戦略・ビジネス系の子会社化される一方で現在生き残っているデザインファームは、これらの会社と差別化を図るため業種・業界 x 専門性において特化を図っているようです。
例えば、戦略コンサルティングファームでは、基本的に業種・業界を問わず戦略 x デジタル x デザイン、そして実装・オペレーションまでをも含むフル装備で価値を提供しようとします。
そんな厳しい競争環境において、デザインファームはVertical(業界・業種に特化する)でのサービス内容、専門性を作っているところが増えているようです。
この流れは、SaaS(ソフトウェアサービス)の領域と類似していると思います。国内でSaaSと聞くと、Sansan(名刺交換)、freee(会計ソフト)、SmartHR(人事労務)、ユーザベース(経済情報)などのいわゆるHorizontal SaaS(業界を問わずに展開できるソフトウェアサービス)が今は主流です。
そして、現在立ち上がりつつあり、海外でも既に主戦場となっているのが、Vertical SaaSと呼ばれる業界特化型のソフトウェアサービスです。
例えば、建設テックと呼ばれる建設業の抱える課題(例:現場管理業務の生産性向上など)を解決するデジタルサービスを提供するスパイダープラスなどの会社があります。
この流れと同じように、デザイン業界でも業界ならでも課題を解決する痒いところに手が届くデザインサービスというトレンドがあると感じました。
例1) 重厚長大な業界 x デジタルデザイン
例えば、プラントや製造業などの伝統的な重厚長大な業界のDXに特化したデジタルデザインサービスを提供し始めている会社があったり。
もともと市場規模の大きい業界であるため、デジタル化への投資も大きく、この先伸びると言われています。このデジタル化の波に乗り、業界向けに、デジタルデザインの専門性に特化しているようです。
インフラや製造業の場合、関係するステイクホルダが非常に多く、例えば、プラントの場合、オペレーターだけでも化学や機械などの領域から、コントロールルームのような場所まで、様々な専門家がいます。それらのユーザーをリサーチしたり、うまく巻き込みながらサービスを作る特有の難しさがあるようでした。
Method - Strategic Design and Engineering
(日立により買収された英国企業により買収)
例2) 社会性の高い領域 x フューチャーストラテジックデザイン
もう1つの事例が官公庁など、社会性が高い領域における意思決定を支援するためのデザインです。
ストラテジックデザインと呼ばれる戦略的に新規事業の機会を見出したり、組織の進むべき方向やロードマップを可視化するようなデザイン領域がありますが、これに加えて、より未来志向なアプローチを取り入れていることが印象的でした。
戦略という未来に対する進むべき方向性を決めるという性質から、もともと未来に関する洞察が入っていることは間違いないと思いますが、より2040年や2050年といった未来のあるべき姿や、実現したい未来像を探索するという手法(speculative designはもう古い呼び方らしいが…)を取り入れているようです。
その背景にあるのは、現在の状態から出発して、周りを分析することで、差別化を促すという方法だけではなく、VUCA(不確実性が高く複雑な)時代での大きな変化に対応する、または、自らが創造していくような戦略を取る必要があるという企業や官公庁のトップの意思があるようです。
そのため、社会変化の兆しのファクト(例えば、先進的な価値観を持つ海外のライフスタイル動向など)をもとにしながら、サイエンスフィクションに出てくるような空想的な思索を交えて、望ましい、実現したい未来を描き、その未来を起点にしながら、戦略を考えるという手法が応用されているとのことでした。
NESTA - Research and Future Strategic Design(政府向け)
SPACE10 - Research and Design Lab(IKEAにより買収)
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今回は欧州出張中での気づきを少し紹介してみました。
特にロンドンはデザインに関する大学がとても多く、学生が非常にエネルギッシュな印象を受けました。この世界中から集まるトップクラスの学生たちが日夜、好奇心に目を輝かせながら切磋琢磨して、社会に出ていく。
その先にデザイン、クリエイティブ 界隈の人たちが非常に競争環境が激しくイキイキと働いている、そんな様子を肌で感じてきました。
日本でも既に起こりつつあるのでしょうが、少し先の未来(になればいいな)を見た気がしています。
最後まで読んでいただきありがとうございます。